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《ドイツ情報》 バイエルン地方で楽しむ美味しいドイツ料理

世界で一番有名な城とドイツで一番の美食の地 
世界中からの観光客を集めるノイシュヴァンシュタイン城と、世界中の人々を魅了するドイツの郷土料理 

文・撮影/市川路美 

一人の男の夢が詰め込まれた城

かつてドイツには、2万を超える城がありました。その多くは戦争などで破壊され、跡形もなく失われてしまったのですが、現在でも1000近くの城が残っています。

ドイツの数ある城の中で、一番有名で一番美しいとされるのが、ルートヴィヒ2世が造ったノイシュヴァンシュタイン城。美しい白亜の城はディズニーランドのシンデレラ城のモデルとなった事で一躍知名度を上げ、世界中から年間130万人が訪れる、ドイツ最大の観光名所となっています。ドイツ三大美城の一つですが、ドイツの枠を超えて、世界で一番美しく有名なお城なのではないでしょうか。

ノイシュヴァンシュタイン城

ノイシュヴァンシュタイン城は、ルートヴィヒ2世が心酔したワーグナーの世界を具象化した中世風のお城。この中世風というのが最大の特徴で、実際はバリバリの近代建築です。

見た目が古めかしい中世の城なので多くの人が誤解するのですが、城の着工は1869年、既に産業革命が始まっていた時代です。その為セントラルヒーティングによる暖房、自動回転串グリルがあるキッチン、電話、自動水洗トイレなど、当時のハイテクを目いっぱいに詰め込んだ鉄骨コンクリートの城となっています。

「古きドイツの騎士の城」がコンセプトなので、弓矢や騎馬兵などを想定して造られているのですが、19世紀にそのような敵は存在せず、そもそも城を造る事自体がナンセンスな時代です。城を造る最大の理由であった「軍事拠点となる要塞」の役割は全く無く、政治活動に使われる宮殿の意味合いも持たず、ルートヴィヒ2世の個人的な趣味だけを追求して造られました。

見た目だけを重視した完全なるハリボテの城なので、建築家ではなく宮廷劇場の舞台美術を担当していた画家に城全体のデザインを任せています。生前ルートヴィヒ2世は「私が死んだらノイシュヴァンシュタイン城を破壊せよ」と遺言していました。自身の夢の結晶であるノイシュヴァンシュタイン城を、永久に自分だけのものにしたかったからです。

実際にはルートヴィヒ2世の死が確認されると直ぐに工事が中止され、未完成部分を残したまま一般公開されるようになりました。ルートヴィヒ2世は時代にそぐわない城造りに熱中し、破滅的な浪費を繰り返した為「狂王」と呼ばれています。

一人の狂人が造り上げた、個人趣味の甚だしい時代錯誤の城。美しさの裏に隠された狂気に惑わされてしまうのでしょうか。ノイシュヴァンシュタイン城は直ぐにドイツ人だけでなく、世界中の人々を魅了する一大観光地となりました。

誰からも愛されるバイエルン州の郷土料理

ノイシュヴァンシュタイン城は、ドイツ連邦共和国南部のバイエルン州にあります。多くの名所を抱える、ドイツで一番人気の観光地であると同時に、ドイツの経済を支える中心地です。更には、ドイツで一番の美食の地としても有名なんです。

バイエルン州はドイツにしては温暖な気候、そして肥沃な大地を持つので、小麦を筆頭に多くの農作物を作っています。食材が豊かな土地には美味しい料理も育ちます。ドイツ料理と聞いて多くの人が思い浮かべるのが、バイエルン州の郷土料理なのです。

そんなグルメな土地を代表する料理が、シュヴァイネハクセ(Schweinshaxe)と呼ばれる骨付きの豚肉のロースト。数あるドイツ料理の中で、個人的に一番美味しい料理だと思います。私だけでなく、多くの人が同じように思うようで、今ではドイツを代表する料理にもなっています。

シュヴァイネハクセ

ドイツ料理の基本は肉で、特に豚肉を使った料理が多く、シュヴァイネハクセはその代表格。美味しいだけでなく、ボリュームも抜群です。豚の膝の部分が骨付きで丸ごとお皿にどーんとのって出てくるので、豪快で迫力があり観光客にも大人気の料理です。

