お菓子よりも手をつなぎたい
※登場人物※
『紫苑(しおん・娘いぬ)』
元お嬢様のお化け娘いぬなので和服や浴衣は得意
でも最近はゴスロリ服がすこし気になる
『ご主人』
紫苑がオシャレに目覚めたのは良いが、可愛すぎてソワソワしている
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「わぁぁぁ! ご主人! ご主人! あれはなになに?」
「紐引きくじ……かな?」
「わぉん! 美味しそう! ねね、ご主人!」
「りんご飴だな、ちょっと食べにくいけど美味しいぞ」
目をキラキラさせながら楽しそうにはしゃぐ。
「わふぅ……美味しっ」
買ったばかりのりんご飴に苦戦しながらも満足そうにしている。
いつもとは少し違った雰囲気の紫苑。
少し青みがかったプラチナブロンドの髪は一部分だけ編み上げ、
残りは普通におろしている。
フワッりとゆれる髪は橙色の出店の明かりをキラキラと反射させていて……
「ご主人?」
「ん? ど、どうかした?」
「どうかしたのはご主人だよ? 疲れちゃった?」
「ちがうよ紫苑……紫苑に見惚れていたんだよ」
「わぁっう!!?」
ボフッと音がするくらい顔を真っ赤にして、わたわたする。
「ご、ご、ご……」
「何かの効果音みたいだなぁ」
「もぉ……ご主人ぃ……」
両手に抱えるほど出店で買ったお菓子や食べ物を持ちながら
ふいっと上目遣いで見上げる紫苑の頬はまだ真っ赤で、
耳はぺたんと下がり、しっぽはゆらゆらとゆらしている。
その姿も妙に愛らしい。
普段でもわりと目立つのだけど、
今日は更に拍車をかけて男女問わず通りすぎていく人たちは
漏れなく紫苑の方を見ていく。
それ程に紫苑は浴衣も髪型も何もかもが似合っていた。
「もともとお嬢様だしな……」
「ご主人? どぉしたの?」
「あ、そうだ紫苑」
「わぅ?」
「これさっき景品でもらったんだよ、紫苑にあげるよ」
小さい白い狐のお面の髪飾りを取り出す。
「わぁぁぅ! 可愛い!?」
「それはよかった」
「えへへ、ご主人~~つけてつけて~~」
ひょいっと頭を近づけてくる。
よほど嬉しいのか、ぴょこぴょこ動く耳の下に髪留めのようにつける。
「つけ終わったよ。 ……紫苑?」
返事が無いと思ったら、動いていたみみもピタッと止まっている。
少し先を見つめたまま目がはなせない感じだった。
紫苑の見つめる先を見てみると……
男の子と……あれは娘ねこ? のふたり組をみているようだ。
娘ねこの方はしきりに「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と言って
腕を絡ませたり、くっついたり寄り添ったりしながら歩いている。
兄妹なのかな……傍目から見てもすごく仲が良いとわかる。
少しだけ妹ちゃん娘ねこが強引気味なのかな?
やりとりを見ていると思わず顔が緩んでしまうくらいだ。
と、今度は横から視線を感じた。
「紫苑?」
じっとこちらを見たまま動かない。
「紫苑?」
やがてゆっくりと……静かに口を開く
「ご主人……これとこれ、これも持ってもらっていい?」
自分の手に持っていたお菓子や
後で家で食べようと買っていたお土産を渡してくる。
「疲れたのかい? 人も多いしどこかで休もうか」
荷物を分け合いながら、ふるふると首を横にふる。
そしてふたりで片手で持てるくらいの量に分けた。
「……ごしゅじん……手、つなご?」
「ん?」
ああ、さっきのふたりを見て……かな。
渡されたお菓子や食べ物を片手に移動させ、手を差し出す。
「えへへ……ありがと。 ごしゅじん、はなさないでね?」
「じゃあ、もう少しこっちにおいで、紫苑」
「うん!」
ぎゅっと手を握りながらも寄り添ってくる。
「やっぱり紫苑は可愛いな」
「わふぅ……またそゆことゆう……」
「じゃありんご飴ひとくちくれたら言わなくなるかも」
「……ごしゅじぃ……」
紫苑が食べかけのりんご飴を見ながら少し悩む。
「……あげない……りんご飴、ご主人にあげないよーだ」
「えぇ……」
「だって、もっと……可愛いって、言われたいもん……」
縁日のざわめきに紛れるような声だったけれど聞き逃すような事は無い。
紫苑はいつだって聞こえないようで聞こえるように言っているんだから。
【おしまい】
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