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vol.8 新たな売り場の開拓と地域活性化のためのお菓子開発。〜京西陣菓匠 宗禅を強くした、コロナ禍のV字回復を振り返る。

こんにちは。京西陣菓匠 宗禅の店主、山本宗禅です。

今回も『京西陣菓匠 宗禅を強くした、コロナ禍のV字回復を振り返る。』コロナ禍の経営困難を京西陣菓匠 宗禅を含むグループ3社が、いかにして乗り越えてきたかを振り返っていきます。

同じような悩みを抱えていたり、経営困難に立たされた経営者の方のお役に立てたら。お付き合いいただけると幸いです。

前回のまでの流れはこちらです▼


2021年6月下旬 売る場所の変更に成果が出はじめる

2020年9月の幹部合宿をきっかけに開始したテレアポの成果が出てきはじめました。

京西陣菓匠 宗禅では創業以来、自店舗や百貨店を中心に販売をしていました。しかし、コロナ禍の百貨店や得意先の売場は時短営業となり、お客様も街に出ない状況……売上が戻らない状況が続いていたのです。

このような背景もあって、売る場所を変え、卸販売に力を入れた営業をしていたところ、雑貨店やTSUTAYA、高速道路のSAなど、新たな売場からの売上が伸び、過去最高売上を更新しはじめました。

しかし、パンデミックの影響は続いており、グループ会社の中でもお土産販売をメインとする長寿堂恵佳の売上は、コロナ以前の2019年対比で17%と持ち直す気配はない状態。
直営百貨店も時短営業中で売上は2019年対比で60%と低迷を続けています。

それでも、グループ全体で売り上げを伸ばすことができたのは、弊社の看板商品のひとつである『串わらび』の商品計画によるところです。

『串わらび』とは、これまではお土産には向かなかった京都の本格わらび餅を、弊社の独自製法によって日持ちする常温品として長く美味しく楽しんでいただけるようにした新感覚のわらび餅です。個包装で日持ちするという特徴をもったお土産に最適な仕様となっています。

『串わらび』については、こちらの記事でも紹介しています。

“売る場所を変える”効果を劇的に前進させることができたのは、『串わらび』のおかげです。『串わらび』を例に、“売る場所を変える”のスキームをざっと紹介すると、以下のような感じです。

“売る場所を変える”に辿り着いた思考の手順や具体的なスキーム・工夫は、追ってnote内の別記事にてご紹介いたします。

①用途を変える

『串わらび』の前身である『凍りわらび餅』の完成が大きな転機となりました。

日持ちしないわらび餅(自宅で食べるもの)が冷凍できるようになり、お土産として販売できるようになったのです。

②ターゲットを変える

京都は修学旅行生が多いので、大人が会社へのお土産を「分けて配る」よりも「1人ずつに配る」という需要を満たすことが大切です。そこでペルソナを「修学旅行で京都を訪れたSNSを活用する女子高生」に変更。

ですが、冷凍商品である『凍りわらび餅』では数日間に及ぶ修学旅行生がお土産として購入できません。

③保存方法を変える

冷凍商品である『凍りわらび餅』は解凍後3日しか日持ちしません。それでは帰郷する日にしか購入できません。

そこで、3年の月日をかけ、常温で保存できるわらび餅『串わらび』を開発しました。
『串わらび』は配りやすく価格もお手頃ということで京都駅で今では1日3000本売れる大ヒット商品に。

④売る場所を変える

常温保存で、パッケージもかわいい! 今ままでにない新しい和菓子として雑誌などにも取り上げられるようになった『串わらび』。

(味はもちろんのこと)パッケージの可愛らしさや手軽さに人気をいただいているのであれば、「土産店だけでなく、雑貨店やセレクトショップなどにも販売できるのではないか?」という仮説から、新たに売る場所を開拓することを決意しました。
宗禅では、初めての卸販売への挑戦です。

⑤商品の捉え方(ジャンル)を変える

最初の卸売先を獲得するため、コツコツと地道な営業を重ねます。
その結果、2020年の12月より『串わらび』がセレクトショップで販売されるようになりました。継続は力なり!

