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《ウクライナ情報》 ボルシチ

文・撮影/市川路美 

ウクライナの郷土料理 
美容と健康に効果があるスーパーフード、ビーツをふんだんに使った冬の定番スープ 

ボルシチをロシア料理と呼ぶのはやめましょう

皆さんは世界三大スープをご存知ですか。中国のフカヒレスープ、南フランスのブイヤベース、タイのトムヤムクン。でも実際はこの3つのスープに絞り切れなくて、「世界三大スープは4つある」とされるのが世界的な認識です。
その4つめのスープがボルシチです。

多くの人達がボルシチと言えばロシアを思い浮かべるかもしれません。でもボルシチはウクライナ発祥の料理。ウクライナとロシアは昔から仲が悪く、現在に至っても国境付近で紛争が続き、ロシアがクリミア半島を侵攻した事によって両国間の関係は昔以上にこじれました。

いかにもウクライナなパステル色に塗られた団地

特にウクライナの人達は、常日頃ロシアに虐げられていると感じていて、殆ど憎しみに近い感情を持っています。だからこそウクライナの人達は自分達の郷土料理であるボルシチが、ロシア料理として世界的に認識されているのが悔しくてたまりません。

うっかりウクライナの人達の前で「ロシア料理を代表するのはボルシチ」なんて不用意な発言をしてしまうと、ウクライナの人達の気分を害したり、傷つけてしまうので注意が必要です。そのレベルまで両国間の関係は悪化しているのです。

ボルシチとはどのような料理なのでしょうか。ウクライナで生まれロシアに伝わり、その後東欧を中心に広い範囲の国々にまたがって食べられるようになったスープです。味噌汁のような存在で、どこの国でも「美味しいボルシチが作れるようになったら良いお嫁さんになれる」と言われています。

各家庭にその家のボルシチがあり、味付けが異なります。使っている具材に関しても全く決まったレシピが無く、冷蔵庫にある残り物を全部入れたスープがボルシチ、との認識でいいかと思います。とは言え基本的にはどの家庭でもビーツを使っているので、赤い色が特徴のスープです。

ビーツはその真っ赤に燃えるような色から日本語で「火焔菜」と呼ばれています。一見赤カブのように見えますが、アカザ科でホウレン草の仲間。

ビーツ

奇跡の野菜と呼ばれるほど栄養価が抜群で、成人病やガン予防に効くとされています。健康面だけでなくアンチエイジングの効果も期待されていて、今とても注目されている野菜です。寒い冬には体が温まるスープが一番。

今回は脚光を浴びているビーツをふんだんに使った本場ウクライナ風のボルシチを、ウクライナの首都にあるキエフ大学に通う学生達に作ってもらいました。

キエフ大学の皆さん
ウクライナのスーパーにて

●ボルシチの材料
 豚肉 300g
  (牛肉や鶏肉でも大丈夫。何ならミックスさせてもOK。基本的に冷蔵庫の中にある余った肉を使います。)
 ジャガイモ 大3個
 ニンジン 1本
 キャベツ 1/6個
 玉ねぎ 1個
 ニンニク 1片
 ビーツ 1個
 レモン汁 適量
 豆のトマト煮 1瓶
 ローリエ 1枚
 塩、胡椒 適量
 サワークリーム たくさん
 調達可能ならディル、コリアンダー、パセリなどの生ハーブ 適量
 ラード(なければサラダ油) 適量

●ボルシチの作り方

1 ジャガイモの皮を剥き、適当な大きさにカットし、水にさらしておく。

2 ビーツとニンジンの皮を剥き、千切りにする。ウクライナでは包丁を使わず、おろし機を使って細かく千切りにするのが一般的です。

注意:ビーツを切るとまな板や包丁が真っ赤に染まります。長い時間置いてしまうと落ちにくくなるので、ビーツを切る際に使用した調理器具は直ぐに洗ってしまいましょう。

3 キャベツと玉ねぎを包丁で千切りにする。

基本野菜は千切りがウクライナ風

4 ニンニクは潰す。

5 底の厚い鍋いっぱいに水とローリエを入れ、豚肉を加えて火にかける。

6 沸騰し始めたら弱火にし、丁寧にアクを取りながらじっくり煮込む。

この煮込み時間が長くなればなるほど美味しいスープが出来上がります。圧力鍋を使って時短で仕上げてもいいのですが、コトコトじっくり煮込んだ方が優しい味となるようです。

7 フライパンにラードを入れ、溶けだしたら玉ねぎを入れて炒める。本場ウクライナの味は豚肉寄り。炒める時も豚のラードを使った方がより本格的な味になりますが、ラードがなければサラダ油でも大丈夫です。

8 玉ねぎが黄金色になったらジャガイモを加え、全体的に油を馴染ませたらスープの鍋に投入する。

9 空になったフライパンに再びラード、またはサラダ油をひきニンニクを炒める。千切りにしたビーツとニンジンを弱火でしなっとするまで炒める。

最後にレモン汁をかけてから鍋に加える。

10 瓶詰の豆のトマト煮を入れる。豆ではなくトマト味が重要なので、トマト缶や生のトマト、トマトジュースでもOK。

本物の素敵なお嫁さんになるには瓶詰の煮豆なんて邪道だから、これは学生版レシピかもね、との事でした。

11 じっくりコトコト20分ほど煮込む。

12 千切りしたキャベツを最後の方に入れる。キャベツは歯ごたえが大切なので煮過ぎないように注意しましょう。

13 塩、胡椒で味をととのえる。最後に少しだけ砂糖を入れるのが秘訣なのだそう。理由は分からないけれどおばあちゃんが言ってたし、何となく味が優しくなるから、との事でした。

14 生ハーブがある場合は、火を止めてから最後の最後に刻んだハーブを入れる。

15 直ぐには食べず、そのまま放置し余熱で更に煮込む。

ボルシチは大鍋で大量に作ります。そのまま冷蔵庫に保存し、食べる際に器に盛ってレンジでチンして食べるのが基本なのだそう。そして忘れてはならないのがサワークリーム。東欧の料理は本当に何にでもサワークリームを合わせます。ボルシチにも勿論サワークリーム。クリーミーさと酸味が加わって更に美味しくなります。

サワークリーム投入前
サワークリーム投入後

サワークリームが入手出来なかったら、水切りしたヨーグルトでも代用が可能。でも、それだと少しクリーミーさが欠けてしまうかもしれません。

体と心を温めるスープであって欲しい

ウクライナの冬はマイナス20℃に冷え込みます。そんな厳しい寒さを乗り切るのに欠かせない、ポカポカと体が芯から温まるスープ、ボルシチ。煮込み時間はかかりますが、基本的には肉と野菜を切って煮るだけの簡単スープなので、是非皆さんもおウチで本場の味を試してみてください。美容と健康に良いビーツを思う存分摂取出来る料理でもあります。

ウクライナから生まれたスープが、ロシアの人達の体と心も温めて、両国の間に早く平和が訪れる事を願ってやまない私です。


(2022年3月31日発行「素材のちから」第44号掲載記事)

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