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第1章#02「スープ会議」のヒミツ。(みんなの温度管理人POTさんに聞く!)

「スープ会議」を体験して驚いたことは、まず、集まってくる人たちの気持ちをワクワクさせたり、はじめての人でも安心してその場を楽しむことができる工夫があちこちにあること。スープ鍋のカタチをした大きな名札や、おしゃれでかわいいメニュー表やメモ用紙、コトコトやグツグツ~などの書いてあるコトバの選び方など、細やかなところにもスープな世界観が表現されています。それに、漂ってくるキッチンからのいい匂いも!目で楽しい、耳でためになる、口でおいしく味わい、まわりのみんなと触れ合って・・・五感を刺激してくるワークショップなんて、なかなかありません。進行役のPOTさ~ん、「スープ会議」のヒミツ、もっと教えてください。

POTさん
――もちろんです。今日は参加してくださってありがとうございます。さっそく、と言いたいところですが、ちょうど「スープ・ブレイク」の時間なのでいっしょにいただきませんか? そのあと、スープ会議が終わってゆっくりお話しさせてください。

なぬ!!「スープ・ブレイク」!? さっきから会場に漂っていたいい匂いの正体はこの「スープ・ブレイク」のために用意されたスープだったのか。

POTさん
――今日は、「かぼちゃのスープ」です。このスープは、スマイリングのキッチンLABO※のスタッフさんたちが、自分たちの畑で収穫した野菜などをつかって用意してくださるんです。めちゃくちゃおいしくて、いつもおかわりしています。ワークショップに参加したことがある方ならわかると思うのですが、はじめて人と人が会う場ではどうしても空気が固くなってしまうときがあるんですよね。で、簡単なゲームなどしてそうした場の緊張を解きほぐすことを一般的に「アイス・ブレイク」というのですが、スープ会議ではそれを「スープ・ブレイク」と呼ぶことにしました。平日6時半からの会議ですし、参加者のみなさんも仕事帰りでお腹が空いています。このスープ・ブレイクを楽しみにいらっしゃる方も(笑)
※キッチンLABO:豊田市美里にある、モーニングやランチ、テイクアウト惣菜を提供する、地域のための食堂。

スープは、その時の旬の食材に合わせて
毎回異なるものを用意してくれています。
スープを飲みながら会話することも、
「スープな関係」づくりにつながります。

前半のワークで頭をつかったぶん、ほっとひと息。みなさん、スープをいただきながら、お隣さんとの話も弾んでいるみたい。なるほど、アイスではなく「スープ」でほっこり人と人の距離感をあたためるんですね。POTさんはかぼちゃのスープをおかわりして、後半のワークの準備に移りました。少し話しただけですが、POTさんは東京の人なのかな。標準語でとってもわかりやすく説明してくれました。

さて、どこから聞こうかな。そもそも「スープ」ってなに?食べる方のスープを差しているのではないことは想像できる。だけど豊田市にある介護福祉施設でなにがどうなって「スープ」なの? そのあたりから教えて!POTさん。

POTさん
――はーい。お待たせしました。「スープ会議」を楽しんでくださったようでありがとうございます。まずは自己紹介から。僕もみんなとおなじ名札を付けていて、呼んでほしい名前は「POT(ポット)」です。ここではスープ会議の進行役を務めています。「みんなの温度管理人」として、アツい意見や、クールな反応を調整して、ちょうどいいころあいに保温できるよう心掛けています。本業は、コミュニティ・デザイナーです。地域の人たちの声をヒアリングしたり、地域でワークショップなどを開催したり、そこから生まれた活動をサポートしたり。地域に暮らす方たちが昨日よりもちょっと楽しい方の未来に向かっていけるよう一緒に歩む、ってかんじの仕事をしています。

ん・・・ということは、ガスパッチョ隊長のところのスタッフさんではないんですか?

POTさん
――あ、そうです、そうです。ガスパッチョ隊長から依頼されて、スープタウン・プロジェクトが生まれる手前あたりから、お手伝いしています。ここ数年、介護福祉系の施設づくりをゼロからお手伝いすることが増えてきて、そんなご縁で、ガスパッチョ隊長と出会ったんです。ぼくは、名古屋生まれ、名古屋育ちですが、尾道(広島県)で80代のおばあちゃんと70代の妹の3人で暮らしていた時期がありまして、その時、いろんなことを感じたんですよね。高齢になって、介護施設に入ることで、おじいちゃんやおばあちゃんがこれまで積み重ねてきた社会との関係がいきなり途切れてしまうのは違うんじゃないかと思ってきたこともあり、ガスパッチョ隊長やローリエ女史と意見を交わしながら、スープタウンがどんな場になるとよいのかを共に考えています。

「スープ会議」とは、どういう意図から生まれたものですか?

