ただの人から愛にしてくれた彼女
晴れ渡る夕方の頬を撫でる温かい風のような人
芳しくてその美しさと温かさで私を泣かせるそんな人
彼女は小柄で、可愛らしくて、いつもくすくすと口元を隠して笑う
私の拙い話をいつも一生懸命に聞いてくれるそんな子
か弱そうに見えるけど
その優しい瞳の奥に凜とした強さを持っている
私が育ったのはよくある田舎の港町で、小学校は2つ、中学校は1つだった
小学生の時から同じ方の学校に通って行った私たち
あんまり話すことはなかったように思う
私は決まったグループに6年間所属していたわけではなくて、コロコロよく変わっていたタイプで
良く言えば自己主張がしっかりできて周りの子よりも大人ぽかった、悪く言えば自分の考えをはっきり伝えすぎる背伸びした子供だった
彼女はというといつも友達に囲まれていたように思う
彼女には幼馴染の女の子がいて、その子と幼稚園生の頃から今までずっと仲が良い
私が知らないだけで彼女たちにもいろんなことがあっただろう
私の知らない二人だけの物語があるだろうから
視点を変えるだけでひとつの物語が幾つもの違う物語になるように
そんな彼女と初めてきちんと関わったのは中学生になって、同じ運動部に所属してからだ
私と彼女の他に同級生は3人所属していた
今思い出すと、中学生というのはいろんな感情の波が訪れる大切なそして過酷な時期だったなと思う
毎日が希望と絶望の連続で、意味のわからないくらい濃かった
その頃の私はというと、小学生の頃の「一人でも全然大丈夫。私は可愛い」という無双状態から、少しずつ「誰か私の特別な友達になってほしい」とグループというものを意識し始めた頃だった。
毎日、学校の登下校でとにかく一人になるのは嫌で、誰かと一緒に帰ろうといろんな人を取っ替え引っ替えしながら「この子とは馬が合わないな、この子は私の特別な友達じゃないな」そんな風に、自分が周りの人を判別しながら、同時に判別されることを恐れていた
数回会話を交わしただけで、その人の人となりが分かるだなんて…そんなことできたら苦労しないよ
と今となってはツッコミを入れられるがその頃はそうだったのだ
そんな不安定な時期だったから、誰かに大切にされていると感じるとその人に自分の全てを捧げられるような、そんな感じだった
それに私の中学校は上下関係が非常に厳しいというかおかしくて、先輩たちは絶対的存在だった
だから、二つ上の先輩に好かれるために必死だったし言うことはなんでも聞いた
そうやって過ごしていく内に私は、かなりたくさんの人の心を傷つけ、そして自分も傷つけられながら、かなり尖ったそして面倒臭い中学生になっていた
要するにこの頃が私の暗黒期だった
その頃の彼女との記憶は全くない
一緒の部活にいたはずなのに、、、全くない
それくらい私たちは同じ場所にいながらも違う世界を生きていたのだと思う
そんな私たちは中学2年生で同じクラスになった。
というか同級生部員のほぼ全員が一緒だった
更に、誰ともしっかり友達になれていない私は学校のグループも登下校も、全てを部活の子たちと共にすることに決めたのだ
歩道の狭さと先生たちの目から、歩くときは二人ずつだと決まっていた
そこで私の隣になったのが彼女だった
私たちはクラスでも部活でも登下校でも、つまり1日のほとんどの時間を一緒に過ごすようになったのだ
その頃の私は精神的にすごく辛かった時期で、精神科を受診するかしないかで母と揉めていた頃だった
人と話すことが怖くなって、好きだった読書も映画も見れなくなって、テレビも見れなくて、お風呂に入っていると急に涙が溢れ出してきたり、息ができなくなったり、かなり深刻だった
そんなとき私の側で誰よりも力になってくれたのが彼女だった
自分がすごく醜くて恐ろしい存在だと思い込んでいた、人を傷つけてしまうのが怖かった私
その胸の内を誰かに聞いて欲しかった
そんな人はそのとき周りに誰もいなかったけど
もう如何にもこうにも自分の心の内にとどめて置けなくて、ついに彼女に全て正直に話すと
「〇〇ちゃんが人のことを傷つけそうになったら私が止めてあげる。だから何も怖がらなくていいよ。大丈夫。」
彼女は私に優しい笑顔で、その鈴のような声でそう言ったのだ
同情でも励ましの言葉でもなく
「私がそばにいるから大丈夫だよ」
そんな世界で1番美しくて儚い言葉をくれたのだ
軽蔑して、私のことを嫌うことも、離れることもできたのに
彼女は私を信じてくれた
その一言がなかったら私は今ここにこうしていないかもしれない
それほどその言葉が、彼女のその声と表情が私の心の支えになった
それからは、その言葉通り、私と彼女はずっと一緒にいるようになって彼女と色々な話をするようになった
通り過ぎる季節の中で、毎日同じ道を通り学校に行き、同じ場所で過ごして、また同じ道を通って家に帰る
文章で見ると淡白だけど、その道が、場所が、全て私の宝物なのだ
私たちが交わした数々の会話、好きな本の話、好きな映画の話、好きなアイドルの話、将来の夢、不安、悩み、たわいのない話、喧嘩した日も
その時間が、香りが、声、温度さえも
全てが私の心に焼き付いている
あれが私の青春だった きっと
自分が心を病んだその日から、私は少しずつ変わった
聴く音楽も読む本や見る映画も変わって
以前よりも深く、物事を考えるようになった
言葉を大切にするようになった
少しずつ少しずつ
努力を積み重ねて
一歩一歩
私は自分の哲学を、価値観を積み上げていった
そして私の人柄も心が病んだ前と後でまるで違う
その頃はとても辛かった
だけど、痛みを知ったその心は、それを知る前よりも暖かく、柔らかくなったと思う
だって愛を知ることができたのだからから
私の好きなBTSというアーティストのリーダーであるRMのソロ曲、Loveにこんな歌詞がある
これは韓国語の人を表す사람と愛を表す사랑という形がよく似ている単語の、ㅁとㅇの部分に注目して書かれた歌詞になっている。
ただの人、つまり사람だったけど
君と出会って、君が僕の角、尖った部分を食べてくれて
ㅁ が ㅇへと つまり 僕が愛へと変化した
ということだと語っていた
そう彼女は私をただの人から愛へと変えてくれた人なのだ
私の尖った部分を大きな愛で包み込んでくれて
角を丸へと変えてくれた
そんな人なのだ
私たちはその後違う高校に進学した
私は遠い街の学校で、更に寮で生活することになった
その後も年に5回以上は会っていたけど、会うたびに
彼女の素敵なところに心を奪われて、魅了される
私を温かい気持ちにしてくれると同時に
「こんな素敵な人になりたいな、私も頑張ろう」とスッと背筋を伸ばしてくれる
彼女は私の人生の青春で恩人で道標なのだ
愛を教えてくれてありがとう