リモートワーク・サンタ

「今年のクリスマスのプレゼント配布計画は中止!?」
「はい……国際サンタクロース協会中枢最高評議会の決定では、今年の色々な事情を考慮してサンタクロースのプレゼント配布計画は全世界的に自粛する方針であると」
「確かに……トナカイの引く空飛ぶソリでの移動なんて国境検疫知ったことかなんて行い今までクリスマスのお目こぼしで許されてきたようなもんなのに、今年に限ってはそんなことも言ってられないしな……」
「しかしどうするのだ!?世界中の扶養児童を持つ親や保護者の方々の中枢無意識に働きかけてサンタクロースからだと偽ってプレゼントを枕元に用意させる行為もトナカイの引く空飛ぶソリでの移動によってサイコ・ヒプノシス・ウェイヴを展開することで実現できていたのだぞ!?あれの有効範囲はそう広くはない!移動せずに世界中に展開するなど不可能だ!!」

「あわてるでない……年わかきサンタたちよ……」
「サンタ長老!」
「サンタ長老!!」

「おまえたちもわたしも……現代に生きるサンタクロースたちは誰もかってのサンタ衆達よりその能力を大きく衰えさせたという……」
「トナカイの引く空飛ぶソリでプレゼントを配り、サイコ・ヒプノシス・ウェイヴで人々にプレゼントを交換させる我々の能力が……?」
「類まれなるサイキック能力をクリスマスに人々に幸せをもたらすことにのみ生かす我らサンタ族……だがそれはかってのサンタ族の先祖たちがその力をかさにきて時の為政者に叛意を示し人々を苦しめ、その贖罪としてこの極寒の地に封じられ人々に奉仕することを条件として生かされたことの名残なのじゃ」
「そんな哀しい秘められた歴史の真実の闇が……!」
「そしてそのサンタ族の長であったものは強大なサイキック能力により不老不死にも等しい力を得て……今もなお生きながらえておる!その名も真祖……大サンタ!」
「大サンタ!!」
「大サンタ!?」
「来るがよい!そなたらも今こそ己が運命の始まりを知る時!大サンタの元へと向かおうぞ!」


「なんと……村の地下にこんな巨大な洞穴が!」
「寒い……雪どころかまるでバスタブいっぱいの氷の中に落とされた様だ!」
「!」
「見ろ!あすこに大きな湖……いや、氷だ!氷漬けの地底湖だ!!」
「あれのせいでこんな寒さに……」
「あれぞ氷獄!サンタたちよ、見るがよい!」
「あれは!氷獄の奥底に……サンタが!!」
「地底湖いっぱいの……巨大な……サンタだ!!」

((当代のサンタ長老か……他にも誰かおるな……))

「なんだ今の声は!?」
「声……?頭に直接響いたぞ!?」
「鎮まれ皆の衆、これは大サンタ様の御言葉!」

((サンタ長老よ……其方がここに来た目的は大方知っておるぞ……長老たるお主の思念は我に届いておる故……))

「それであればお話が早うございます、大サンタ様!今年のクリスマスのプレゼント配布計画が中止となる折、我らのプレゼント配布の手段すべて断たれる事となればサンタクロースとしての務めを果たすことができませぬ!それでは大サンタ様、ひいてはそれに連なるサンタ族の父祖たちに顔向けができましょうや!かくなる上は大サンタ様の御力と知恵を授かり、今年のクリスマスのプレゼント配布を完遂したく恥を忍んで当代サンタ衆一党参上いたしました次第!なにとぞ、なにとぞ力をお貸しください大サンタ様!!」
「……」
「……」
「ええい、おぬしらも頭を下げんか!お頼みせんか!」

((よい、サンタ長老よ……お主等の窮状、思念を悟りあい解った……サンタクロースの務めを果たすこと能わざることとなれば、我としても慙愧の念に堪えぬ限り……))

「大サンタ様……」

((手段がないわけでは無い……だがこれは私が氷獄に身を封じる以前の時代も決行したことの無い極大サイキック事象干渉計略魔方陣となる……当代サンタ衆全員の力が必要だ……))

「問題ありませぬ大サンタ様!この期に及んで大サンタ様の下賜された計に参じない不忠者はおりませぬ!そうだなお前ら!」
「エッ……アッ、ハイ」
「やります……やらせてください……」
「わかりました……」
「問題ありませぬ大サンタ様!」

((よい……それでは決行は時差を考慮して…………))

決行当日!
即ちクリスマスイブ(各国の時差が考慮されているので正確にはちょっと違う)!

