卒業する、理系のあなたへ。AIではなく、あなたのフレーム問題とは?
〜情報処理学会理事からのメッセージ〜
卒業が、意味すること
修士論文や卒業論文を書き終え、就職するあなた、ご卒業おめでとうございます。
論文を書き終え、達成感でいっぱいでしょう。あなたのこれまでの努力に、心から敬意を表します。
同時に、新しい環境への不安も大きいと思います。
勉強(インプット)ではなく成果(アウトプット)が求められる社会の現場へ。
実戦への備えは十分でしょうか。不安が全くない、そんな人はほとんどいないと思います。
私も、これが不安で、いまだに大学に残っているクチです(苦笑)・・・。
大した問題ではありません。一つをのぞいては・・・
でも、安心してください。新しい環境にも、すぐに慣れます。これまで夜中に研究に没頭して、朝起きるのが苦手だったとしても、すぐに朝型に慣れます。
給料が入る嬉しさにも、すぐに慣れます。2年目から税金がかかって手取りが減る頃には、給料のありがたさはもう忘れているはずです。
そんなことは大した問題ではありません。ただ一つをのぞいては。
そのただ一つの問題とは・・・
人工知能のフレーム問題とは、汎用AIがある目的をこなす際に、その目的の前提条件や環境条件(フレーム)を決めることが難しいことを言います。例えばロボットに、材料が揃った状態で美味しい料理を作ってと言ったら、作れるかもしれない。でも本当は材料がないかもしれない、そもそも台所がないかもしれない、食べる人の好みが偏っているかもしれない。そんな前提条件(フレーム)を全て探索すると一気に複雑になる。
逆に、一旦フレームを決めてしまえば、その問題を解くのは、多くの場合、簡単なのです。
人間でもそうです。
一旦社会に出て、自分のいる環境(フレーム)で実力を発揮し、結果を出す、そして出世する。それはある意味、フレームにはまっているからこそ、合理的で、現実的な戦略です。組織に所属するからには、それを目指すべきです。
しかし、そのフレームにも、負の側面があります。
そう、悪い意味でも、型(フレーム)にはまってしまうのです。
ちょっと別の例を出してみます。
高いですよねぇ。では、次の話を聞いてください。
今まで、大学の先生とは気軽に話せていたかもしれません。しかし、これからはそうとも限りません。先生に相談するなら、1時間5万円かかります(もちろん、卒業生の相談に本当にお金を請求する先生は一人もいないでしょうが)。
そんな中、気軽に専門家と意見交換ができる場がある学会、その会費が1万円。
・・・どうですか?安く感じませんか?
そう。あなたはこれまでにすでに、先生に気軽に相談できる大学というフレームにはまっていたのです。これと同じことが、会社に入ったら起きてしまいます。
さらには最近では、職場でも、働き方改革や、コロナによるテレワークで、業務に直接関係あること以外の情報交換も、少なくなってきました。そうすると余計に、限定された型(フレーム)にはまってしまう、しかもそれが最初の社会経験だから、気づかない。
でも、今ならまだ、そのフレームにはまっていないのです。
その、まだフレームにはまる前に伝えておきたいことがあります。
今すぐ退会してください。さもないと正規の年会費が請求されます。
あなたがもし、情報処理学会の学生会員であれば、ご注意ください。学生会員制度は、あなたが卒業と同時に正会員に移行して、正規の年会費が自動的に請求される、という、ちょっとあざとい(?)しくみになっています。
ですから、会員を代表する理事として、アドバイスします。
もし学会がもはや必要ないと思うなら、すぐに退会届を出しましょう。以下に退会のためのリンクをおつけします(親切!)。
しかし、もし、上記のような社会に出てからのあなたのフレーム問題が気になるようでしたら、次のことを実行してみてください。
これであなたは、会社のフレームの他に、最先端でクオリティの高い、もう一つのフレームを持つことができるはずですよね?
2,513名のアンケートから見えてきたもの
私が委員長を務める情報処理学会 広聴マーケティング小委員会では、2021年8月から9月にかけて、会員を中心としたアンケートを行い、2,513名から回答をいただきました。
その回答を分析して見えてきたのは、
ということでした。つまり、学会というものは、
最新の情報を得る
だけではなく、
専門知識のある人と交流する
自らが参加、発表、主催していく
ことで、専門的な人的ネットワークと環境、つまり質の高いあなたのフレームを構築する場だ、ということが分かってきました。
逆にいうと、もしあなたが、このような活用をされていない、または今後することもない方は、おそらく学会を十分に活かしていただくことができません。今すぐ退会されることを、お勧めします。
「あなたのフレーム問題」をもう一度
最後に、職場というフレームと、学会というフレームを、もう一度比較しておきます。
1. 職場の人間関係は、根本的には利害関係に基づくもの
そんなことはない!という意見ももちろんあるでしょう。ですが、表向きは親切そうな取引先でも、会社の利益に相反するような関係は、成り立たないでしょう。
でも学会での付き合いは、根本的には、社会の発展のため、という崇高な理想を建前としますので、利害関係を超えた関係を築くこともできる、と考えます。私にもそういう関係の外国の研究者が、たくさんいます。
2. アカデミアと企業の、研究の違い
スタートアップ企業の成長のステージとして、次のような図を見たことがあるかもしれません。
スタートアップ企業は、シードからグロースに向けて成長を目指していきますが、あなたが大企業に就職するのなら、この右端のさらに右をやることになります(もちろん例外はあると思います)。
一方で、大学や、学会で研究として話されていることは、シード(種)にもなっていない、左端のさらに左です。これを経験することは、もう普通の企業ではできません。
同じような研究の作業だとしても、位置付けとしては、技術が社会に活用されるまでの、両極端の違いがあるとも言えます。
3. もし転職するようなことがあれば、参照されるのは?
仮に、あなたが将来転職を考えたとしましょう。その際に転職先があなたの名前をネット検索して、引っかかるものはなんでしょうか?
そうです。あなたが学生時代に発表した、学会発表です。
もしこれからも学会活動をされるのであれば、そこでの活動が検索されるのです。
検索に引っかからないのであれば、逆にまずいです。大学で、何をしていたんですか?という話になるんですから。
そうです。あなたはもうすでに、学会のフレームからは逃れられないのです。
もしあなたが、「学生時代、まずったかな」と思うなら、今からでも遅くありません。学会で、活躍してみませんか(笑)?
もし、これからでも学会というフレームを有効活用してやろう!という気持ちがあるようでしたら、引き続き、自信を持って正会員に移行していただければと思います!
詳しくは以下をご覧ください。7月までに正会員の会費を納めれば、特典があります。
P. S. 広聴マーケティング小委員会としては、これから、就職した人の同窓会や、お悩み相談会など、いろいろな交流の場を考えてみたいと思っています(ご要望やアイデアがあれば、ぜひコメント欄にお願いいたします。)!
(この記事は、情報処理学会広聴マーケティング小委員会で作っていますが、書いている内容は、委員長の、個人的な意見です。)
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