見出し画像

8月に読んだ句集から

8月に読んだ句集の中から特に印象的だった3冊を選び、現状好きな句を10句ずつ拾いました。
なお、ヘッダー画像は8月中に行った不忍池です。本文とはあまり関係ありません。


『松下童子』は宇佐美魚目(1926-2018)の第7句集。
端正な句づくりの中に、独特の感覚の冴えがある句群でした(この辺りをもっときちんと言語化できればよいのですが…)。読んでいて思わず姿勢を正したくなるような気魄がありました。
引用は『魚目句集』(青磁社、2013年)より。

東風吹くや下げてずつしり赤き肉
飛ぶ鳥の蛇落しけり秋の昼
こののちの夜長うさぎに青き葉を
風にのる百のかもめも雛祭
日盛りや刈りしばかりの蓬の香
相客のごとし蕪と川舟に
潮の香を松に吹きつけ大暑かな
糸のびて蜘蛛下りてくる寒の内
生家とは火と水それに蟬の穴
木より落ち舌出しにけり秋の蛇


『麦稈帽子』は今井杏太郎(1928-2012)の第1句集。
疎な言葉の並びの中に微かなさびしさが滲む句が並んでいて、まるでおいしい水を飲んでいるかのような心地よい読後感がありました。
引用は『今井杏太郎全句集』(角川文化振興財団、2018年)より。

山あひを流れてゆきし春の川
雲を見てをり春の雲ばかりかな
老人のあそんでをりし春の暮
風船の離れたる手をポケットに
老人の息のちかくに天道蟲
あかあかと風の上なる椿の実
梨むいてをりなにごともなかりけり
ほほづきのぽつんと赤くなりにけり
からまつの十一月の林かな
馬のゐる枯野を好きになりにけり


『朝』は岡本眸(1928-2018)の第1句集。
都市における日常生活に立脚した強靭な詩情が印象的でした。硬質な文体も魅力的です。
引用は『岡本眸全句集』(ふらんす堂、2024年)より。

カンナの前濡れし水着を提げ通る
蓮枯れて人は無口にすれちがふ
百合匂ふ暗き方へと向き睡る
秋の湖桟橋あれば人臭き
花買ひにもつとも寒き車庫よぎる
都電老いぬ新緑に窓開け放ち
三面鏡に部屋中うつる冬すみれ
胸に引きよせて水引草愛す
天井の明るき日なり桃買はむ
むらさきの鶏頭見たり月の道

この記事が参加している募集