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《中国情報》 ロックダウンに苦しんだ上海市民が今一番食べたい料理

外食好きな上海人には、なおさら辛かったロックダウン

文・撮影/市川路美 

世界のロックダウン事情

新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、世界中で実施された外出や行動を制限するロックダウン。私が住んでいるスペインでも、生活に必要不可欠な一部の職業に就く人、病院、薬局または介護などに行く人以外の外出が禁止となり、違反すると最大で360万円の罰金となりました。食料品の買い出しは、家族につき1名のみ、週に1回程度。スーパーの出入り口に警察官が張り付き、買い物をした分量がチェックされ、一週間分に満たないような少量だと厳重な注意を受けました。

外出の自粛を要請するにとどまった日本に比べると、かなり厳しい規制ではあったのですが、スペインより更に厳格だったのが「ゼロコロナ政策」を掲げる中国。その中でも上海は、世界で最も厳しいロックダウンが実施された街となりました。陽性と判定されれば無自覚無症状でも即座に隔離施設に入れられ、食料品や飲料水が不足し、飢え死にを意識するほど食べ物を確保するのが困難な状況に追い込まれました。

上海は中国最大の都市で、商業、金融、工業、交通の中心地です。日本と大変縁の深い街で、戦前から多くの日本人が渡り住み、沢山の日系企業が進出しています。日本に限らず世界中のビジネスマンが集まる国際色豊かな世界都市で、中国国内にとどまらず、貿易の中心地として世界に大きな影響力を持つ大都市。

ロックダウンをすれば経済的打撃は計り知れないものとなるのですが、それでも中国共産党は政治的、そして世界に対するメンツ的なものを優先し、感染力の強いオミクロン株が広がる現在では無謀とも思える「ゼロコロナ政策」を推し進めました。世界で最も厳格なロックダウンが2か月近くも続き、6月1日の午前0時、ようやく解除となったのです。中国政府の「ゼロコロナ政策」は相変わらず継続しているので、近い未来に再びロックダウンとなる不安は残ります。

現在でも72時間以内に受けたPCR検査の陰性証明がないとオフィスや商業施設に入れず、公共の交通機関も利用することができません。頻繁にPCR検査を受けることが新しい日常となっていて、街中の至る所にPCR検査所が乱立しています。

喜びと不安が混在する上海の友人に、ロックダウンで何が一番辛かったのかを質問しました。「自分個人の意見ではなく、食べることが大好きで、外食も大好きな上海市民を代表して言いたい。外食ができなかったのが一番辛かった。今すぐフードコーナーに行って色々なものを食べ尽くしたい。」そんな答えが返ってきました。

上海のフードコーナー

ロックダウンが解除された今、上海市民が一番食べに出かけたいであろう料理を教えてもらいました。

◇上海炒麺

上海市民が愛して止まない料理が上海炒麺。上海風の焼きそばです。安くて美味しいB級グルメの代表格で、上海の至る所で食べることができて、何処で食べても10元(200円)前後のお値段です。

麺が一番の特徴で、日本の焼きそばより太く、うどんよりは細い麺を使います。モチモチして、かなり食べ応えのある麺。具材はお店によって異なりますが、チンゲンサイがそのまま小さくなったような鶏毛葉と呼ばれる青菜と細切りにした肉を一緒に炒めて作るのが一番の王道なのだそう。

味付けはソースではなく、中国の醤油を使います。日本の醤油とは異なり、塩分が少なく甘みが強い味です。中国の醤油を使って調理すると、とても濃い茶色になるので一見するとソース焼きそばのように見えます。ただ最近は塩で味付けした上海炒麺の方が流行っていて、こちらの方があっさりしていて夏向きなのだそう。中国の醤油は少しクセがあるので、日本人には塩味の方が食べやすいかもしれません。

