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「モリコーネ 映画が恋した音楽家」を観た私


音符は建築の資材に似ている。同じレンガで建てても建てる人が異なれば全く違う建物になる。モリコーネはそのレンガで聖堂をつくった。(うる覚えにつき意訳)


ドキュメンタリーで157分という長さに不安を覚えたのも束の間、すぐにスクリーンに引き込まれた。

中盤も中盤で尿意に襲われたのは痛い誤算だったが、彼のつくり出す音楽(そして人生)に何度も震え鳥肌が立ち、終いには涙していた。

音楽でじんわりとあたたかい涙を流す。モリコーネの魔法にかけられた157分となった。

モリコーネという作曲家を「ニューシネマパラダイス」「海の上のピアニスト」「天国の日々」といった、すでに知名度を獲得していた頃の作品でしか認識していなかった私にとって、もともとトランペット奏者であったことや、彼のキャリアのスタートが編曲者であったこと、「マカロニ・ウエスタン」のテーマをつくった人物で、長い間映画音楽に携わることに対して劣等感を抱いていたこと、には少し驚いた。

当時、映画音楽という存在がアカデミックな音楽とは対極にある、ある種邪道な立ち位置であったことは想像に容易いものの、彼は「好きこそ物の上手なれ」精神で映画音楽に向き合っているものだと、勝手にイメージしていたからだ。


妻マリアに10年で辞めると言っていたものが、10年、さらに10年…と最終的には生涯をかけた仕事になるというのもなんだか感慨深い。(人生って結局目の前のことをただがむしゃらにやり続けることで形成されていくものなのかな、そういうものなのかも、とか思いつつ。)

それは、もちろん彼にすばらしい才能があってアイディアマンだったということもあるだろうが、やっつけ仕事ではなくひとつひとつの作品に真っ直ぐに向き合い決して妥協しない姿勢で取り組んでいるから、自然とそうなっていったのだろう。(時にやけくそになって、ゴミをつくってやる!なんて言ってるのも可愛いし、ちゃんと作ってくるのもすごい。)

劇中でも言われていたが、映画が彼を追いかけていて彼に魅了されていたことは、2時間半しかモリコーネを観ていない私でも十分頷けた。

またモリコーネがつくった音楽として認識していた曲が、上記3作品のみだったため、劇中(え、これもモリコーネ?え、これもなの??)が多発。作品を知らずとも音楽は聞いたことがある(知っている)なんて状況を生む作曲家が他に存在するだろうか…

これも彼が、映画に、そして多くの後年のアーティストに愛されている何よりの証拠だ。


モリコーネが「巨匠」「天才」と呼ばれる人物に反して、彼のひとつひとつの言葉や音楽には親しみやすさがあり、音楽に精通していないこんな凡人にも妙な納得感を抱かせてくれる。あ〜わかるわかる、と何故か何度も頷いたり唸ったりしていた。

もちろん、彼がやってのけていることはとても高度かつ革新的なものであったことも分かる。(一般人に分からせてくれてるのもすごいんだよね、もはや。)あの名作たちが生み出されたのも、彼の卓越した音楽性ゆえに違いないのだろうけど、なぜか全く小難しくないのだ。気取ってないというか、飽きさせない親しみやすさが確実にそこに存在していた。


「モリコーネ自身が音楽」そう言わしめるマエストロ。決して芸術家ぶらず、とってもチャーミングで、妻をこよなく愛し、自分の信念を貫くその姿に、たった2時間半で私も恋してしまった。


本当に、愛おしい主人公だった。

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