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〈Chef's choice〉 冷凍フルーツピューレの先駆者「レ ヴェルジェ ボワロン」
文・撮影/長尾謙一
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何を選び、どう使うか。
〝これはいいね〟とシェフが選ぶ素材を
料理にどう展開するのか……。
素材を軸にしたシェフの読みをひも解きます。
〈今回の素材〉
レ ヴェルジェ ボワロン 冷凍フルーツピューレ
(素材のちから第37号より)
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香料、保存料、増粘剤を一切加えない品質は、酸味、甘み、香り、風味、色、テクスチャー、どれをとっても自然の風味
「レ ヴェルジェ ボワロン」の冷凍フルーツピューレには、発売以来50年という長い時間を積み上げてきた安定感を感じますね。
〝シェフズ チョイス〟の2回目はフランスの冷凍フルーツピューレ「レ ヴェルジェ ボワロン」。高品質の冷凍フルーツピューレを使うとデセールや料理にどんなメリットがあるのだろう。
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レストラン ラフィナージュ(東京・銀座)
オーナーシェフ 高良 康之 さん
──シェフは「レ ヴェルジェ ボワロン(以下、ボワロン)」をお使いと伺いましたが、いつ頃からでしょうか?
ホテルメトロポリタンでこの仕事をはじめた時からです。それまでフルーツのムースなどはフレッシュでつくるものだと思っていました。
一番最初に使ったのがフランボワーズかな。こんなのがあるんだって感動した覚えがあります。ベリー類で知っていたのはイチゴとブルーベリーくらいでしたから。フランボワーズは見たことないし、「グロゼイユって何?」みたいな世界でしたね。
今では冷凍フルーツピューレも47ものアイテムが日本に輸入されているそうで、無加糖のアイテムもありますから、つくるものによって振り分けて使えるのはとても便利です。
──長年お使いになって「ボワロン」のいいところはどこでしょうか。
味のブレがない確かな品質を安定して供給してくれることですね。冷凍フルーツにとってそこが最も大切なコンセプトのはずです。
「ボワロン」はもともとフルーツの卸売業からはじまった会社だそうですから、完熟したフルーツの一番いい状態を目利きすることにプライドを持っているのでしょう。
彼らの冷凍フルーツピューレはワインやシャンパンのように複数のピューレをアッサンブラージュ(ブレンド)して色や香りや味わいを彼らの基準にととのえます。そして、それを壊さないよう熱のダメージを与えない瞬間低温殺菌法で仕上げるのだと伺いました。
「ボワロン」が世界で最初に冷凍のフルーツピューレを開発したのが1970年と聞いていますから50年間ずっとこのスピリットを貫いているのですね。
──冷凍フルーツピューレをどのようにお使いでしょうか。
フランス料理は鴨のオレンジソース煮のように料理にフルーツを使いますから、生のものと使い分けながら、フルーツ独特の水分、酸味、甘みなどをアミューズからデセールまで幅広く使います。
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冷凍フルーツピューレにはフレッシュでは手に入りにくいものを好きな時に使えるメリットがありますし、凄くいい品質のものはフレッシュの代わりに使うこともあります。ですから、無加糖タイプが発売された時は料理への広がりができて凄くうれしかったですね。
「レ ヴェルジェ ボワロン」をこう使う①
フレッシュがない時期でも、フレッシュに勝るとも劣らない冷凍フルーツピューレでイメージ通りの料理がつくれる。
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──料理に使いたいフルーツがあっても、収穫時期でなければフレッシュのものは手に入りませんが、冷凍フルーツピューレなら1年を通していつでも必要なものが使えますね。
その通りです。今回はまず、春カブの料理をつくってみました。
煮崩れるくらい水分が多く、やさしく甘いこの時期のカブには〝ベルガモット〟を使いたいなとイメージが湧きました。レモンでもライムでも柚子でもなくて、花のような甘さと清々しさを持っているベルガモットが絶対に相性がいいと思ったのです。
春カブの白い部分をベーコンとブイヨンで炊いて、ミキサーで回して白いブランマンジェをつくり、カブの葉は牛乳などと合わせてアイスクリームにします。
お皿には春カブの葉の青臭さを上に、春カブのやさしい甘さを下の方に分けて盛り付けますが、そこには口に入れた時に両方をつなぐアクセントとして酸味が欲しいのです。
しかし、強い酸を入れてしまうとアイスクリームの緑色は飛びますし、強い酸味は上下を無造作に一体化してしまいます。
そこで、ふたつをなめらかにつなぐのがベルガモットです。やさしい酸味のアクセントとして「ボワロン」の〝ベルガモットピューレ〟を使ってヴィネグレットをつくりました。これをアイスクリームには垂らさず、ブランマンジェの方だけに少し垂らしておきます。
