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鶴かもしれない、の裏側かもしれない

2016年に初演され、何度も上演を重ねた作品。



「すべて0から作り直す」



今年2月に上演された一人に、二人に起きた出来事かもしれない感情と出来事。

そんな裏側の物語。



-始まり-   東京に住む俺。

今日は久しぶり雪がふった。20年ぶりらしい。売れないバンドマンの俺は「次の曲は雪がテーマでもいいかな」と適当に考えていた。
いつもと同じバイト帰りの新宿。いつもと違うのは変な人に会ったこと。
こんな寒いのに薄着で、人前にもかかわらずすっごい泣いてて、鼻水で顔がぐっちゃぐちゃな女の人。

なんで誰も声かけねぇんだよ。可哀想じゃん。俺より少し年上に見える。

関わるとめんどくさそうだな、とそのまま通り過ぎようとしたけど気がついたらずっと見ていた。

が、誰も声をかけない。俺と同じように面倒ごとに関わりたくないみたいだった。
仕方ねぇな。このまま帰ったらいこごちが悪い。


そう思って声をかけたが「大丈夫です!!」と言いながらずっと泣いていた。
偶然持っていたティッシュをあげた。受け取るときに何か言ってたけどうまく聞き取れなかった。最初は遠慮がちに使ってたけど、どんどん使い始めた。

泣き止む気配がなく、ティッシュ配りのお姉さんからもらった。
それでも足りなかった。ワンワン泣いて、この人何があったんだろう。

「ありがとうございます」と繰り返す彼女。きっと笑ったら綺麗なのに。


全然泣き止まないから、もう一度ティッシュをもらいに行ったらドン引きされたけど、ここまであの人にティッシュをやってしまった手前引き返せない。俺が泣かせたみたいになってる。
お姉さんがビビって逃げたけど、俺は追いかけた。体力だけは自信がある。
事情を説明し、わかってもらえたかは謎だが全部くれた。
どうせ全部配らなきゃだろうし、お互いにメリットなはずだ。


どれくらいティッシュをあげ続けただろうか。
ようやく泣き止みそうだったから、この後引きずるのが面倒でそそくさと立ち去った。
力なく笑うあの人、顔は鼻水でひどかったけどやっぱり綺麗だったな。


「よく笑う女にしとけ。ブスでも美人だ」
親父の言葉を思い出す。


最近、バンドのメンバーに彼女ができたせいか、余計なことを考えてしまった。

ない。絶対に、ない。



-始まり-   私の出会い。

やってしまった。お店のお得意さんを怒らせてしまった。最近ミスがなかっただけに悔しい。
信頼取り戻せなかったらどうしよう?
すっごく責められる。

なんとかしようと思って追いかけたのに、「このクズ!俺のことどうせ金ヅルにしか思ってないだろ!」と相手にもされなかった。
夕方の新宿、たくさん人がいたけど恥ずかしさよりよくわかんない悔しさとかで涙が止まらなかった。悲しかったのかもしれない。鼻水も出てきて「きっと今私ひどい顔なんだろうな」って思ったけどそれどころじゃなかった。

「・・・大丈夫ですか」


同い年くらいの男性が目の前にティッシュを差し出していた。
こんな優しそうな人に心配してもらえるなんて。
ほっといてもらえた方が楽なのに。余計惨めになって泣いた。

こんな白が似合う人になんかなれない。

恐る恐る数枚もらう。「ありがとうございます」と言ったつもりだったけど意味不明な言葉が聞こえた。
当然足りるわけもなく、貰い続けた。

迷惑そうな、困った顔のその人は「大丈夫ですか?」と連発しティッシュをずっと私の目の前に差し出していた。
最初は全然違うことで泣いていたのに、その優しさが嬉しくて泣いてしまってた。



気がついたら日は落ちていた。涙がやっと枯れた頃「じゃあこれで。元気出してくださいね」と手に持っていたティッシュを全部くれた。

いつの間にあんな大量に持ってたんだろ。


たくさんの真っ白な花束を抱え、家に帰る。


なぜだろう、あの人の声と顔が忘れられない。




-日常-   俺の場合、何も動き出さない。

次のライブの打ち合わせで久しぶり渋谷に来ていた。騒がしいのはあんまり好きじゃないけど、メンバーとの最寄りを考えたらここが一番都合がいい。
乗り換えで新宿を通るとき、昨日会ったあの人は大丈夫だろうか、と一瞬考えた。
俺らしくない、次のライブについて考えなきゃ。

お金か。家賃とか光熱費にばかり使われる。都会に住むのがこんなにかかるなんて上京した頃は思いもしてなかったな。
いつまで俺はここにいられるんだろう。
最近すごく焦る。ちくしょう。

改札から出ると目の前にハチ公が現れる。あいかわず人は多い。スクランブル交差点の人混みにも流されなくなった。都会に慣れたことに悲しさを覚える。

交差点の向こう側には打ち合わせで使うカフェがある。あいつらはいつもの窓際にもう来てるみたいだ。
決めなきゃいけないことが多すぎる。

なんかいいことないかな。
昨日人助けしたし、1つくらいいいことがあったっていいだろ。

多少、人にぶつかるのは気にせず早足で向かった。



-日常-   私、今度こそ何かが動き出しそうな気がする。

あの人、この駅をよく使うのかしら。結局もらったティッシュは帰った後も使ったけれど、1つだけ残しておいた。
もう一度会いたい。あんなに優しくしてくれた人なんていなかったもの。

ふと、頭ひとつぶん出た黒いケースに目がいく。
改札に入ろうとする横顔・・・


あの人だ!!!


少し困ったような顔。

声をかけようか。迷っている間に人混みに消えてしまいそうになる。
慌てて追いかけてしまった。気づかれないかな。





渋谷


わぁ・・・。すぐ後ろをついていかないと見失いそう。
ズンズンとスクランブル交差点を渡っていく。必死に置いていかれないように歩いたけどあの犬のところまで気づいたら戻されていた。
力を抜くものじゃないな。
なんだっけ、あの犬の名前。ど忘れしちゃった。

次の信号で一番にわたり、あの人が消えた消えた方向へ向かう。
ダメもとで道路沿いの店を見てまわる。

いた!!!カフェの窓際。困った顔しながら楽しそうに話してる。

夢、か。そんなもの私にはないから羨ましいな。

声、かけられなかった。何も持ってなかったし。


彼が出てくるのを待って、また一緒の電車に乗る。


乗り換えて各駅停車しか止まらない最寄駅から歩いて10分ほど。


彼の家を見つけた。  ”谷山 ひろかず” さん。


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