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ただ試飲させるだけではなく「良質な原体験を創出する」100年以上愛されるカルピスのマーケティング

誕生から101年目を迎えた『カルピス』。時代に合わせて様々なニーズが求められている現代において、どのようにしてカルピスは愛され続けるブランドになったのか。その秘訣をアサヒ飲料株式会社の大越 洋二さんにお伺いしました。

アサヒ飲料株式会社
常務執行役員 マーケティング本部長 大越 洋二様

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早稲田大学卒業後カルピス社に入社。以来営業部門、マーケティング部門、国内事業部部門を経て、米国およびタイの合弁会社経営に携わる。帰国後アサヒ飲料に転籍し2015年より現職となる。


カルピスのマーケティングは継続性


ーー カルピスのマーケティングで大切にされていることを教えてください。

大越さん(以下、敬称略):始めたことをしっかりと継続していくことでしょうか。社内のメンバーにはよく、「マーケティングは継続と蓄積が大事」という話をしています。

ーー 継続というのは何年くらいのスパンで考えられているのでしょうか?

大越:カルピスの場合は10年です。

カルピスは2009年をフェーズ1として、「カルピスは牛乳をベースに乳酸菌でつくられた自然で健康的な飲み物」というメッセージでコミュニケーションをはじめました。これは、今飲料に求められているのは「日常生活から健康になれれば」という緩やかな健康ニーズだと考えているからです。

カルピスは牛乳をベースに乳酸菌で発酵させている健康的な飲み物なので、緩やかな健康を求めるお客さんに対して、的を射たご提案ができていると思います。

フェーズ1から10年経ちましたが、いまだにその流れ、延長線上で進化させていこうとしています。進化の流れでいうと、最近は「発酵」というワードもメッセージに加えました。

ーー カルピスのパッケージにも『乳酸菌と酵母、発酵がもつ力』とありますよね。「『カルピス』発酵BLEND PROJECT」など発酵に対して積極的に取り組んでいる印象がありますが、生活者の認識に変化はあったのでしょうか?

大越:変わってきていますね。年々、カルピスと発酵が繋がっている方が増えてきています。実は当初、私はメッセージに「発酵」を加えることに反対してました。発酵って、納豆や、漬物、味噌、醤油などのイメージがありませんか? 

そのイメージがカルピスについてしまうと、カルピスがもともと持っている清涼感とは別の方向に向かうのではないかと懸念しました。ですが、若いメンバーたちや担当のメンバーたちに「発酵は日本の誇るべき食文化なので、国民的飲料であるカルピスが発酵と一生寄り添っていくことが大事ではないですか?」と説得されたんです。それで納得した、という裏話的なエピソードがあります。

結果的に「発酵」を加えて凄く良かったです。カルピス愛に満ちたメンバーが一所懸命考えた結果、健康ニーズに対して新しい方向性が導き出されたのかな、と思います。

良質な原体験を創出する


ーー カルピスはお子さん方に向けたマーケティングにとくに力を入れられている印象があります。 こちらも長期的に継続されている取り組みなのでしょうか。

大越:そうですね。例えば、ひなまつりの時に全国の保育園、幼稚園にカルピスをお届けしてカルピスを飲みながら祝ってもらう取り組みをしています。この取り組みは1963年から毎年続けており、のべ1億3,000万人以上の園児たちにカルピスを届けてきました。

我々としては、ただカルピスを飲んでもらいたいわけではないんです。日本の伝統文化であるひなまつりを伝承していきたいという思いで続けています。

ステーション③


お子さん方への取り組みとしては、店頭ベースのもので「カルピス」ステーションというものも行っています。スーパーの店頭にカルピスコーナーをつくって、来店された親子にカルピスをつくってもらう企画です。店員さんがつくったものを飲むのではなく、親子でカルピスをつくって飲むという体験の場です。

お父さんお母さんは、お子さんがカルピスを一生懸命つくっている姿を応援したくなりますよね。これはお父さんお母さんにとって、お子さんの成長を愛情を持って見守るというシチュエーションになります。お子さんにとっては、自分で一生懸命頑張ってつくったカルピスを、お父さんお母さんに渡すという体験になります。