このお皿の場合、お客様はほとんどの方がアイスクリームから召し上がります。カブの葉の独特の苦味と青臭さが口に広がったあと、今度はヴィネグレットを垂らしておいたブランマンジェを口に運びます。
春カブのやさしい味わいとヴィネグレットの酸味を感じたその瞬間、〝ベルガモット〟が口の中に残っている春カブの葉の風味とつないでくれるのです。
さらにゆっくりと溶けていくアイスクリームとブランマンジェの食感のマリアージュも楽しめます。
もともと私はアールグレイの香りづけに使われるベルガモットの洗練された香りが好きなのですが、国産のフレッシュは採れる時期が限られていて、今の時期には収穫がなくて使えません。
残念、とあきらめようとしたら「ボワロン」のアイテムの中に見つけました。〝ベルガモットのピューレ〟は「ボワロン」にしかないのではないでしょうか。冷凍フルーツピューレのよさは、まさにこういったところにあります。こうして春カブにベルガモットの香りを組み合わせることができたのです。
この料理は最初のアミューズとしてお出ししますが、食べ終えたあともしっかりとベルガモットの香りの余韻が楽しめて、まさに春のおもてなしにふさわしい一皿です。こうした微妙なニュアンスの表現にも「ボワロン」の冷凍フルーツピューレは品質で応えてくれます。
「レ ヴェルジェ ボワロン」をこう使う②
ジューシーなカニには、甘みが少なく上品で酸味のあるポムベルトピューレを組み合わせる。
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──カニにはポン酢と決めつけていましたから、青リンゴのピューレを組み合わせるとは思いませんでした。
カニが持つ甘みはすごく穏やかなので、ビネガーは使わずにやさしい酸味と合わせます。
このズワイガニの料理は「ボワロン」の〝ポムベルトピューレ〟とズワイガニの殻でとった出汁でつくった青リンゴのゼリーシートの上に、スチームボイルしたズワイガニを積み上げています。キャビア、セルフィーユ、エストラゴンなどをその上に飾り、ハーブを使ったソースとズワイガニの殻でとったクリームのソースとカリフラワーのソースを添えました。
レモンなどの柑橘はそれ自体の風味が意外とカニの本質を消してしまいますから青リンゴを使いました。青リンゴの酸味はカニの旨みを引き立てるには丁度よく、アガーでつくったゼリーは口の中で溶けずに、噛むことでカニの繊維と青リンゴの酸味が合わさってカニの甘みを感じます。
こうして、酸味の違いを選べるのも、「ボワロン」にたくさんのアイテムがあるからです。
「レ ヴェルジェ ボワロン」をこう使う③
グリオットピューレが持つコクのある甘みとさわやかな香りがフォアグラを軽快なメニューに仕上げる。
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──フォアグラは重たいイメージの食材ですが、グリオットチェリーの風味が軽さを与えてくれるのですね。
そうです。フォアグラはもともと甘めのフルーツとの相性がいいんです。でも、フォアグラはレバーなので、あまり酸っぱいものがいきなりくると生臭みが浮いてしまいます。そこでフォアグラの上にはグリオットチェリーの風味を加えたソースをのせます。
ソースはポルト酒、赤ワイン、赤ワインビネガーを半分くらいまで詰めて、そこに「ボワロン」の〝グリオットピューレ〟を加えて濃度を出して仕上げます。
グリオットチェリーの風味はソースに加えた素材の酸味や甘み、そして、香りを融合してくれて、広がってくる香りに抜け感が出てきます。
春から夏にかけてフォアグラのどっしり感が苦手な方もいらっしゃいますが、その時にこうした酸味が入っていて香りがあるものと一緒に合わせると意外と軽快に食べてもらえます。フルーツの風味は料理にはとても大切な構成要素です。
「レ ヴェルジェ ボワロン」をこう使う④
濃厚なオレンジコンサントレで、ショコラに詰めるオレンジのクリームをつくる。
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──中からオレンジのクリームが出てくるフォンダンショコラは初めて見ましたが……。
フォンダンショコラは本来一つのチョコレート生地を焼いて、切ったらとろりと生地が流れる絶妙な火入れでつくるものです。いつの間にかアレンジされてチョコレートの生地の中にガナッシュを入れて焼くようになりました。
それならばいっそのことガナッシュではなくて、チョコレートと相性のいいオレンジのクリームがでてきたらおもしろいと思ってつくってみました。
「ボワロン」の〝オレンジコンサントレ〟を使いました。
〝オレンジコンサントレ〟500gをつくるためにオレンジを約8kgも使っているのですね。とても濃厚です。私たちがキッチンでフレッシュなオレンジの果汁を煮詰めてもこういう状態にはなりません。風味がよくてちゃんと酸味も残っていながら、さらに濃縮感があります。
砂糖と水飴と〝オレンジコンサントレ〟を鍋の中で沸かして仕上げました。オレンジの濃厚なクリームがとてもおいしいです。
こうして「ボワロン」の冷凍フルーツピューレを使って料理とデセールをつくってみると、発売されてから50年という長い時間を積み上げてきた安定感を感じますね。
(2020年3月31日発行「素材のちから」第37号掲載記事)
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