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小澤征爾さんの思い出② 奇蹟のニューヨークライヴ第1夜

小澤征爾さんの忘れられないコンサートと言えば、食道がんの治療からの復活としてCD化もされた「奇蹟のニューヨークライヴ」として知られる、2011年12月のカーネギーホールでの公演です。
これはどうしても行かなくてはと、会社を休んで、初めてのNYに行ってきました。
その時にブログに書いていた文章を再掲します。帰国後割と早く書いたので、興奮冷めやらぬ感じになっています・・・。

(以下再掲)
凍えるNYから帰ってきました。小澤征爾さんが今年1月に食道がんが見つかり、長期療養に入って11カ月。
サイトウキネンフェスティバルでの10分弱の指揮以来3カ月余り、大曲を指揮して本格復帰となる、記念すべき復帰コンサートをNYのカーネギーホールで2プログラム聞くことができました。観光地などの旅行記はまた後日まとめることとして、まずは演奏会のリポートだけ書いてみようと思います。

出発当日、まさに家を出ようとした10分前に、日本テレビのニュースで、小澤征爾さんが、カーネギーホールでのリハーサルをキャンセルしたということが報道されました。
大事を取っただけだと思いながらの出発です。
NYは、かなりの寒さです。
カーネギーホールへはホテルから20分ほどですが、その間に凍えてしまいそうです。早めに到着して、Webで予約したチケットを受け取ります。カーネギーホールの公式ホームページからの予約は案外簡単でした。英語に自信がないので、翻訳サイトを駆使しましたが、座席表を見ながら予約ができました。きちんと確認メールも来るので、安心です。ホールの周りは足場が組まれており、何かの工事中のようでした。
終演後のカーネギーホールチケットを受け取り、開場まで待ちます。続々と集まってくるのは、日本人ばかり。早めの行動はお国柄ですね。入り口に掲げられた今日の公演内容には、前半を指揮することになった下野竜也さんの写真も。チケットも完売のようです。

ホール前のポスター

カーネギーホールは、さすがにクラシック音楽の殿堂だけあって、重厚な造りです。ただし、ロビー部分は広くありませんでした。さっと中に入ってしまう感じです。

重厚なホールの中

撮ってはいけないのかもしれませんが・・・席に着いたときに、見える雰囲気を撮っておきました。

ホール

演奏会の始まる20分ほど前ですが、多くの日本人は席についていました。周りから聞こえる日本語に、NYにいる感じがしません。私のような旅行者だけでなく、アメリカ在住の方も多いようです。
ギリギリになって、ほとんどの席に人が座りました。全体でみると、日本人は4割くらいでしょうか。ただし最上階のバルコニーの印象ですから、下の高い席にはあんまりいないかもしれません。

コンサートが始まります。知識がないので批評はできませんし、小澤ファンですから、感想が贔屓目なのはご容赦を。

●権代敦彦:デカセクシス(SKF松本、カーネギーホール共同委嘱作品、アメリカ初演)  
指揮 下野竜也
演奏 サイトウキネンオーケストラ

1曲目は不思議な響きの曲でした。初めは何の楽器の音なのかわからなかったくらい。現代音楽は、なかなか1回聞いただけではすっとなじめないので、なんともいいがたいのですが、それほど心地よくない音楽ではありませんでした。極が終わるとまばらな拍手が。多くの観客が、まだつかめていないようでした。段々と拍手が大きくなったころに作曲家が赤いジャケットで登場し、さらに大きくなりました。なんでも、作曲家になったきっかけの一つが小澤さんだったとか。小澤さんが振れずに残念だったことでしょう。

●ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番
指揮 下野竜也
ピアノ 内田光子
演奏 サイトウキネンオーケストラ

2曲目は、日本が誇る内田光子さんの登場です。静かな短調の始まりから、曲が大きく持ち上がってくると、分厚い響きが広がります。やっぱり良いホールなんでしょうね。もちろんオーケストラも良いのでしょう。内田さんのピアノは、何と言うかうねりがあって、それでいて正確な感じで、とても清冽でした。
曲が終わると、素晴らしい拍手がホールを包みます。ブラボーの声も響き渡り、わっとホールが湧きました。何度もカーテンコールが続きました。アンコールが聞きたかったのですが、それはなかったのが残念でした。

