見出し画像

【11分で解説:関節可動域】PTOT国家試験 脊髄損傷領域 第48回 PM-問題35 #せきそん国試

今回は第48回PT国家試験午後:問題35を解説します。

画像1

今回は頸髄損傷者の可動域の問題ですね。

最初に言っておきますが、基本的に頸髄損傷者は健常者に比べてあらゆる関節で広い可動域が必要となります。

では選択肢を見ていきましょう!


1.肘関節伸展位での肩関節伸展(*肩伸展の参考可動域:50°)

はい、これ正解!って思ったんですが、これは正解ではありませんでした。なぜだ笑?????

日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の肩関節伸展の参考可動域は50°です👇

名称未設定.001

果たしてこの可動域で足りるのでしょうか?実際には50°では足りません。あとで頸髄損傷者の関節可動域の研究のところで触れます。


2.手関節背屈位での肘関節伸展(肘伸展の参考可動域:5°)

これは正常可動域以上(肘の過伸展)は不必要ですね。ですが手関節屈筋群が伸びにくくて、手関節を背屈させた時に肘関節が屈曲しちゃって、肘関節が伸展位でロックをかけにくくなると困りますからね。正常可動域の維持は必要ですね。


3.頸部屈曲位での体幹屈曲

体幹屈曲可動域も他と同様に、正常可動域よりもあると良いですが、脊柱がとても硬くなってしまう方もいらっしゃいます。それは長期臥床による影響もありますし、受傷後しばらくは自分でほとんど動けないですからね。その間に硬くなってしまいます。なのでなるべく早期から動ける方が良いのです。


4.膝伸展位での股関節屈曲

これはSLR(Straight Leg Raise)ですね。脊髄損傷の可動域と言えば”SLR”ですよね。王道中の王道。ってことでこれが正解です。確かにこれを不正解にはできないですね。


5.膝屈曲位での足関節底屈

正座?で使うかな。他にはどんな場面が想定されるのか。膝屈曲位での足関節背屈は床トラで必要ですけど。


答えは 4.膝伸展位での股関節屈曲 となります

YouTubeでも解説してますのでよろしければご覧ください👇

https://youtu.be/BBD-k30F-lo


ここからは余談です▶︎

2020年に出された慢性期の頸髄損傷者を対象とした可動域とADLとの関連を調べた研究がありましたので、少しだけご紹介します👇

慢性期頸髄損傷者の機能的他動関節可動域

Sara K, et al:Functional passive range of motion of individuals with chronic cervical spinal cord injury, J Spinal Cord Med. 2020; 43(2): 257–263.

まず最初に属性👇ですが、C5-C8レベルの慢性期(少なくとも受傷後1年以上経過)の頸髄損傷者29名が対象となっています。健常群の詳細は載ってませんでした。

YouTube用 PT国家試験問題(解答なし).001

可動域の結果です。Table1上肢Table2下肢です。

YouTube用 PT国家試験問題(解答なし).002

YouTube用 PT国家試験問題(解答なし).003

結果を見る前に2点注意が必要です。①今回の結果は完全損傷者と不全損傷者を分けて解析されておりません。②「健常者との間に顕著な差を認めた」と記載があるのですが、「統計的に有意差があった」のような記載がなかったので本当に差があると言って良いのか?という感じです。

①については頸髄損傷の研究あるあるだと思いますが、分けて解析した方が良いのは分かってはいるものの、群分けしたら各群の人数がさらに少なくなってしまうと言うことになってしまうんです。頸髄損傷者の被験者を集めるのはとても大変なのです。今回の研究では髄節(C5ーC7-8)で分けてましたが、AIS(ASIA Impairment Scale)でも見たら良かったんじゃないかと思います。おそらく完全損傷者と不全損傷者では可動域制限や過剰な可動域の違いがより明確に出そうな気がします。臨床的にはそんなイメージです。

とはいえ結果には「臨床的な印象通り」って関節可動域と「ん?ほんとにそうかな?」ってところがありました。なので結果はほんの参考程度に捉えてもらえると良いかと思います。

■上肢の結果

Shoulder ExtensionElbow Extension肩伸展は健常者よりも可動域は広そう。肘伸展は過伸展ぎみ。選択肢1と同じことですね。肩の伸展可動域はめちゃくちゃ必要ですし、肘の過伸展は敢えて可動域を作らずとも、どうしてもそうなってきてしまうんですね。良いか悪いか…仕方がない。脳卒中患者さんのExtension thrust patternと似たような現象と思います。

■下肢の結果

面白いのが、SLRが健常者の方が可動域が広そうなんですね。健常者で100°もいくかな?この結果は違和感があります。頸髄完全損傷者であれば健常者よりもSLRの可動域は広いと思いますし。頸髄不全損傷者であれば狭くなると思います。なので本当は分けて見た方が良かったんですけど。


■関節可動域とADL(SCIM-Ⅲ)との関係

YouTube用 PT国家試験問題(解答なし).004

この結果で面白いのがKnee flexion(膝屈曲)がどの項目とも相関があるってとこですね。ここは盲点な気がします。意識的に膝関節のストレッチングはあまりしないかもしれないですね。でも確かに必要です。欧米人と日本人では生活様式の違いから、元々の膝屈曲の平均値が違う気もしますが、頸髄損傷後においては日本でも欧米でも同じように関節可動域は必要になってくると思うので、この結果は勉強になりました。

今後もっと症例数を増やして、完全損傷者と不全損傷者の違い+健常者との比較検討してもらえると非常に有益な研究になるのではないかなと感じました。やはりこのような体の基本的な機能とADLの関係性を調べるのは非常に大事ですね。身体機能の経年変化がADLに直結する頸髄損傷者においては、どこの可動域を維持すべきなのか?については、脊髄損傷者のリハビリテーションに関わるセラピストは知っておく必要がありますね。

以上です


そうちゃんねるはこちら👇


よろしければサポートよろしくお願いいたします。いただいたサポートは脊髄損傷の情報発信について活用させていただきます!