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西千葉で家族コンプレックスが最大値になった話

先日、ひょんなことから西千葉にある銭湯に行った。珍しい薪サウナで知られ、サウナーからも注目を集める一軒だ。西千葉駅から歩くこと10分。その銭湯は住宅街のど真ん中にあった。日曜の夜、なぜか私はそこにいた。

ビバークランドという銭湯で、いでたちがもう普通ではない

薪サウナは思った以上に普通のサウナと違っていた。お客さんが薪ストーブに薪をくべるシステムで、斬新だった。薪を入れると火の勢いは最大になり、バチバチと焼ける音がする。部屋の温度が一気に上がるが、ロウリュのように耳にくる熱さとは違って、心地よい。何より、薪火はすごくいい香り。これまでとは違う、新しい体験だった。

水風呂もしっかり冷たく、泉質の良さを感じさせる。露天風呂の横には外気浴スペースもある。サウナ施設として、五つ星を捧げたいほどの素敵空間だ。

そんな『ビバークランド』のある西千葉駅は住宅街であり、学生街。町に根差したサウナだけにかつてないほど、アットホームだった。サウナ室でタトゥーのにいちゃんが店のおじちゃんに「怪我したらしいじゃないですか。大丈夫ですか?」と聞いたと思えば、今度は店のおじちゃんが突然スマホの画面を見せながらサウナに入ってきて、「この車、違う?」と聞いてくる。店前に路駐する人が多く、警察来ちゃうよ、という注意喚起だそうだ。薪をくべる際やロウリュの際はサウナ内で承諾を得るため、コミュニケーションが生まれたりもする。朗らかだ。最近のサウナ施設には見られない“温かみ”を感じられた。

サウナ後には、オロポ的な「ラッキーカーク」300円をいただいた。カーク3000って初めてみたよ

その日、私はサウナ友達の女性と2人でそこを訪れていた。サクッと派の私は、先に出て、店のロビーで待っていた。その店の待合室は受付と同じスペースにあり、男湯と女湯の入口もすぐ見えるところにある。男性が1人で待ち、そこに子供やら女性やらが合流して帰っていく。ほぼほぼ家族での来店だ。きっとこの後家に帰り、そのままベッドに入るのか、子供たちにアイスをせがまれたりするのだろう。そんなシチューのような温かな光景を眺めていた。

時間にして45分ほどだろうか。そんな家族たちを横目に感じながら、私は少し泣いていた。日常と地続きの平常心な幸せオーラをビンビンに感じまくった結果、マジで喰らってしまった。東京では麻痺していた感受する部分に触れてしまった。

この歳になっても結婚もせずフラフラしてみっともない。地元の友人も大学時代の友人もみんな立派なパパになってるよ。君には背負うものがないからいいよね。にいちゃん、早く従姉妹作ってよーー。

言われたことも、言われてないけど言われそうなことも、自分の中のもうひとりの自分が語りかけてくる。世間一般の常識と、全てを比べて言葉を投げてくる。

銭湯にくる家族を見て、自分の背負ってるものの軽量さに嫌気がさしたのだ。いい加減、背中にいろんなものを背負いたいのよ、と。西千葉の町の銭湯で、側から見たら風呂から出た気持ちよさそうな私なのだが、心の実はズタズタに引きちぎられていた。謎のドリンク「カーク3000」を飲みながら。

いよいよ心の悲鳴が絶叫にかわらんとする時「お待たせ〜」と女湯から友人が出てきた。彼女は顔にパックをした異質な姿で「気持ちよかったぁ!」と思いっきり笑っていて、それを見て私も笑った。

店を出る時、まだ乾いてた喉にフルーツ牛乳を流し込んだ。強く甘さを感じる。液体の質感はいつもよりもったりとして、異様に口に残った。

西千葉を訪れることはもうない。

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