ショートショート#特別編「ホームレスのタドコロさん」

タドコロさんには家がない。
公園に段ボールで作ったベッドを敷いて眠っている。
警察や公園の管理人には注意され、通行人からはゴミ同然の扱い。
迷惑をかけているから当然だ。
ある日小学校低学年と思われるおかっぱ頭の男の子が「僕はユウキ。おじさんは?」と、気さくに尋ねてきた。
「タドコロ」
「タドコロはずっとここで暮らすの?」
呼び捨て。まぁいい。
「今だけだ。仕事が見つかるまで」
「働く気があるんだ」
「お前、俺を馬鹿にしてるんだろ」
「別に馬鹿にしてないよ。でもいっぱい殴られて痛くないの?」
「は?別に殴られてねぇぞ」
「でもお父さんがこの公園のホームレスがネットで叩かれてるって言ってたよ」
「そういうことか。俺はネットを見ないから痛くも痒くもねぇ。無敵だ」
「ネット見ないで仕事見つかる?」
「うるせーよ」
「タドコロ、口先だけじゃなくて実際に頑張れ!口先だけの大人は僕の周りにもたくさんいるよ」
「最近のガキは生意気だな」
俺は仕事を失った後、家と家族も失い、臆病になっていた。
また何かを得て、失うことが怖かった。
だから「ホームレスは仕事が見つかるまで」という気持ちが、段々「このままでいいか」と、気力を失いかけていた。
だけど生意気なガキの言葉に不思議と奮い立った。
ネットで叩かれてる?迷惑かけてるから当然。
そんな人々にいつか恩返し出来るように、まずはネットで仕事を探すか。
こんな身なりの俺でも使ってくれる、日雇いバイトを知っている。
日雇いバイトをして、少し身なりを整えて、ネットカフェに行こう。
勇気を持って、ホームレスはやけに胸を張って歩き出した。
「ユウキ、ありがとう」
「その言葉は結果を出すまでとっときなよ、タドコロ」
「最近のガキは生意気だな」

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