◇上海蟹

上海と言えば、上海蟹が有名です。海の蟹ではなく、淡水に棲むイワガニ科モクズガニ属のチュウゴクモクズガニ。爪の周りに毛が生えていることから毛蟹とも呼ばれています。年間を通して食べることができますが、シーズンは9月下旬から12月にかけて。上海を代表する、上海の人達も大好きな食材なのですが、世界中の観光客が上海蟹を目当てに上海を訪れるので、需要に供給が追い付かない状況が続いていました。

コロナ禍前は、上海で獲れる上海蟹を食べることが難しくなっていて、他の地域や外国からの輸入品が一般的だったのだそう。コロナ禍で観光客が訪れないデメリットをメリットに変え、今年の上海蟹は上海市民たちだけで独占を決めこみたい模様です。嬉々として、今からシーズンが待ち遠しいと語っていました。

通常の上海蟹は青緑色をしていますが、蒸したり焼いたりすると鮮やかなオレンジ色に変化します。海の蟹と比べると小さいので、身は少なく食べづらいのですが、上海蟹の醍醐味は何と言っても味噌にあります。クリーム状の濃厚で深みのある味わいです。色々な形で調理されますが、上海蟹は蒸して食べるのが一番美味しいです。メスだと卵巣が赤く固まりホクホクした食感となり、オスだと精巣がねっとりとしています。オスとメス、どちらも甲乙つけがたい美味しさです。

◇小籠包と湯包

湯包(タンバオ)

上海は蟹で有名ですが、小籠包発祥の地でもあります。小籠包とは中国や台湾でよく食されている点心の一種。具材を小麦粉で作った皮で包み、蒸籠で蒸した料理です。上海の小籠包は、中の具に餡と一緒に大量のスープが含まれているのが特徴。中身が餡よりもスープが主役の小籠包は、湯包(タンバオ)と呼ばれます。

ロックダウンが解けた今、上海市民が一番食べたいと思うのは、小籠包より湯包なのだそう。小籠包より一回り大きく、見た目は日本の中華まんに似ています。肉、野菜、魚、色々なスープの湯包がありますが、上海ならではの蟹黄湯包が一番人気。上海蟹の肉、味噌、内子などでとれるスープがたっぷりと入っていて本当に美味しいです。そのままかぶりつくとスープが流れ出して大惨事になるので、ストローを挿して中のスープを飲み干してから外側の皮を食べます。ストローで底の皮を破ってしまわないよう気を付けて食べましょう。日本の中華まんの皮とは異なるモチモチした食感の皮で、スープの味が染み込んでいて美味しいです。

湯包は上海を中心とした、中国南部でしか見かけることのない料理。上海蟹とのセットは上海だけの特権です。上海市民だけでなく、上海を訪れたら絶対食べなくてはならない料理です。

上海人である喜び

上海の街の黄浦江沿いの遊歩道を南に向かって歩くと、右側に「過去」と呼ばれる租界時代の建築物が多く残るノスタルジックな外灘、左側には「未来」と呼ばれる個性的な超高層ビルが立ち並ぶ浦東新区を一望することができます。「未来」と呼ばれる側で特に愛されているのが上海タワー。アジアで一番の高さを誇るTVタワーで、高さは468m。3つある展望台に登れば上海の街を360度見渡すことができます。個性的な外観で、上海のランドマーク的存在です。

上海タワー
我 Love 上海

「未来」側はライトアップされた夜景が美しいことでも有名。上海の人達が大好きな景色で、ライトアップされた街並みを眺めながら遊歩道沿いをブラブラと散歩するのが日常です。

未来サイドの夜景

この景色を見ていると、上海に住んで良かったという気持ちがふつふつとわいてくるのだそう。2か月に及ぶロックダウンが解除された今、きっと多くの上海市民がこの景色を見ながら、上海で生きる喜びをかみしめているかと思います。上海の皆さん、長い間本当にお疲れ様でした。


(2022年6月30日発行「素材のちから」第45号掲載記事)

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