POTさん
――デイサービスを経営してきたガスパッチョ隊長が、ある頃から、「有料老人ホームを核とした複合施設」をつくりたいと思うようになったんですね。で、もっと地域とのつながりをつくっていくために住民ワークショップを開いてくれないか?という相談を受けました。それで、豊田市における「松平・下山」という地域の特性などを調べながら、ワークショップをどんな場にするのがいいか、友人のコピーライターさんとも相談しながらアイデアを練っていたんです。その時に、コピーライターさんがいろんな会議名を提案してくれたんですが、一番最後に「アイデア、ぐつぐつ。SOUP会議」というフレーズがあったんですよね。「ん、SOUP…?」という、いい意味での違和感がありました。これまでぼくが関わらせてもらってきたまちづくりや福祉系のワークショップにはなかったトーンの名前で、「いい予感がするかも…」「チャレンジではあるけど、いけるかもしれない…」とどんどん妄想が膨らんでいったんです。

ブーケガルニ
――突然、横入りしますw コピーライターのブーケガルニですw。当時、POTさんから会議名の依頼を受けて、私自身は介護や福祉業界のことを知らなかったので、めっちゃくちゃ悩んだんですが、直感的に「かわいくておいしそうな名前がいいな」と思ったんです。フランスやイタリア料理とかにある「アヒージョ」とか「〇〇のポワレ」とか、そういった響きがほしいと思って、いや、でも、それじゃ誰もわからんやん、ってひとり脳内会議を続けているなかで、ふと「SOUP」ならどんな世代の人もわかるはず。「スープ会議」という名前で、いろんな人のアイデアが煮込まれていくような世界観はどうかな。と、提案書のラストに描き加えたのを覚えています。POTさんは、ものすごい頭のキレる、アイデア豊富な方なので、そんじょそこらのアイデアでは許してもらえないので、マジ、必死でしたけどw

POTさん
――そうですね(笑)。ブーケガルニさんは気の置けない友人なので、ピンとこないアイデアはいつも厳しくスルーしちゃいます(笑)。でも、その時に「SOUP会議」というワードといっしょに、ブーケガルニさんが「スープタウン構想=スープのさめない距離で暮らそう」というキャッチコピーも添えてくれていたんですよ。それで、SOUPって、会議だけでも建物だけでもなく、まちのこと、ひいてはこれからの理想の社会のことまで広がる世界観をもった言葉かもしれない、と思えたんです。

ブーケガルニ
「スープのさめない距離」というのは、核家族が増えた時代に、親世帯でつくったスープ(おかずなど)をアツアツのまま子世帯に届けられるぐらいの距離で暮らせると親子関係もほどよく、うまくいくよね~というような昭和のひとつの生活スタイル。POTさんやガスパッチョ隊長たちが、単なる高齢者の入居施設ではなく、「多世代が支えあって暮らすことができる地域」になっていってもらいたい、と話されていたこともあり、その令和版をつくれば、これからの時代の人と人の距離がデザインできるかも~と話が広がりました。いろんな具材(人やアイデア)がまざりあっているまち。お昼時や夕方、どこからともなくスープのいい匂いが漂ってくるまちとかいいなあって。でもまあ、私はコトバの人なので。妄想だけをが~っと広げる係ですけど。

POTさん
――ただ、この「スープのさめない距離で暮らそう」というキャッチコピー、ぼくはすごく不安がありまして…。というのも、豊田市って車社会だし、松平・下山地区(豊田市)は、家と家の距離がかなり離れているところも多くて、スープを届けようとしても、絶対にさめてしまうんです。だから、「スープ」という言葉がこの地区になじむかどうかの確証が持てないままだったんですが、自分の中にいい予感はあったので、キャッチコピーからバックキャスティング(*1)的に、「じゃあ、スープなまちってどんなとこ?」を考えることをワークショップのスタートにしてみよう、となりました。

ヒアリングを通じて、スープタウン周辺に住む人たちにとっては、たとえ市街地の方が物理的距離(車での距離も)は近くとも、車で30分以上かかる下山地区のほうが「心の距離」が圧倒的に近いことがわかった。それぐらい、豊田市では「2つの川」の存在が生活に大きく影響している。
(*1)バックキャスティングとは、今置かれている状況に対する解決策ではなく、目指したい理想の未来から逆算して考える思考法のこと。不確実で予測不可能な時代(VUCA)を楽しむヒントにもなりうる。

ブーケガルニ
――「スープがさめちゃう地域かもしれないけれど、何かいい捉え方があるはず…」と、ずっと悩んでましたもんね。でも、ワークショップを積み重ねていく中でついにその答えが見えたときは、生みの親である私も安心しました(笑)

