2024年は外国人労働者新時代の元年となるか?今国会の注目点

最近ニュースで頻繁に取り上げられている自動車運送業界の「2024年問題」。これは今年の4月から運転手の残業時間に年間960時間の制限が設けられることで、深刻な労働力不足が予測されているというものですが、この待ったなしの労働力不足が、外国人労働者の受け入れにも大きな変化をもたらすきっかけになっています。このほか、日本の外国人受け入れ政策は今大きく動こうとしており、様々なニュースが飛び交っています。
この記事では特に今国会の動きに注目し、全体の流れとつながりを整理してみたいと思います。


特定技能の分野追加

「特定技能」(1号)とは、建設や農業、介護など、人手が足りない産業12分野に外国人労働者を受け入れるための在留資格で2019年にスタートし現在に至ります。この制度により、現在約20万人の外国人が日本に在留ししています(2023年11月現在)。そして制度開始から5年を経て今回、「自動車運送業」「鉄道」「林業」「木材産業」の4つの業界が新たに受入対象分野に加わることになりました。政府はこの変更について2024年3月中の閣議決定を目指しています。

「自動車運送業」の産業分野追加は、まさに冒頭で触れた2024年問題の対策として講じられたものであると言えるでしょう。昨年末にタクシーやバスなど旅客運送のために必要となる二種免許の筆記試験が20言語で受験できるようになるというニュースがあったことを覚えていらしゃる方もいるかもしれませんがあのニュースも実は特定活動の分野追加(「自動車運送業」)に関連するものでした。


実は特定技能は、他の在留資格と異なり「受入上限人数」が設定されています。特定技能の制度が開始された2019年の時点では、5年間の受入人数として34万5000人の枠が設定されていました。それから5年が経った今、政府は受け入れ人数を大幅に増やし、次の5年間で82万人まで拡大することを決めました。この数字の増加からも、日本が抱える人手不足の問題がどれほど深刻かがわかります。

技能実習制度の廃止と育成就労創設

特定技能の変化と並行し、技能実習制度についてもメスが入りました。実習生の失踪や職場での人権侵害など国内外から批判を受けてきた技能実習制度ですが、昨年11月30日に「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告書が法務大臣に提出され、今年2月に政府は技能実習制度に代わる新制度「育成就労」を創設することの最終案を出しました。

「育成就労」新設の法案は昨日(3月15日)閣議決定されましたので、まもなく今国会に法案を提出され、2027年までの施行がめざされるとのことです。

「育成就労」新設案の概要としては以下の通りです:

  • 現行の技能実習制度を解消し人手不足分野における人材確保及び人材育成を目的とする育成 就労制度を創設する

  • 外国人の受け入れ対象分野は特定技能制度における特定産業分野の設定分野に限定する(従来の技能実習の企業単独型については別の枠組みでの受け入れを検討する)

  • 対象分野ごとに受け入れ 見込み数を設定し 受け入れ 上限数として運用する

  • 「育成就労」における3年間の就労を通じた育成期間において特定技能1号の技能水準の人材を育成する

  • 人権保護の観点から「 やむを得ない事情がある場合」の転籍について 範囲を拡大 明確化する

  • 監理団体、登録支援機関の要件を厳格化。外国人技能実習機構を外国人育成就労機構に改組。

一体、どういうことなのか‥一言で言うと、2つの独立した制度であった「特定技能」と「技能実習」が融合され、一本化されていくというイメージではないかと思います。

これまで技能実習と、特定技能はそれぞれ対象分野が独立して設定されていました。そのため、技能実習の対象となる職種であっても、特定技能では対象分野とはされていない職種がありました。
技能実習から育成就労へと移行するにあたって、育成就労と特定技能の受入対象分野は一本化されることになります。

それに伴い、制度の目的も大きく変わります。技能実習制度は「我が国の技能技術を開発途上国に移転する」という制度主旨で行われてきましたが、育成就労制度においては「人手不足分野における人材確保及び人材育成」が目的として掲げられ、今後は特定技能1号の技能水準の人材を育成する準備期間として位置づけられることとなります。

これまで、「外国人労働者を受け入れる」と表立っては言えず、「国際貢献」という建前を使ってきた日本がついに、「人手がたりない!だから外国人労働者が必要!」と正面から認めたということです。

「育成就労」から「技能実習」への移行
育成就労の期間は基本的に3年が設定されていますが、3年間の育成就労を経て、特定技能1号に移行する場合は、日本語能力の試験(日本語能力A2相当以上の試験(N4等))に合格すること及び技能検定試験3級等又は特定技能1号評価試験合格に合格することが求められます。特定技能1号では最長5年の在留が可能となります。

特定技能1号を経て2号に移行する際には、より高度な日本語能力及び技能レベルを証明する試験に合格する必要があります。
当初当初特定技能2号は1号に比べ対象分野が限定されており建設と造船・船舶のみが対象となっていましたが、昨年6月の閣議決定によって特定技能1号の12の特定産業分野のうち、介護分野以外(注1)の全ての特定産業分野において、特定技能2号の受入れが可能となりました。(介護については在留資格「介護」があることから、特定技能2号の対象分野とはされていません)
つまり、育成就労→特定技能1号→特定技能2号の接続がしっかりと示され、外国人労働者のキャリアパスが敷かれたということになります。

制度の一連の繋がりについて、下記の日経新聞の記事がとても分かりやすかったです。


永住資格適正化

そんな中で、永住資格のお話。ちょっと唐突だし、直接の関連性はないと感じられるかもしれません。筆者も特定技能・育成就労の資料の末尾に「永住資格適正化」という文字を目にしたとき、なぜこのタイミングでこの話題が出てくるのかと疑問に思いました。

ところが、多いに関連性ありなのです。
育成就労(上限3年)、特定技能1号(通算上限5年)、特定技能2号(期間上限なし)のキャリアパスの先に見えるのは、永住申請です。永住申請を行うための要件の一つは「10年以上の継続的な在留」であり、上のキャリアを経た人は永住申請の射程圏内に入ってくるということになります。これまで技能実習、特定技能からの永住申請は実質的に閉ざされていましたので、これは日本の入管の大きな政策変更であると言えるでしょう。

しかしながら、どこかを開ければどこかを締めるのが、日本の入管政策の真骨頂・・。そこで打ち出されたのが、この永住資格取り消しを可能とする制度である「永住適性化」であると考えます。

具体的には、故意に税金や社会保険料の未納や滞納を繰り返した場合や、窃盗などの罪で1年以下の懲役や禁錮になった場合は永住許可を取り消すか、ほかの資格に変更できるように在留資格制度を見直すというもので、こちらも今国会に関連する法案が提出されることとなっています。

外国人受け入れ枠を大幅に増加し、永住申請への門戸を開く一方で、永住資格を取得した者についても、社会保障の担い手としての責任を求めていくという姿勢を示すことで、アメとムチではないですが、開く部分と締める部分を明確にするということなのではないかと思います。

或いは見方を変えると、こうした厳しい姿勢の提示は、厳しい姿勢は、日本政府が外国人労働者を本格的に受け入れる覚悟を示すものであり、その代わりに適切な義務の履行を求めているとも解釈できます。(と同僚に話すと「ポジティブシンキングが過ぎる」と言われました 汗)

このように、この春を境に、日本の外国人労働者受入れ政策は大きく変化していくことが予想され、今後も積極的に情報収集・情報交換していきたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?