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⑧脳梗塞の見つけ方

ミュージカル好き救急医の独白 vol.8
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -

はじめに

脳卒中(のうそっちゅう)って聞いたことありますよね. 脳血管疾患とも言われます. 平成30年の死亡数を死因順位別にみると, 1位は悪性新生物(いわゆる癌), 2位は心疾患(心筋梗塞や心不全など), 3位は老衰, そして4位が脳卒中(脳血管疾患)です. 脳血管疾患は昭和45年をピークとして減少し, いまでは全死亡者に占める割合は8%以下となっています. 降圧薬などの開発によって血圧の管理がなされるようになったこと, 有効な治療法が見出されたことなど理由があるのですが, 脳卒中の正しい知識を持っておかなければ治療の選択肢を自ら減らしてしまうかもしれません. 
自分が, または家族のその症状が脳卒中か否かを見極められるようになりましょう. 本日はそんなお話.

今回のミュージカル

ダンスオブヴァンパイア
2006年7月, とんでもないミュージカルが日本初演を迎えた. その名もダンスオブヴァンパイア, バンパイアではないヴァンパイアだ. 山口祐一郎さんと市村正親さんという最強の2人の新作となれば観に行かない訳にはいかない. そしてまたまたはまってしまった.
「ガーリック, ガーリック〜♪」と楽しげな音楽から, これはもう血圧上がりまくりで心配するぐらいの山口祐一郎さんの1幕ラストのとんでもない歌唱力, 最後は観客を巻き込んだダンスとともに赤いハンカチを振りまくり. 2006年以降繰り返し再演され, 2代目アブロンシウス教授は石川禅さん. 禅さんのイメージはレミゼのマリウスかなぁ.
ヴァンパイアは血を好むわけですが, ドロドロの血は脳梗塞の危険性がup. ってことで脳梗塞の基本的なことを.


救急外来あるある

今回もまたよくある救急外来のケースから.
74歳の男性(Hさん)が自宅で反応が乏しいため, 家族が救急車を呼び当院へ搬送されました.
診察すると, 言葉が出ず, 右の手足の麻痺(動かしづらい)があります. 奥さんに以下の様に質問しました.

Dr.S:「いつからこのような状態なのですか?」
妻:「朝起きてこなくて, しばらく様子を見ていたのですが, 昼になっても起きてこないので見に行ったらこのような状態で.」
Dr.S:「昨日までは問題なかったのですか?」
妻:「はい. 特別変わりありませんでした. 庭の手入れとか普通にやっていましたし, 食事もいつも通り...」
Dr.S:「現在11時半ですが, 普通は何時頃に起きてるのですか?」
妻:「普段は6時には起きて, コーヒー飲みながら新聞を読んでいることが多いですが…, うちの人はどうしちゃったんでしょうか?.」

脳梗塞は発症時間が超超大切!

脳梗塞と聞くと, どのようなイメージがあるでしょうか. 喋りづらくなる病気, 麻痺を認める病気, 血液ドロドロなど動脈硬化によって脳の血管が詰まってしまう状態とかでしょうか. 以前に書いたnoteを読んで下さった方は, 心房細動という不整脈が脳梗塞の危険因子だなんてことも覚えていて下さると嬉しいですね(③心房細動ってなんだ?).

身体は血管を通じて酸素など大切なものを運んでいるわけですが, その血管が何らかの原因で詰まってしまうと, それによって栄養している部分が死んでしまうわけです. 脳の細胞はその中でも脆くて, 詰まってしまってしばらくすると, 失われた機能は戻らなくなってしまうのです. タイムリミットは細かくはいろいろあるのですが, 一つの基準として4時間半というものがあります. これは血栓溶解療法という, 脳梗塞を引き起こした, 通りの悪い脳の血管を, 強力なサラサラ薬を使って溶かし, 大切な血を再び巡らせるための治療法のタイムリミットになります. この時間を過ぎてしまうと, むしろ強力なサラサラ薬であるために出血など, メリットよりもデメリットが上回ってしまうため使用することができません.

脳梗塞?と早期に認識することが大切

病院に来てからいくら急いでも, 脳梗塞と確定診断するためには最低でも30分以上はかかります. 病院前に住んでいない限り, 家で異変に気付いてから病院受診までは30分はかかるでしょう. 麻痺を認める場合には, 連れて行くのも大変ですからね. なにが言いたいか, 細かいことは気にしなくていいのですが, その場で, 明らかな脳梗塞のサインを見抜き, タイミングを逃さず病院を受診してもらいたいのです.

脳梗塞を疑う”まずい”サイン

脳梗塞の症状は多岐に渡りますが, 誰でも判断可能な3つのポイントがあります. このどれかが急に始まった場合には急いで病院を受診する必要があります. 急にという判断は難しいかもしれませんが, 今回のHさんの様に, 昨日まで問題なかったのに今日からはおかしいとか, 食事を食べている時に突然茶碗を落としてしまったとか, そんな感じです. 半年前からあるような症状は, 1分1秒を争う必要はありません.
脳梗塞を疑う以下の3つの症状をまずは覚えましょう.

①顔面の麻痺(Face):顔の右, 左の力が入らない場合には要注意です. イーと口を動かしたり, おでこに皺を寄せてみたときに左右の差がある場合には”まずい”サインです.

②上肢の麻痺(Arm):両手を前に出し(まえならえの姿勢), どちらかの手が上がらない, もしくは下がってしまう場合には”まずい”サインです.

③呂律が回らない, 言葉が出ない(Speech):なんだか喋りづらい, 言いたい言葉が出てこない, 辻褄の合わない言葉を発している場合には”まずい”サインです.

これら3つのうち, どれか1つでも急性に認める場合には, 脳梗塞を含む脳卒中の可能性があり, その精度は70%程度と言われています. つまり, 10人このような症状の方がいたら7人は真の脳卒中ということです. 救急車を呼んだ場合には, 救急隊の方がこの辺りをチェックし, 該当する場合には脳卒中の対応が可能な病院へ搬送しています.

その他, めまいや目の見えづらさなど, 脳梗塞を疑うサインはあるのですが, 特に重要な上の3つをまずはおさえることからスタートしてみましょう. 恐い病気はある日突然やってきます. 元気なときに知識を整理しておきましょう. 

日本脳卒中協会とミュージカル劇団ドラゴン・ファミリーが協力して, わかりやすい動画が作成されています. こちらも後で見てみて下さい.
https://youtu.be/m2YJw2jxrSo

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♬神はすでに死に絶え 永遠に呪われた 我ら
 光を恐れ 彷徨う 虚しさだけ 道連れに
 慰めも 愛もなく♪

ミュージカル好き救急医から, 知っているとチョコッと役立つ知識を少しずつお届けします. ぜひ!