POTさん
――長いこと不安にさせてすみませんでした(笑)それと、「SOUP」というキーワードが地域にすぐに理解してもらえるだろうか…という不安もありました。地域でのワークショップは、皆さんが自身の大事な時間を割いてわざわざ来てくれる場なので、楽しくなかったり、参加する意義が感じられなければ次の回に来てくれないこともあります。SOUPという少し遠回りなキーワードがはたして通じるだろうか…。そこで、まずは同じ業界内で試してみようと、「介護福祉の専門職向けスープ会議」を開いてみることにしました(2020年12月~2021年2月)。そして、その手ごたえや反省点を踏まえて、2021年7月に第1回目の地域版「スープ会議」を開いたんです。

こちらが介護福祉業界の専門職向けに開催したスープ会議。
こちらでも「参加する意義」を感じてもらいたいと、
生まれたアイデアをそれぞれの事業所でも使えるよう、
アイデアを「ライセンスフリー」にすることに。
地域版「スープ会議」のチラシ。
専門職向け会議で聞いた意見を参考に、
地域の人でもわかりやすく、
かつ興味を惹くデザインを心掛けた。

ブーケガルニ
――「専門職向けスープ会議」も楽しかったですよね。コロナの初期だったので、みんながまだ慣れないZOOMでの会議システムを使って参加しました。面白かったのは、ZOOMでの背景画面をさまざまなスープのイラストにしたこと。参加者が好きなスープのイラストを選んで、自分の背景に設定するんです。ちなみに、この背景イラストはグラフィックデザイナーのセロリ君が描いてくれたんですが、彼自身がお料理好きということもあって、ひとつひとつがめっちゃくちゃ美味しそうでオシャレ!!ぱ~~っとスープタウンでつくっていきたい世界観が見えてきた気がしたんですよね。

セロリ君が描いてくれた10種類のスープイラスト。
参加者には好きなスープを選んで、
ZOOMの背景画面として設定してもらった。

「なんでクラムチャウダーにしたの?」「わたし、ミネストローネが大好物なんです」「えー、どれも可愛くて選べない~」など、介護福祉関連の会議からは生まれないような会話が生まれるひとつの仕掛けです。こういう、ひとりひとりの側面を引き出しながらつながりをつくっていくPOTさんの工夫にはいつも驚かされます。

POTさん
――そういえば、今日は選びきれないっ…!という人のために、全スープが載っている背景画像も用意しましたね(笑)

SNSで呼びかけたところ、
全国から様々な専門家が集まってくれた。
専門家会議の内容を、冊子として編集。
専門家会議では「明日から使えるアイデア発想法」を
使って、スープなまちについて考えた。

POTさん
――スープ会議は、松平・下山という地域全体を「スープなまち」と捉え、どういった未来に向かっていくと良さそうかを話し合う場であり、スマイリングはその会議で地域の皆さんの声を聴き、それを新しい複合施設づくりの参考にさせてもらっています。ただ、やっていくうちに新しく気付いたことがあって、こういった話し合いを続けていくことが、参加者さん同士のスープな関係づくりにもなるなあと。確か、第2回目のスープ会議のときに、「次の回も、みんなと話し合う時間を多くとってほしい」という意見が出てきて、いろんな人がまちにいるということがわかる、ということが実はとっても大事なのかなと思いました。また、「スープのさめない距離」というキャッチコピーを、「人と人とのスープな関係性をつくること」というふうに読み替えていき、あらためて、松平・下山という地域での人と人のつながりや、今の時代にあった距離のとりかたなどを考えるきっかけにもなりました。回を重ねるごとに、当初の想定にはなかったステキな変化や、「スープ会議」の新たな役割が見えてくるのですが・・・そうですね。今日はこれぐらいにして、次の回で、「スープ会議」のもつリンクワーカー的な役割「社会的処方」について、お話しましょう。

突然のブーケガルニさんの登場もあって、どんどん話が深いところまで遡っていきましたw POTさんってただものじゃない・・・これは次の回も勉強になりそうです。

つづく。

PROFILE_POTさん/LifeWork コミュニティデザイナー
名古屋生まれ、名古屋育ち。現在は、祖父母の家であった尾道(広島県)にも拠点を置いている。とはいえ、ほとんど事務所に留まることはなく、日本各地どこでも困りごとのある人のもとにマッハスピードで移動、持ち前のやさしさと愛嬌、豊富なアイデアとリサーチ力でクライアントを支え、「いけそうだ…」という光が見えるところまで根気よく伴走する。さまざまな年代の人や地域に深く関わる仕事でありながら、トマトやしいたけ、あんこが苦手。見た目に反し、珈琲も飲めない。

PROFILE_ブーケガルニ/(株)一八八 コピーライター
大阪・千日前と、瀬戸内海の因島で二拠点生活をする、コトバの処方師。故郷である尾道市の福祉系ホテル「尾道のおばあちゃんとわたくしホテル」のネーミングやキャッチコピーなどの考案に関わったことを機にコトバによる「ケア」のちからに気付く。スープタウンでは、「スープ」というコトバが名詞ではなく、「あたたかな」「ほどよい」「穏やかな」など形容詞として使われるようになることをひそかに企んでいる。

※登場人物についてはこちら


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