ドイツ人は老若男女ペロリと一人で食べてしまいますが、体の小さい日本の人達なら一人では食べ切れない量かと思います。外側はパリパリになるまでローストされ、中の肉はとても柔らかくてジューシー。絶対にお勧めの、とても美味しい料理です。

シュヴァイネハクセと人気を分けるのがシュヴァイネブラーテン(Schweinebraten)と呼ばれるドイツ風ローストポーク。オーブンを使って低温でじっくり長時間かけて焼き上げた豚肉の塊を薄く切り、ビールをたっぷり使って作るソースをかけて食べます。

シュヴァイネブラーテン

シュヴァイネハクセに比べればボリュームが少ないので、今日はあまりお腹が空いてないからシュヴァイネブラーテンにするよ、的な感じでオーダーする人が多いです。

好き嫌いの分かれるバイエルン州の伝統料理

同じくバイエルン州を代表する有名な伝統料理でありながら、前述の2つの料理とは一線を画すのがヴァイスヴルスト(Weisswurst)と呼ばれる茹でるタイプの白いソーセージ。

ヴァイスヴルスト

細かく挽いた子牛の肉と豚肉にパセリ、ナツメグ、レモン、玉ねぎ、カルダモン、ショウガなどで味付けして腸詰にしたソーセージで、フワフワした柔らかい食感が特徴です。

バイエルン料理の二強であるシュヴァイネハクセとシュヴァイネブラーテンはドイツ全土に広まり、ドイツ人だけでなく世界中の観光客からも絶大な人気を誇る料理なのですが、ヴァイスヴルストはかなり好き嫌いが分かれます。あまり肉っぽさを感じない珍しいタイプのソーセージなので、その独特の味と食感が嫌いという外国人が多いようです。実は北部に住むドイツ人も苦手としている人が多い料理なのですが、勿論バイエルン人達は大好きです。

とても傷みやすいソーセージなので、ヴァイスヴルストには教会の12時の鐘の音を聞かせるなと、昔から言い伝えられてきました。その伝統を重んじて冷蔵技術が発達した現在でも、白ソーセージは朝ごはんとして食べる人が多いです。

ソーセージにケチャップなどは絶対に使わず、バイエルン地方特産の甘いマスタードを付けて食べます。

甘いマスタード

ソーセージにビールは付き物なので、バイエルン地方では朝ごはんからビールを飲みます。ドイツ人にとってビールは水と同じ扱いなので、何の問題もありません。

ヴァイスヴルストには、必ずヴァイスビア(白いビール)を合わせるのがしきたりです。ヴァイスビアもバイエルン地方で生まれました。通常のビールより薄い色をしているので、白いビールと呼ばれています。

ヴァイスビア

一般的にビールの原料は大麦麦芽なのですが、白いビールは小麦麦芽を多めに加えて軽い飲み口を出しているのが特徴です。麦芽の焙煎を軽くして苦みも抑えるので、スッキリと爽やかなのどごしのビールとなります。

そのためバイエルン地方の人達は、夏は絶対的に白いビールを飲みます。どことなくフルーティーな香りと甘さもあるので、特に女性に大人気のビールです。

狂王を育んだ城

ノイシュヴァンシュタイン城の隣には、廃墟になっていた12世紀の古城を改装し19世紀に完成したホーエンシュヴァンガウ城があります。ルートヴィヒ2世が造った城ではありませんが、幼年時代を過ごした城です。

ホーエンシュヴァンガウ城

世界的に有名なノイシュヴァンシュタイン城だけを見て、この城はスキップされる事が多いのですが、是非とも訪れて頂きたい場所。当時の王族の暮らしぶりがよく分かる城なので、ルートヴィヒ2世の現実離れした城と比較しながら見ると興味深いかと思います。何よりもルートヴィヒ2世の原点となる場所です。

ルートヴィヒ2世は、この城からノイシュヴァンシュタイン城の建設工程を見守っていました。ホーエンシュヴァンガウ城で彼の目線から城を眺めれば、何か違った形に見えてくるかもしれません。


(2021年12月28日発行「素材のちから」第43号掲載記事)

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