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「職場体験で得られるもの~『天使のにもつ』~」【YA77】

『天使のにもつ』 いとう みく 著 (童心社)
                                                                                                     2019.05.08読了

風汰はちょっといい加減な性格の中学2年生。
学校でのカリキュラムのひとつ、職場体験の申込みをクラスメイトが皆さっさと提出している中、なかなか出せずにいました。
担任に決断を迫られ、適当に選んだ体験施設は、保育園でした。
 
「前髪は目にかからないようちゃんとしろ!」と先生から言われ、やや長い前髪を輪ゴムで1本にくくっていくようなアホな男子なのです。
 
保育園の小さい子どもたちと遊ぶだけ…と思いきや、どろんこになって遊ぶ子どもたちに調子を狂わされ、お昼寝のおふとんを並べる手伝いも、適当にやって子どもたちから注意されてしまいます。
担当してくれている園の林田先生からは厳しく指導される始末です。
 
でも園長先生はそんな風汰を、どこか優しいまなざしで見ていてくれているのです。
 
そんな中、風汰はひとりの男の子、しおん君のことが気になっていきます。
母親がぞんざいにしおん君を扱っているように見えてしまうからなのですが。
大丈夫なのかな?しおん君…。

たった5日間の職場体験。
だけど、初めて中学生が「働く」意味をわずかながらも知っていく貴重な体験です。
 
風汰も、日頃のんきに暮らしていたら知りえない近所の人たちのことや、あるとき野良犬の世話をするというエピソードのなかで知るクラスメイトの本心と様々な親子の存在を職場体験がきっかけで知ることになります。
 
わずかな日数で成長できるような安易で都合のいい物語にはなっていないけれど、社会の入り口に立つことを許されたような気がする風汰。
 
この体験から、少しだけ大人になっていける兆しが見えてきたという感じがいい。
自分のこと以外あまり深くは考えることがなかった主人公が、無理やりにではあるけれど学校カリキュラムの中で他人と交流を深めていきます。
そこで初めて知ることがどんどん出てきて、いきなり自分の見る世界が広くなっていきます。
 

“仕事”というまだ漠然としたものが、突然“体験”を通して身近なものになっていき、そこに並行して“体験”を通して巡り合う人々との交流が生まれそこで得た知識が増えていくことや自分の未熟さなどが認識できるようになっただけでも大人になる準備ができたのではないでしょうか。
 

今現在、ほとんどの中学校で行われている職場体験というものに、どれだけの生徒たちが大切な何かを見つけられているでしょう。
私が以前勤めていた図書館でも、町内の中学校の職場体験を受け入れていました。
辞めるまでの数年は私が担当をしていました。
基本的に本好きな子たちが希望してきていると思ったのですが、そういうわけでもないのだなと感じることもありました。
概ね、このくらいの年齢の子どもたちは大人に対して懐疑的で反抗的でもあります。
好んで職場を選んだのなら、素直に当方の指導を聞き入れてくれますが、教師が特に希望を出さなかった(やる気がなかったのかも…)子たちに対して、希望の少ない((;´Д`))職場に振り分けていたという話もチラッと聞いたこともありましたが、なるほど体験期間中(3日間くらいが多いです)あまりやる気が見えたとは言い切れないことが多かったです。
 
もちろん、このカリキュラムは重要なものですので、職場から生徒たちにマイナスになるような評価を下すことは全くありません。
 
やはり最初の段階で、マッチングが重要だなとは思いました。
丁寧に生徒に対面で話を聞くという、まあ教育において基本的な部分ではありますが、それがなされていたとは言い切れない部分を見てしまったようです。

我が家の息子たちももちろん職場体験をさせてもらいましたが、きっと薄ぼんやりとしたものしか得られていなかったのではないでしょうか。
なぜその職場を選んだのか?と問うてみたところ、友だちが希望していたから…というなんとも消極的なもので、私が期待していた答えとは違っていてがっかりしたことを思い出しました。
でも与えられた仕事はしっかりやるようにとははっぱをかけて送り出しましたけどね。
 
とにかく体験させてもらえる職場と生徒の性格や好みや興味と上手く合致した時に、いい化学反応が発生してその生徒に影響を与えてくれ、忘れられない思い出とその後の素敵な未来を与えてくれるかもしれません。
 
いい出会いが中学生たちを待っていてくれるといいですね。


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