今お話しした2つの話のポイントは、ただカルピスを飲むという体験ではなく、「良質な原体験」をしていただくということ。店頭の話であれば、お父さんお母さんとお子さんが和気あいあいとカルピスをつくって一緒に飲むというのは、お子さんにとっては「良質な原体験」になります。そこが普通に試飲してもらうこととの大きな違いです。

また、体験は「ひと手間かけあうことを意識」しています。カルピスを水で割るというひと手間で、愛情を注ぐことに繋がると思いますし、ただコップに注がれるより、ひと手間加えてつくっているということに、注がれたほうも愛情を感じると思うんです。カルピスはそういった親子間のコミュニケーションにも役立つ飲み物だと考えているので、お子さんに対する取り組みに力を入れているという側面があります。

熱量を持ったお客様との関係づくり


ーー カルピスは100周年を記念してつくられたカルピスのファンページ「みずたまラボ」や、ソーシャルメディア活用に関するガイドラインなどでたびたび「傾聴」という言葉を使われています。カルピスのファンや、生活者の声を傾聴することをマーケティングで重視されているのでしょうか。

大越:我々は情熱を持った方々の声を傾聴することで、次のマーケティング施策のヒントを得ています。「みずたまラボ」はおかげさまで約7,000名の方にご登録いただいているのですが、この方々は本当にカルピスが大好きでカルピスに対する熱量を持っている方々なんです。というのも、「みずたまラボ」に登録する方法は、本当に好きな方でないと少し面倒に感じるつくりになっています。

そこを突破した方々なので、「みずたまラボ」のファンミーティングはとんでもなく盛り上がります。


ある大阪の大学生は、2時間のファンミーティングのために往復の交通費をかけてカルピスへの思いの丈をぶつけて帰って行かれました。世の中には、そういったカルピス愛に満ち溢れた方々がいて、私たちはそういった方々に支えられていると実感します。そして、そういった情熱を持った方々の声を傾聴することで新しい施策が生まれることがあります。

じゃぐち②


ファンミーティングから繋がった企画の1つに『カルピスじゃぐち』があります。これは蛇口を捻るとカルピスが出てくる専用の機械で全国9カ所を巡るという、夢のような企画でした。お子さんは好きなだけカルピスが出てくることに「キャーキャー」喜ばれて、お父さんお母さんはその様子を写真におさめるのですが、その表情がまたとても良いものでした。

傾聴をすることで、こういった企画に繋がることもありますし、また、カルピス愛に満ち溢れた方々の熱量が嬉しくて社内のメンバーの熱量もより形成されていく、ということもあります。

カルピスはコミュニケーション飲料


ーー カルピスでは継続や蓄積をしていくために、どういった指標を取り入れているのでしょうか?

大越:まずあるのは、ブランドに対するイメージです。美味しいという当たり前。そこに健康的というイメージを毎年積み上げていきたいと思っています。

もう1つ、我々はカルピスをコミュニケーション飲料と捉えています。これは、人と人とを繋ぐ飲料ということです。カルピスをひとりで飲むこともありますが、親子だったり、友だちだったり、飲むシーンに人との関係があって欲しいと思っています。人と人とを繋げる魅力がカルピスにはあると思いますし、その魅力を伝えていくことが大切です。

これに関しては、NPSを指標にしています。「あなたはこの商品を、友達や家族に紹介しますか?」という簡単な質問からブランドと人の絆の強さを計っていくものです。

カルピスとして強化したいイメージ、人との絆、ブランドとカルピスの絆、人と人の絆を示すNPSのスコアを毎年上げていく。これを指標としています。

ただそれ以上に大事なのは「売上が拡大しているか」です。きちんとお客さんに愛されているから買ってもらえて売り上げが伸びるわけで、愛され方が弱いと売り上げは減っていきますよね。お客さんに愛してもらって、売り上げをしっかりと確保することがビジネスを行ううえで当たり前のことだと思います。

ーー ありがとうございました。


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