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㊳心原性失神ってなんだ?

ミュージカル好き救急医の独白 vol.38
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -

はじめに

"失神”には大きく3つあることは前回お話ししましたね(㊲失神ってなんだ?). 今日はその中でも心原性(心血管生)失神に関して少し話しておきましょう. 血液を全身へ送りだすポンプの役割である心臓がなんらかの影響で, 本来必要な血液を押し出せなくなっている状態と考えて下さい.

今回のミュージカル

モーツァルト
ミュージカル「モーツァルト」の中で最も好きな曲はなんですか?このミュージカルは名曲が沢山あるのですが, 私は一幕ラストの『影を逃れて』, 母の死のあとに歌う『残酷な人生』が好きですね. どちらもヴォルフガングの曲ですが, 思いがビシビシと伝わってきます. 初演のとき, 中川晃教さんのヴォルフガングが凄まじく, あの小柄な身体からどうやって劇場の響き渡る声を出すことができるのかと衝撃でした. 純粋というか子どもというか, 自分の感情通り, 思いのままに行動するヴォルフガングを全身で表現していて感動したのを今でも覚えています. アッキー(中川晃教さん)以外に井上芳雄さん, 山崎育三郎さん, 古川雄大さんといままで4人のヴォルフガングが誕生していますが, このモーツァルトを通じて成長を感じられるというか, 再演の度にパワーアップしているのがわかります(あ, 偉そうですいません).
ちなみに, モーツァルトは2002, 2005, 2007, 2010, 2014, 2018年と帝国劇場を中心に公演が行われていますが, 初演からずーっと出ているのが, レオポルト役の市村正親さん, コロレド大司教役の山口祐一郎さん, セシリア役の阿知波悟美さんです. スゴいですよねぇ.
コンスタンツェ役も今まで9人(たぶん)の方が演じていますが, 初演の際の松たか子さんと西田ひかるさんは印象的でした. 二幕の『ダンスはやめられない』, この曲も人気が高い曲ですよね.
次回の再演時におそらくまたビックな, ビックリして失神しうるキャスト変更がありそうですねぇ. ってことで今回も失神のお話を.


救急外来あるある

71歳男性(iさん)が, 自宅の玄関で転倒し, 額をぶつけ救急外来を受診しました. ぶつけた部位にたんこぶがありますが, 元気そうではあります.

Dr. S:「今日はどうされたのですか?」
Pt.i:「出かけようと思ったら転んじゃってね.」
Dr.S:「その時のことは覚えていますか?」
iさんの妻:「覚えてないと思いますよ. 声かけたとき少しぼっとしていたので.」
Dr.S:「そうですか. どの程度して意識が戻りましたか?」
iさんの妻:「そうですね. 2〜3分でしょうか.」
Pt.i:「そうだったのか. まぁでも先生, 大丈夫でしょ. 傷も大したことなさそうだし.」
Dr.S:「…」

最も恐い失神とは?

心原性(心血管生)失神, 起立性低血圧, 反射性失神の3つに分類される失神ですが, この中で最も恐いのは心原性(心血管生)失神です. 心臓や血管など大事なところの病気なのでなんとなくイメージわきますよね.
代表的な心原性失神が不整脈です. 不整脈があるから必ず失神するというわけではありませんが, 失神に関連する不整脈はいくつか存在します. 以前に紹介した心房細動も時に原因となることもあります.
救急外来で頻度が高いのは, 脈が非常に遅くなってしまう結果起こる失神です. 徐脈性不整脈と呼ばれ, 房室ブロックが代表的です. 簡単に言うと, 本来であれば1分間に60回以上拍動してほしい心臓が30回しか正常に動かなくなってしまうのです. 半分になれば, 脳への血液が足りなくなりそうですよね. その結果フラッとして倒れてしまうといったイメージです. 失神を引き起こしてしまう不整脈の場合には, ペースメーカーが適応となることも多く, このような処置を施さなければ, いつまた心臓が十分な血液を送れなくなってしまいかもしれないのです.
”不整脈が原因で失神することがあり, この場合には危険なので急を要する”と覚えておきましょう. たまたま転んでしまっただけでも, 失神した結果であった場合には重症度が変わることがわかりますよね.


心原性(心血管性)失神にはどんなものがある?

正確に把握しておく必要はありませんが, 色々な病気が原因で失神します. 研修医には, 以下のHEARTSの語呂合わせで頭に入れておくように指導しています. なんだか恐い病気が沢山ありますよね. それぞれの病気はそのうちまた取り上げますので, あまり気になさらず.

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♪自分の影から 逃れられるのか 自分の過去から 解き放されたい♬
『影を逃れて』

ミュージカル好き救急医から, 知っているとチョコッと役立つ知識を少しずつお届けします. ぜひ!