20分ほどの休憩の間に、指揮台にピアノの椅子のようなもの運ばれました。やはり小澤さんが出られるようです。

●ブラームス:交響曲第1番ハ短調
指揮 小澤征爾
演奏 サイトウキネンオーケストラ

サイトウキネンのメンバーが、舞台へと上がります。すると、パラパラと拍手がおこります。サイトウキネンフェスティバルでは、この拍手が全員入るまで続くのですが、ここでは途中で終わってしまいます。メンバーが半分くらい入ったところで、恒例の木の板を3回たたく音がして、小澤さんが舞台へと姿を表します。メンバーと一緒に出てくるので、気付いた人が拍手をはじめ、それが広がっていきます。最後には大拍手で、演奏前なのに「ブラボー」の声すらありました。私も少しだけ涙ぐんでしまいました。

椅子に座ってチューニングが終わるのを待つと、すっと立ちあがり、手を振りおろします。ブラ1の重厚な音が出てきます。
驚きです。
すごい音です。
ブラームスの作った音、サイトウキネンが奏でる音なのですが、小澤さんの手から生み出される音がとても深く、そして豊かに響きます(かなり贔屓目です・・・)。背筋に震えが走りました。
時折穏やかな部分になると小澤さんは座りますが、曲がうねりだすと、すぐに立ち上がり、これまでよりは幾分動きが小さくなっている指揮をする手が、右に左に動いて音を作り出していきます。気心知れたサイトウキネンだからこそということもあるでしょうが、ホールが一体となって鳴り響いている感じです。
楽章の間には、ヴィオラの方に預けてあったお茶?を飲んで、一息ついていました。
4楽章の弦楽器が美しいメロディーを奏でるところでは、サイトウキネンの素晴らしい音にうっとりです。小澤さんも、指揮をしながら、演奏をゆだねているような動きを見せていました。
今回のNY公演では、サイトウキネン創立の頃からのメンバーがそれほど多くはなかったのですが、CDなど聞くあの「音」は健在でした。
クライマックスに向かうと、まったく椅子に座ることなく、指揮も力が入ってきます。最後が近づくにつれて、感極まってまた涙が・・・。
圧倒的な音の塊が四方八方から襲ってくるようなクライマックスで、背筋が3回も4回もふるえました。
最後の音が鳴り終わった瞬間、会場が割れんばかりの拍手に湧きました。さらにブラボーの大合唱とともに、多くの人が、席を立ち、スタンディングオベーションです。
ほっと一息ついた感じの小澤さんが、メンバーと握手を続けている間に、立ち上がる人が増え、指揮台のところに戻った頃には、ほとんどの人がスタンディングオベーションで、復活の演奏を称えていました。
ここまでのスタンディングオベーションとブラボーの合唱は、これまでに出会ったことがありません。アメリカ人の方たちが、感情表現が大きいということもあるのでしょうが、小澤さんの復活と、それに応じたサイトウキネンの演奏が、聴衆に響いたということだと思います。
周りのアメリカ人たちも、何かを話しながら、ずいぶん興奮しているようでした。(英語なので、よくわかりませんが・・・。)

カーテンコールでは、内田光子、下野竜也も再度呼び戻され、喝采にこたえていました、

ロビー

終演後のロビーです。興奮冷めやらぬ聴衆の方たちが、話をしたりしています。多くの日本人は、ポスターと記念写真を撮ったりしていました。(終演後のポスターは翌日のでしたが・・・)このロビーでは、小林亜星さんも見かけました。こちらに住んでいるんでしたっけ??わざわざ来たのかな?

外では日本のテレビ局が、観客のインタビューをしているようで、カメラが何台か回っていました。

ホールの前では取材も

これが、カーネギー初日の公演の一部始終です。なにはともあれ、この感動的な演奏会と、多くの聴衆が感動し、熱狂した瞬間に居合わせることができて、本当に幸せでした。極寒のNYに高いお金をかけて行った甲斐があったというものです。
(以上再掲)

小澤征爾さんを語るうえで、このコンサートも重要な位置づけになると思います。その場面に居合わせることができたことは、本当に幸せでした。

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