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目を三角にして怒ったあと、口を三角にして笑った。

薫は町でも評判の美人だった。
性格は恥ずかしがり屋で、いつも母や姉の後ろに隠れていた。声が小さく、しゃべるのもたどたどしく、自己主張することが苦手だった。成績はずっと良く、現役で医学部に入ったので周囲を驚かせた。

薫は先日、二十歳になった。
成人式の後に中学の同級生で飲み会があった。華やかで息苦しい着物からラフで楽ちんなパーカーに着替えたら一気にくつろいだこともあり、人生初のビールを飲んでみた。

周りのみんなは苦い苦いと言っていたが、薫はその苦みが好きになれそうだった。「薫ちゃ〜ん、お酒強そうだね〜」と言いながら、アホの中田がワインをすすめてきた。ワインも初めてだったが、すごくおいしかった。

店内はまるで動物園のようだった。大声で自慢話をする者、連絡先を聞きまくる者、脱いで筋肉を見せ合う男たち、陰キャは端っこでスマホゲームを始めている。その動物園、じゃなくてワイン居酒屋はハレの日のムードに満ちていた。

「ねえねえ、薫ちゃんって彼氏いるの?やっぱりお医者さん?」

陽菜が大声で聴いてきた時、周りの男も女も薫の返事に注目した。

「……彼氏はいない。けどパートナーならいる」

普段ならぼやかしはぐらかすのだが、これが酒に酔った勢いというやつか。つい本当のことを言ってしまった。

「え!え?どういう意味?愛人?セフレ?それとも女の子のパートナー?なになになに!」

中田が大声ではやしたてながら距離を詰めてくる。ああ、こうなるのが面倒だから適当に答えときゃいいのに、私馬鹿だなぁ。薫はイライラしながら答える。

「あんたみたいなお子ちゃまには絶対理解できないから教えません」「もうお子ちゃまじゃねーし!っていうか俺4月生まれだから薫ちゃんより大人だし!」

ひっしに反論してくるアホの中田にはきっと理解してもらえないだろうけど、まぁ自分がスッキリするためだけに言うか。

「彼氏、彼女みたいな関係って前時代的だと思うんだよね。性別とか年齢とか職業とか年収とかホントどうでもいい。いっしょにいて楽しくて気持ちよければ、それでよくない?」

ワインの力おそるべし。普段頭の中で思っていることがどんどん言葉になっていく快感。大学構内では決して言えないことだけど、200km離れた田舎なら言ってもいいべ。ワインの力おそるべし(30秒ぶり2度目)

「よく分かんないけど俺も薫ちゃんのパートナーに立候補します!」「俺もー!」「俺もー!」「じゃあ私も〜!」

薫は周りでつぎつぎと手を挙げる同級生たちをみながら、あーやっぱ田舎の距離感しんど、と思った。

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