⑭高いよりも低い方が心配！- 高血糖よりも低血糖に御用心 -

ミュージカル好き救急医の独白 vol.14
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -

はじめに

糖尿病（とうにょうびょう）は誰もが聞いたことがありますよね？予備軍（糖尿病一歩手前）の方も含めると, なんと日本には約2,000万人の糖尿病患者さんがいると言われています.
インスリンを打っている方や飲み薬で血糖値を下げる薬（経口血糖降下薬）を飲んでいる方も多くいます. 糖尿病治療中の方は, 飲んでいる薬のどれが血糖値を下げる薬であるかわかりますね？！
血糖値は高いとマズイというイメージがあると思います. それは間違いではないのですが, 治療によって下がりすぎてしまう方がもっとマズイということをご存じでしょうか？救急外来で出会う頻度は以前と比較すると少なくなってきてはいるものの, 糖尿病治療中であれば誰もが陥る可能性のある”低血糖”に関して今回はお話しします.

今回のミュージカル

マリー・アントワネット
♪噂 風刺 ばら撒いて 王妃を貶める だが まだ手ぬるいぞ もっと 良い手がある 新聞を出せばいい 記事は思いのままだ 不満だらけの民衆を 洗脳しろ♬
今回もこのミュージカル. 吉原光夫さん演じるオルレアン公が2幕の始めに歌うこの曲. 圧巻！！！吉原さんといえば, 日本最年少でレミゼのジャン・バルジャンを演じ, 2013年には鹿賀丈史さん, 滝田栄さん以来の同公演中にバルジャンとジャベールの2役を演じるという...もうすごいのです. 映画「美女と野獣（2017年）」のガストン役も記憶に新しいですね.
「パンがなければケーキを食べればいいじゃない！」, ってことで, ケーキを食べたら血糖値は高くなりますが, 血糖値を下げる薬を飲んでいれば…, ってことで今回は低血糖のお話し.

救急外来あるある

今回もまた救急外来でよく経験するケースを紹介しましょう. 75歳女性（Lさん）が, 自宅で反応が悪くなり心配した娘さんが救急車を呼びました. 救急隊が観察すると, 呼びかけても反応がない状態（意識障害）で, 冷や汗を認めました. 糖尿病治療中であることが娘さんからの話で判明したため, 血糖値を測定すると32mg/dLと低い状態. 救急隊がブドウ糖を投与し, 病院へ到着した頃には意識は普段通りへ改善していました. 以下, 病着後にLさんから話を聞きました.

Dr.S：「今日の記憶はありますか？」
Pt.L：「畑仕事に行ったのは覚えていますけど, そのあとのことははっきりとは…」
Dr.S：「糖尿病の治療をされているようですが, 飲み薬やインスリンは使用していますか？」
Pt.L：「インスリンを打ってます. 」
Dr.S：「今日の朝も打ちましたか？」
Pt.L：「はい. 毎日決められた量を時間を決めて打っています.」
Dr.S：「今朝の食事もいつも通り食べましたか？」
Pt.L：「今日はなんだか食欲がなくてあまり食べられませんでした.」
Dr.S：「なるほど…」

低血糖は高血糖よりも恐い！

みなさん, 血糖値が高いのと低いのとではどちらかが危険だと思いますか？例えば, 血糖値が300mg/dLと30mg/dL, どちらがマズイ状態でしょうか？これは圧倒的に30mg/dLなのです. 低血糖の状態がしばらく続くと, 脳が機能しなくなり, 最悪, 意識が戻らなくなることもあります. もちろん高血糖を長らく放置するのもまずいのですが, 低血糖は1回でもマズイのです. これをまずは覚えておきましょう！

低血糖の症状は？

救急外来を受診する低血糖の方の多くは, 意識障害といって, 反応がない状態で救急搬送されることが多いです. そうなってしまっては困ってしまうので, 自身でこれは低血糖かもしれないと気付くことができるようになりましょう. 典型的な症状は表の通りです.
じとっとするような冷や汗をかく, 走ったり階段をのぼったりもしていないのにドキドキするなどは血糖値が下がりかけているサインです. 糖尿病に対してインスリンや血糖降下薬を飲んでいない限り, 血糖値は通常下がりえません. アルコールを多量に飲む方や, 薬によっては低血糖を認めることもありますが, 頻度として高いのは糖尿病治療中の方ですので, 治療をしていない方は心配する必要はありません.
糖尿病治療中の方が低血糖の症状を自覚した場合には, 速やかに糖分をとりましょう.

低血糖を引き起こさないために

血糖値を上げるのは主に食事, 下げるのは薬です. 他にも血糖値に関わるものは多数ありますが, まずはこのように覚えておけばOKです. 当たり前ですが, 食事をたくさん食べれば血糖値は上がり, 食べなければそれほど上がりません. 十分に食べていないにも関わらず, 血糖値を下げる薬を使用すれば血糖値は下がってしまいますよね.
これから暑くなります. そうなると食欲がそれだけで落ちたり, 熱中症で多量の汗をかき水分, 塩分を消費します. 現在自宅にいる時間が長く運動量は減っているかもしれませんが, 今後運動量が増えれば…
食事量に応じて, 打つインスリン量や飲む薬の量を調整する必要が出てくるかもしれません. 食事がどの程度食べられたら普段通りのインスリンを使用していいのか, 薬を飲んでいいのか, 主治医の先生と事前に確認しておきましょう！

♪愚かなものほど 騙されたがる きわどい記事にもとめる 事実よりも
希望 欲望 幻想 操るのだ わたしが王になる日まで♬
『世論を支配しろ』