ショートショート#10「出会いは転がっている」(湯河原さんシリーズ#1)

「彼氏出来たか?」
湯河原さんはいつでも直球質問だ。
「出来ませんよ。出会いがないですもん」
「若い奴はその言い訳ばっかだな。出会いなんていくらでも転がってるじゃないか」
湯河原さんはいつだって偉そうだ。
しかし嫌味のない湯河原さんの直球の言葉は嫌いじゃない。
そんなことを考えていると、湯河原さんがテーブルの下から何やら拾い上げた。
「ほら、出会いあったぞ」
湯河原さんの手にはガチャガチャで出てくるような丸いカプセルが握られている。
そして湯河原さんがそれを開くと煙が出てきて、見る見る内に人型となり男性が現れた。

「初めまして」
男性は爽やかに私に握手を求める。
「ほらな、出会いはどこにでも転がっているんだよ。早く彼氏作れよ」
また湯河原さんが偉そうに言う。

「出会いが転がってるってそういう意味!?」 私の狼狽をよそに、男性と湯河原さんは野球談義に花を咲かせ、なぜか意気投合している。
早く彼氏作ろ。

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