地底湖氷獄には大サンタを取り囲むように当代サンタ衆、そして大サンタの心臓直上に位置する箇所にサンタ長老が座す!

((それでは私のサイキック・パルスをサンタ長老を中継してサンタ衆に伝達、しかる後にサンタ衆の念動ウェイヴ操作によってサイキック・パルスを環流増幅させる……これを繰り返すことで極大増幅させたサイキック能力により全世界のプレゼントを待つ者たちの許へと実体プレゼントを顕現させるのだ……))

「わかりました問題ありませぬ大サンタ様!そうだなお前ら!」
「エッ……アッ、ハイ」
「大丈夫……だと思います……」
「わかりました……」
「問題ありませぬ大サンタ様!」

((それではゆくぞ…………クロォアアアーーーーッッッ!!))

「クロォアアアーーーーッッッ!!」
「クロォアアアーーーーッッッ!!?」
「クロォアアアーーーーッッッッ!!?」
「クロォアアアアーーーーッッッッ!!?」

((クロォアアアアーーーーッッッッ!!!!))

「クロォアアアアーーーーッッッッ!!!!」
「クロォアアアアーーーーッッッッ!!!!?」
「クロォアアアアーーーーッッッッッ!!!!?」
「クロォアアアアアーーーーッッッッッ!!!!?」

((アアアアアアアアーーーーッッッッッ!!!!!))

「「「「「アアアアアアアアーーーーッッッッッ!!!!!」」」」」

「ねえママ、サンタクロースさんいつくるのかな?」
「ほらもう寝なさい、寝ないとサンタさんが来ないわよ」
「はーい」
(とは言っても今年なにもプレゼント買ってないわ……どうしてかしら、去年もその前もこんなことなかったのにどうしてか買いだそうという気持ちが……どうしてかしら)
「……ママ!来て!ママ!早く!」
「一体どうしたの、早く寝ないと……エエッ!?何この光は!?」

「ハーッ……ハァーッ……いいよ、いいよお前最高だよぉ」
「アーッ……もっと、もっと突いてぇ……チカチカするぅ、なんか頭の中が光ってるみたいィ……」
「ハァーッ……ハァーッ……エッ、ちょっと待てお前、マジで光って、光ってねぇ……?」
「光ってる、光ってる、なにこれ?なにこれぇ!?なんかあったかい……あつい、熱いよぉ!」

「後退しろ!後退だ!」
「見込みのない負傷兵は捨てていけ!」
「おい起きろよ、ここで寝たら死ぬぞ……」
「……頼む、俺を置いて……」
「そんなこと言うな」
「エグ……うっ、俺のかわりに、妻と息子を頼む、お前なら安心して……」
「そんなことを言うんじゃあねぇ!」
「ああ……光が……あたたかい……神様……」
「おい何を……なんだこりゃ……本当に光って……?熱が?」
「なんだこれは?」
「新兵器か!?熱い……焼ける!?消えて……」
「あああっ……!」

天地創造の1日目、主は「光あれ」と言われたという。

サンタクロースの伝説のその起源は弱者と恵まれぬ者、信仰の少ない者に救いを与える聖人伝承にあったという。

極寒の地に封じられサンタクロースの任を宿命として受け継ぎ続けてきたサンタ族達は、その運命が断たれる瀬戸際となり自らの力の閾を越えて聖人の奇跡、いや主がもたらす祝祭の奇跡に到ったのであろうか。それはもはや誰も知ることが無い。

地上と人々の遍く罪業を焼き、新たな人々の営みを導く祝祭の奇跡の光の煉獄は現出してよりその後12日の間、1月の7日まで続いたという。

【終わり】


※ 逆噴射小説大賞2020に5作投稿した後に、思いついたネタがあったので1作したためました。扱いとしてはボツ作品になるでしょうか(先に思いついてたら多分800字に刈り込んで投げてた)。