見出し画像

しろくまピース とべ動物園

歌人、川野里子さんの「天窓紀行」を読んで。
この歌集は、タイトルの下に、短歌日記2020年という記載があります。この年の出来事が、一日一首の短歌で綴られています。短いエピソードが短歌のあとに添えられていて、読んでみるとコロナ禍真っ只中、マスク不足になった年でもあり、制限された生活を憂う歌が多いことにきづかされます。

そんな中にこんな一首


五月四日(月) 

白熊に 逢ひしことなき
    白熊は 立ち上がりたり檻いつぱいに

         

 ・動物園生まれ、動物園で一生を終えようとしている白熊ピースの記録が心に痛い。

川野里子「天窓紀行」ふらんす堂

川野さんは、その頃放送された
しろくまピースをNHKの特別番組をご覧になって、その短歌を詠まれたのだと思います。
きっと、この番組で同じように心打たれた方は、多くいらっしゃるのではないでしょうか。

私もその一人で、録画をそのまま残しています。
やはり、前後に録画した番組には、横に赤く大きな「 コロナ緊急事態宣言 」という帯があります。

一度、放送したあと反響が大きかったためか、再度放送があったので、しろくまピースは1月と4月に2回放送されています。

川野里子さんのピースの短歌を読み、
久しぶりにその録画を観てみたくなりました。 
まとめるのが苦手なので、ちょっと長くなります。


2000年
・1/11(土)  しろくまピース20歳~家族と歩んだ"いのちの軌跡"~
・4/25(土)  しろくまピース20歳 完全版 
    
場所は、愛媛県立とべ動物園というところである。

国内初の北極グマの人工哺育の話で、その様子は飼育員の高市敦広さん( 当時29歳 )によって細かく日記に記され、それが、後に他の動物園にとっても 貴重な北極グマ人工哺育の教科書となっていく。

1999年12月2日 ピース誕生 680g メス

母親が子育て出来ず、まず飼育員の高市さんのミルク作りから始まる。
そして、24時間付ききりで側に居ないといけなくなり、夜は自宅へピースを連れて帰ることにする。

ピースは、赤ちゃん時代を高市さんの自宅の団地で、高市さん、奥さんのみゆきさん、まだ幼いお子さんふたり、と人間の家族の中で過ごす。

高市さんは、睡眠が取れないことなどで体調を崩しながらも、ピースが感染症にかからないように細心の注意を払い、家族全員で役割分担をして赤ちゃんピースを育てていく。
とても出来ることではない。

やがて、ピースは高市さんに「ささ鳴き」という母グマに甘えるときのゴロゴロという声を出すようになり、
高市さんは、ピースの「 母親 」となる。
ピースがとても愛らしい。

高市さんは、子供たちに、このことを口外しないように強く言いきかせていたという。
団地では、犬猫のペットは禁止されている。
ましてや北極グマだ。
こんな状況は、まずあり得ないことである。

しかし、ピースが3ヶ月になった頃、
体重も15kg、力が強くなり自宅で育てることが困難に。
高市さんは、ピースを毎日家に連れ帰ってから、109日目で動物園に戻すことを決心し、家族は、突然その日にそう告げられる。
ピースは、もう完全に家族の一員となっていた。
かけがえのない110日間だった。

翌日、高市さんはピースを動物園に置いて帰宅しようとした時、ピースは檻のなかでずっと声を枯らして高市さんを呼び続ける。
そんな日が続く。
ある日、高市さんはピースのことが心配で、夜中に音をたてずにドアを開け様子を見に行くと、ピースはドアの前で座って待っていたそうだ。
本来北極グマの赤ちゃんは、2歳までは母親の元で過ごすところを、ピースはたった110日で母親である高市さんから離され、ひとりの夜を過ごすこととなる。

ここまでが、ピースが動物園の中で暮らすまでの話である。

そして、そこからは動物園での話、また高市さんの苦労は続く。
離乳食作り。血便が出てしまい、腕がいたくなるほど離乳食の中にある小さな骨を叩き続ける。

2000年3月28日 ~
  夏を迎える前に、水に慣れさせないといけない。まずは小さなプールで、ピースの大好きなミルクで誘い、3週間根気強く訓練する。一度ミルクを切らし、腕を噛みつかれてしまう。そこで、信頼関係が築けているからこそ、ピースを叩く場面も。

仕事の合間にとにかくピースと触れあう高市さん。
高市さんをどこまでも後追いするピースが可愛い。

1か月後、ピースが自らプールに飛び込む。
その時の高市さんの安堵した笑顔。

2才になり、ピースは大人の体格に近づく。
母親バリーバとの同居を試みるも、嫌がるピースにストレスをかけるだけだと判断し、やめる。

3才で、てんかんの発作が出始める。
その後、立てなくなるほどの強い発作で、2回/1日の投薬治療を始める。一度、水の中で発作を起こし、高市さんが命がけで助けることもあった。

ピースが17才の頃から高齢期対策( しろくまの平均寿命は30年 )として血液検査の回数を増やす。
それまでは全身麻酔で行っていたところ、身体に与える負担を考え、檻から出すピースの腕に採血の注射針を入れる。血管が細く、毛に覆われていることから何度もやり直すが、血が滲んでも、何度もそれに応じてくれるピース。
それも高市さんとの信頼関係の証であった。

中でも、気持ちがぎゅっとなったのは、一度目の自宅で飼えなくなったところと、
もうひとつ、3才の誕生日を迎えた日、動物園側からピースとのスキンシップを一切止めるように言い渡されたときのことだ。
大きくなった北極グマとのスキンシップは危険だと言われ、暫く高市さんはそれを否定しつつも受け入れざるを得なかった。

肖像権を考慮して、TVの画面ををスマホで写し、それを見てお絵描きするという、ものすごくアナログな手法です。 💧

川野里子さんの短歌、もう一度。
  
白熊に逢ひしことなき
       白熊は立ち上がりたり
              檻いつぱいに

◇ ◇

やはり、突然引き離される場面は心が痛みます。
川野里子さんの短歌のような気持ちは誰もが持っていると思うのてすが、
高市さんは、来園したお客さんに
「 ピースは、しあわせですね 」と言われることが、いちばん嬉しいそうです。
愛情は持つものでなく、湧いてくるもの。
柵があっても、繋がっている感覚がある。
とも仰っていました。

  ※ ここから、「 今日のピース 」を閲覧てきます。


※ ヘッダーの写真、ナランチャさんよりお借りしました。
シロクマに見えるけど、歩き始めた子犬です という注釈がありました。

#今日の短歌
#しろくまピース #愛媛県立とべ動物園
#川野里子 #天窓紀行


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?