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超次元時空遡行員『スピードレイカー』Mk-6の最期

世界は一つではない。

あらゆる世界は積層化(レイヤード)・分割化(パッケージド)され、その存在構成定義情報の全ては事象の果てで世界並列統合連結駆動機構(ユニバース・ギア)に接続・連結・集約される。

だが世界一つ一つは大時計塔の歯車の如き物。
世界の営みが続き情報が更新され続け、歯車は噛み合わなくなり、欠けてきしんでやがて合わさり繋がった全体に歪みが伝播してゆく……時計の時間がずれて行くように。


その大時計塔にも整備士達がいる。


それが『スピードレイカー』。


あらゆる世界に生まれた次元の欠落
、時空の歪みを修復する。
世界の歪みから生まれた敵性存在(アーチエネミー)を打ち倒し、邪なる望みを抱え時と世界を越える犯罪者達を誅戮する。
次元を超え、
時空を遡る多元世界の調律者だ!

――

……そんなお題目だった。

確かに自分はそうしてきた。
『スピードレイカー』として幾つもの世界を渡った。戦った。幾つもの世界を護った。存在を救った。
はずなのに。

彦次郎は頭上遥か先を流れていく、虹色の雲のような流れを見上げる。
あれはこの境界面に接した他の世界が、スーツを通して彼の脳に視覚情報として投影された物だ。
多彩なる色のきらめきの向うそれぞれに世界があり、営みがある。

「……もう、いいかな」
自分が帰りたかった場所は。

「帰りたかった」
どれだけ世界を渡れば、たどり着けるだろう。

「……はずなのにな」

スピードレイカーになった時点で、既にスーツ無しで幾つも世界を渡っていた彦次郎の身体は存在定義の更新・変質で発生世界の座標情報を取得できなかった。

……帰り道は、もう解らなくなっていた。

ここではエネルギー自動供給機構も正確に動作しない。留まり続ければいずれ機能停止する。
そのまま消失するなら、それでもよかった。

今もまだ、覚えている。

「……逢いたかった、宮子ちゃん」

あの夜、次元の狭間に落ち込む前。
喫茶店で最後に別れた時の、あの顔を。

【続く】