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第0章#02「こたつでみかんを食べながら笑ってたいな」 (ローリエ女史の物語)

――ここからは、ローリエ女史にも加わっていただきましょう。彼女は、介護福祉士、認知症ケア専門士。スープタウンの「ケア」全般を支えます。ガスパッチョ隊長とは保育園から小・中までの同級生で、大人になってからバレーボールが縁で再会…30代後半からの人生が急展開したのでは?

ローリエ女史(以下、ローリエ)
そうですね。事業所も増えて、スープタウンの計画も立ち上がって・・・こんなにも社員さんやパートさんが増えるなんて思いもよらなかったです。はじまりの1ヵ月ぐらいは利用者さんが一人もこない時代もあったのに…。

―― 利用者さん第1号、って覚えていますか?

ローリエ
はい。上品な感じの女性で、編み物が好きな方でしたね。ただ、私はまったく編み物できないので、「いっしょにやりましょう」とも言えず・・・若干、苦痛な時間が流れました(笑)。ゆったりした時間をつくって差しあげたいと思っていたのに、実際にそうなったら、どうしていいかわからず。一人の職員が話しかけにいって、また別の職員が話しにいって。私たちも緊張していたし、ここでの過ごし方がつまらなかったら、もう二度と来てくれないだろうと、ドキドキしたのを覚えています。
 
ガスパッチョ隊長
そうそう。Yさんでしたよね。身体も弱いかただったので、かえって疲れさせてしまったんじゃないかと。デイサービスの体験をされた方のなかには、何人か他の人がいる時に利用したい、という声もありましたね。2012年1月に立ち上げたのですが、利用者さんゼロの日が続いて。やっと半年ぐらいで形になってきました。
 
ローリエ
半年~1年ぐらいは不安定な状態でしたね。利用者さんがいない時は、パートさんにも無理をいって勤務を減らしてもらっていたので、私は、毎日が入浴介助の当番です。とくに夏~秋の入浴介助はキツくて・・・ごはんも食べれなくなって、その2~3ヵ月で10キロぐらい体重が落ちました。でも、バレーボールをやっていたので体力と根性には自信あって。負けたくなかったんですよね。

スープタウンの活動ベースのひとつ「元・福念寺」で行われた
「10種類のスープで食べる流しそうめん」の様子=2023年夏

―― ローリエ女子は、前職も介護職ですよね。自分たちで立ち上げるからには、「こんな施設にしたい」~というような理想はありましたか?

ローリエ
特養にいた頃は、仕事があまり楽しくなかったんです。職員は毎日ルーティーンの仕事に追われるし、利用者さんはそれに合わせるしかない。私だったらこんなところ(施設)に入るのイヤだなって。自分が年をとったときは、楽しく過ごしたい。笑って死ねればそれでいいかなと。そういう考えが私の根底にあるので、大きい施設でなく、小規模なところで、のんびりやりたいなと思っていました。利用者さんたちとこたつに入って、みかんを食べて笑っているような。そんな、施設だといいなと。

――ローリエさんのお話には、「楽しく」とか「笑って」というワードが出てきますね。

ローリエ
私自身は、ネガティブなところもあって、家では誰とも喋らない日もあります。だけど、自分たちでつくる施設は、「楽しいな」と思ってもらえる場所にしたい。たとえば、活動に参加しなくても、誰かがわ~わ~やっているのを見ているだけで楽しい、と感じる方もいます。人って、ずっと笑顔でいることは難しいけど、そこに行けば、ワクワクしたり、楽しいことが起こるんだな、と思える場所でありたい。その想いは、これからつくりあげていくスープタウンも同じです。

スマイリング・スピナティー前の広場で花見の宴=2023年。
ここにスープタウンが建設されます。
この日の笑顔が、ずっと、ずっと続きますようにと思えた春の日です。

―― 事業を立ち上げるうえでは、ガスパッチョ隊長と衝突することも多かったのでは? 同級生って、なにかと女子の方が強いですし(笑)。

ローリエ
バトルは日常茶飯事です(笑)。特に立ち上げ当初は、介護のことも知らないのに、あーでもないこーでもないといろいろ言われて、「あなたに何が、わ・か・る~!!!」と思ったことも。だけど、違う業界にいた人だからこそ、違う視点で介護福祉業界をみることができます。指摘されて腑に落ちることがいっぱいあったんですよね。

―― 腑に落ちること。それはどんなことですか?

