映画『世界一美しい本を作る男-シュタイデルとの旅-』感想

まず、映されているのはタイトルの通りの内容だった。ドイツの出版社を営む男が、写真家やアーティストなどと一緒にこだわりの本を作る。
目が離せないなと思ったのは、主人公の仕事ぶりが細かく描かれていることだった。彼は、社長でありながらおそらく全ての仕事を把握している。そのような話ぶりと行動だった。
依頼者とのやりとりでは、出来ることはとことん検討と確認を繰り返す。
部下への指示も明確。費用についても、「一度確認します」などとは言わない。その場で算出する。そして、依頼者に決断させるべきところでは自分の意見と共に決断させる。
それは、全てを把握していないと不可能なことだ。話し方も非常に論理的で「選択肢は2つある。◯◯と△△だ」分かりやすい。
そして、打合せでは時に事務的に、時にユーモラスに、しかし話の軸をぶらさずに話す。そして、次の土地へと向かう。
やはり一番気になったのは、費用とクリエイティブな部分での会話が明確で分かりやすいことだ。「これをこうすれば安くなるかもしれません、、、」ではなく「こうしたら、ここの品質は落ちるが、コストは落ちる。そしてそれは感覚の問題だ。君に判断してほしい」明確。
自分の仕事への自信だろうか。経営者としての自負だろうか。どこにも甘えがない。
そして、マーケティングというのか、経営の方法も明確。
“売れるベストセラーを作り、そのお金で売れないかも知れないけど、おもしろい本を作る。売れないかも知れないが、自分たちの作る質の高い本のコレクターが世界中にいる”
正確ではないかも知れないけど、ざっとこんな感じだった。

アナログなものが売れなくなったり、時代の移り変わりで商売がうまくいかなくなった人はきっとたくさんいると思う。しかし、真面目に誠実に、クリエイティビティを持って仕事をすれば、アナログでも時代に合っていなくても仕事になるのかも知れないと思わされた。

それと、気になったのがシュタイデルが会う依頼者それぞれに映画の中では章立てされていて、一度出てくるとその後出て来ないのだが、一人iphoneで撮影した写真を本にしようとしている写真家?だけが何度も出てくることに何か意味があるのか?と感じた。

それは、おそらくiphoneというデジタル時代の到来と、その中でもなお生き続けるアナログの素晴らしさ。これらが敵対するものではなくて、融合してより相乗効果を生んでいくのだと語っているのかも知れない。
そう考えると、別の写真家との話の中でも、フィルムで撮影することとデジタルで撮影することの対比を話している。フィルムの情報量は、デジタルにすると6GB相当だそうで、、、デカい。現在でも写真1枚で6GBはなかなかいかない。プロの写真機ならあるのかも知れないが。
つまり、デジタルがあるからアナログは不要説など、的が外れていて、それぞれに用途があり、メディアとして共存していくことが出来るということも、この時代にこの映画を作り出した意図の一つなのかも知れない。

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