30店舗以上を展開するセレクトショップでしたので、1回の注文がなんと4000本超に。その後も店舗数の多い雑貨店やTSUTAYAなど販売場所が増え、現在も1日6000本のフル製造を行っています。

この成功は『串わらび』を“お菓子”ではなく、“かわいい小物”“ちょっとしたプレゼント用品”として捉え直し、販売先を変えたことによるものです。セレクトショップでは基本的にお菓子は売られていませんでしたから、ライバルがいないブルーオーシャンの市場だったというわけです。

【ここでの学び】
・ひとつ成功事例ができると、ふたつ目は販売しやすくなります。まずは小さなひとつの成功事例を。
・同じ商品でも捉え方を変えると、需要も変わってくる。

2021年7月中旬 地域活性化を目指したお菓子『杼(ひ)』の開発

まだまだ厳しい経営環境が続く2021年夏。
私は地元西陣との絆づくり、地域の活性化のために走り回っていました。それは、西陣の新しい名物を開発するプロジェクトです。

西陣で商売を営む町衆70名程が毎月集まって、西陣の地域を盛り上げるための議論を重ねることはもはや定例となっていました。この頃、テーマとなったのは、西陣の最後の杼(ひ)職人である長谷川杼製作所の長谷川淳一さん。

※杼(ひ)とは …
織機に張った経糸(たていと)に緯糸(よこいと)をくぐらせながら織る時に使う道具。巻いた緯糸を収めて、経糸をくぐらせる道具を杼(ひ)といいます。

長谷川さんの技術は高く、伊勢神宮や海外からの依頼も多数寄せられていました。しかし、織文化が衰退し極端に生産が少なくなったこと、皮肉にも杼自体の耐久性が高すぎるがゆえに買替え需要も少なく、後継者がいないことも重なって、当代で暖簾を降ろすことを決意されたのです。

「このままでは、またひとつ西陣の伝統と職人の技が消えてしまう」

私たち西陣の町衆は長谷川さんへのリスペクトを込め、そしてその名と歴史を伝承するために立ち上がります。

私は新しい西陣名物となるような、長谷川さんの作る杼を模した菓子を開発するという重大なミッションを引き受けることにしました。

明治12年より京のお漬けもん処として知られる近為さんの漬物と創業明治35年 西陣の味を今に伝える五辻さんの昆布を使用したコラボレーション商品をつくることになりました。

試行錯誤を繰り返しながら『杼菓子』が完成し、私たちは『西陣サロン』としてクラウドファンディングにも挑戦。みなさまのおかげもあり成功を収めることができました。

また、新しい西陣名物の開発をきっかけに、日頃、接点が少ない異業種の方やたくさんの職人たちとの親交が生まれた楽しい時間でもありました。

さらに、西陣の老舗料理店、西陣織工房、MKタクシー、人気ホテル、京都市、京都市観光協会、京都信用金庫そして弊社を入れたメンバーで、『西陣ツアー』を開催し、日本全国からお客様を集客する事業にまで発展。2022年7月7日~2023年3月31日の9か月間に約200組のお客様がご参加くださいました。

さらにさらに、近為さん、五辻さんでは、宗禅の商品も販売していただけることに。

新たな挑戦や商品開発は、楽しさと同時に時と手間が掛かるものですが、町衆のみんなと一緒に成し遂げた達成感や繋がりは、かけがえないものだと感じます。

京都のように横のつながりが色濃い地域では、こうした活動が新たな展開を生み出すきっかけとなることも多いのです。

『杼菓子』は西陣Fesなど西陣を盛り上げるイベント開催に合わせて製造し販売しています。

次回は、2回目の幹部合宿で実感した、宗禅グループの成長と変化について記します。


本日はここまで。
今回もお読みいただき、有難うございました。

次回もお付き合いいただけますと幸いです。


ではまた。
山本宗禅

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