ローリエ
隊長は、私が介護士の経験があったので、何でもできると思っていたんですが、実際には、特養の経験しかありませんし、デイサービスで何が行われているかなんて何も知らなかったわけです。で、自分なりに調べて、「ぬり絵」とか「算数ドリル」とか「間違い探し」のようなレクをしていたんですよ。何をしたら楽しんでもらえるかなあ、と思って。あまり深く考えずに一般的なものをやってみて、自分の引き出しを増やしてから、反応がいいものを続けてみようと思ってました。そしたら、ある時、ブチ切れられて・・・
 
ガスパチョ隊長
そーゆーのが嫌だから、自分たちでデイサービスをやろうと話してきたのに。「なんで、ぬり絵やってんだよー」って思ったわけですよ。ぼくは、絶対におじいちゃんになってから「ぬり絵」とかしたくない人だから。
 
ローリエ
「それ、本当に楽しいの?」と指摘されたことは、大きな気付きでしたね。それは、利用者さんにとってだけではなく、自分自身にも言えること。「楽しいことをやりたい」と思ってきたのに、フタを開けてみれば、似たようなことの繰り返しをやっていて・・・。

―― ローリエ女史にとって、どんな変化がありましたか?

ローリエ
「やる前からできないっていうな。やってみてもないのにできないというな」・・・この言葉は、立ち上げ当初からずっと隊長に言われてきました。ついつい、やってみる前から、できない理由を探してしまうんですよね。でも、いつも「ほかにできる方法ない?」「変わるものはないの?」と返されました。私、感覚で動くタイプなんですが、おかげさまで物事を深堀りしていくようにはなったかもしれません。その言葉を、今は私から、職員にも伝えることが多くなりましたね。

隊長
この言葉は、小学校6年生の時の先生から教わりました。僕のマインド形成のベースにもなっています。「失敗するのはいい。やってもないのに口先だけでできないというのは違うよね」「どうすればできるようになるか、を考えてみようよ」…学校行事の企画を考えている時だったかな。そうやって背中を押してくれました。今ではスタッフ研修や面接などでも、伝えるようにしています。

―― スマイリングらしさ、の源泉かもしれませんね。ガスパッチョ隊長はどのような方ですか?

ローリエ
あきらめない方です。こだわりが強いので、面倒だなと思うこともありますけど(笑)。たとえ100人が間違っているといっても、折れないし、自分を貫き通します。私は、ブレブレの人なのですが、いろんなことがあっても何とかしようとしてくれますし、ちゃんと回避も、フォローもしてくれるので、はい。すごいリーダーだなと思っています。

「やる前からできないっていうな!」「負けたくない」・・・スポ根なやりとりも、おふたりの魅力。次回のnote.では、その言葉から生まれた、デイサービスの常識を超えたチャレンジをご紹介しましょう。

PROFILE_ローリエ女史/株式会社SMIRING 
介護福祉士、認知症ケア専門士、食品衛生管理者。ときどき、ケアスナックかなかな、のママ。福岡生まれ、豊田育ちで、小・中・高とバレーボールに青春を捧げる。右利きだが、ポジションはライト(ボールを投げたり、スパイクを打つときは左。バットも左だが、サーブは右打ち。あとは、だいたい右)。20代は、病院での医療事務や診療介助。30代前半では特別養護老人ホームで介護士としての経験を積んできた。ガスパッチョ隊長を日々支えながら、利用者さんだけでなく、いつも職員たちの心や体にも細やかに目を配っている。
【株式会社SMIRING】https://smiring.info/

what's ローリエ:スープなどの煮込み料理に欠かせないハーブの一種で、月桂樹の葉っぱ。古代ローマのオリンピックでは勝者の冠としても使われていた。負けず嫌いのローリエ女史にさりげなく捧げる、真の勝者の証。


※登場人物についてはこちら


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