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アカデミアへの就職を決めたときの記録

最近は、少し下の世代がアカデミアへの就職活動を頑張っている声を聞きます。臨床心理学や精神医学など私の周辺分野だと、企業への就職が選択肢に挙がることは少ないですが、現場で働くための医療保健福祉系の資格を何かしら持っていて、臨床現場で働いたり、公務員として働いたりする選択肢は浮かびやすいです。そのため研究に関心が強い人でも、門戸の狭い大学や研究所などアカデミアへの就職活動は、運が良ければ…とちょっと弱気になりやすい気がします。(当然アカデミアを積極的に選ばない人もいますが)

就活を始めるまで

私の場合は一貫制博士課程(修了まで4年間)に進んだので、大学4年+博士前期課程2年+博士課程4年=10年もの学生生活を送りました。
非常勤では心理士や研究員としてすでに勤務していましたので、就職しなくてもある程度生活はできる状況でした。そのため大学院を修了したからといって、改めて就職するかどうかはD4の9月まで悩んでいました。

というのも、アイデンティティが「自殺予防の実践家/研究者」だったため、非常勤の掛け持ちの方がやりたいことができる気がしていたからです。学位を取ることが現実的になってきて自然とアカデミアの道を検討しましたが、教育や学務に時間がとられる大学教員は第一選択ではないとも感じました。身近にいる大学教員の忙しさたるや、すさまじく、自分がその環境で研究を続けていけるとはとても思えなかったからです。

アカデミアに応募するにあたり、A応募できそうな条件、B業績や実績、Cやりたいことの歪みも気になりました。私の学問的ベースを考えると、応募に適した分野は「臨床心理学」や「医療心理学」(A)になるのですが、実績は心理学というよりもピンポイントに「自殺予防学」(B)という感じで、公募では分野を選びづらかったのです。さらに、心理学の助教・助手のポストは最近、公認心理師の実習を担当するための実務経験や実習担当経験が3年以上必要と明記されているところが多く、条件に該当しませんでした。また、こういったポストで心理職を養成することは、やりたいことではありませんでした。(ワガママ…)

▲在野研究の道も考えましたが、人をごりごりに対象とする研究は、研究倫理上の観点から難しそうだと思いました。

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自殺は国にとっても重大な社会問題であるにもかかわらず、自殺予防の研究がしたい自分に合ったポストが存在しないことに不満を持っていました。

応募するに方針転換

とりあえずJ-RECINに登録し、片っ端からそれらしい公募の情報は届くように設定したものの、D4の4月~8月までは応募できそうな条件に該当しても「この仕事やりたくねえな…」「ここには住みたくねえな…」などと思うばかりで、何の就職活動もしませんでした。私は何かを決断するのがとても苦手なのでした。

転機は9月。博論を提出してから少し余裕が出て、今後のキャリアについて考える視野が少し広くなりました。そしてとりあえずいくつか公募に応募してみることにしたのです。目標は、アカデミアに就職すること(成果目標)ではなく、応募すること(行動目標)です。
理由の一つは「独立心」です。やりたいことが沢山ありいつまでも絞ることができなかったので、ある意味個人事業主的に働くことのできる大学教員は魅力的でした。
また、アカデミアへの就職が現実的・具体的にイメージできたことは大きかったと思います。これに利いた要因には①大学で自殺予防の研究に取り組んでいるロールモデルが傍に複数人いたこと、②院生の時点で自殺予防関連の仕事が多く振ってきていて自分の働く内容に需要があると思えたこと、③業績的に少しずつ自信が持てていたこと、④心理の同期の多くが先に研究者として就職していたこと、などが考えられます。
そんなこんなで9月末~翌年1月中旬までの間に、条件やタイミングの合った8大学に応募できました。

面接に呼ばれる

11月下旬に締め切りだった大学から、12月初旬に面接のお知らせが届きました。分野はだいぶ違いましたが、作文が比較的書きやすかったのと、経験が活かしやすい業務なのではないかと思っていた所です。(さらに、出身地の大学なので情けをかけてもらえるのでは?と思っていました)

12月下旬に意気揚々とオンライン面接を受けました。
(当時のノートPCだと通信環境が心もとなかったのですが、他に受ける場所がなく自宅で受けました)

面接で聞かれたこと

・志望理由
・自己紹介(経歴や資格、今している仕事の確認など履歴書に基づいて)
・送った論文の研究概要と内容へのつっこみ
・使える統計ソフトやできる分析
・オンライン授業などの経験
・入っている学会
【そのポストの業務に関して聞かれたこと】
・やってみたいことやできること
・考えている研究計画
・学生に身に着けてほしいスキル
・新しい人との人間関係
【履歴書に基づいて聞かれたこと】
・学生時代にやっていた活動
・学会発表や論文執筆の経験の確認
・今後考えているキャリア(任期付きポジションのため)
【雑談】
・暮らしは大丈夫?
・趣味は?
・自分の性格は?
【逆質問】
・こちらに聞きたいことはありますか?確認したいこと?

ところが残念ながら、面接者と話せば話すほど、「自殺予防の実践家/研究者」というアイデンティティが露わになってしまい、「これはもうこの公募と全くマッチングしなかったな」と思って面接を終えたのでした。その後1か月連絡がなかったため、落ちたものだと思って気持ちを切り替えました。

青天の霹靂

この間、もう一つ出していたところからも次に進めそうな連絡があったのですが、1月末までに決まらなければ新たに公募に出すのはやめて、元々勤務している所を次年度も続ける方向で検討していました。
その矢先、面接を受けた大学から内定の電話があったのです。「マッチングしなかったはずなのになぜ…⁈」という気持ちでいっぱいで、電話では「え…?」と微妙なリアクションをしてしまいました。非常勤のことが気になり、二つ返事で行きますと言うことができず、お返事に1週間の猶予をもらいました。

最終的には、この大学に拾っていただきながら、これまで勤務していた非常勤の仕事も続ける、という何とも欲張りな選択をしました。

アカデミアを選んでみて

「自殺予防の研究」のど真ん中から少し離れて、「アカデミアで研究者としてやっていく」ことを優先した1年間でしたが、結果として研究費をいただいて自分のテーマで研究することができており、ありがたく思っています。

現在の主な業務は、「アカデミックスキル」や「学習支援」に関連する活動であるため、自分の研究スキルにもそのまま活きている感覚があります。少し分野外なので、新しい学会に入ったり知識や思考の幅が広がっていったりする点も良かったなと思います。
ただし任期付きポストなので、引き続き今後のキャリアについて考える毎日です。若手の研究者としてステップアップを頑張っていこうと思います。


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