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126. アセトアミノフェンは十分量を!

ミュージカル好き救急医の独白 vol.126
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -

はじめに

みなさん, 頭が痛かったり熱が出たときにどのような薬を飲んでいるでしょうか. 病院を受診し, アセトアミノフェン(カロナール®), ロキソプロフェン(ロキソニン®)などの処方を受けた方もいるでしょう. また, ドラッグストアなどで風邪薬を購入し飲んでいる方もいるかもしれません. 今回は多くの風邪薬にも含まれるアセトアミノフェンについて, 使用する場合には中途半端な量を使うのではなく, 十分な量を使用しましょうねっていうお話.


今回のミュージカル

ジキル&ハイド
私が最も好きなミュージカルです. 「Jekyll & Hyde - Resurrection」を聴きながらこのnoteを書いています. 初演の鹿賀丈史さん主演の舞台を観たときの衝撃は今でも覚えています.
このジキルとハイドですが, 原作はロバート・ルイス・スティーヴンスン(1850〜1894)の『ジーキル博士とハイド氏の奇妙な事件』(Strange Case of Jekyll and Mr Hyde, 1886)です. 出版の翌年 ,1887年にアメリカのシカゴで初めて上演されました.
ミュージカル版の楽曲はどれも素晴らしく, 「This Is The Moment -時が来た-」など有名な曲も多いですが, 中でも「Confrontation -対決-」はもの凄いのです. 鹿賀さんのあのシーンまた観たいですねぇ. ライトが切り替わりながら, 「消え失せろハイド!」「また会おう, ジキル!」, このあとジキルは…
そんな素晴らしい作品が登場した時期, アセトアミノフェンも合成され, 医薬品として用いられ始めました. 今回はそんなアセトアミノフェンのお話.


救急外来あるある

39歳の女性(CQさん, 体重45kg)が頭痛を主訴に来院しました. 以前にも同様の症状を認めたことがあり, その際に副鼻腔炎と診断されたようです.

Dr.S:「今日はどうされたのですか?」
Pt.CQ:「副鼻腔炎?だと思うのですが, 薬が効かなくて…」
Dr.S:「前にも同じ様なことがあったのですね?」
Pt.CQ:「はい. 頭を下にすると痛くて…」
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Dr.S:「診察上も副鼻腔炎でよさそうですね. 薬はなにを飲んだのですか?」
Pt.CQ:「これ(カロナール®)です.」
Dr.S:「1回に何錠飲んでいますか?」
Pt.CQ「1錠(200mg)です.」
Dr.S:「あ, なるほど…」

アセトアミノフェンとは

解熱鎮痛剤であるアセトアミノフェンを処方する機会は多く, 救急外来でも一般の外来でもしばしば使用されます. 最近は点滴のアセトアミノフェン製剤(アセリオ®)も発売されています.
頻用されるアセトアミノフェンですが, 使用しているにも関わらず, 効果が乏しい場合があります. 根本的な治療介入(例えば細菌性肺炎に対する抗菌薬など)が行われていなければ, 解熱薬の効果が限定的であることは理解していただけると思いますが, ウイルス感染や一般的な頭痛では通常解熱鎮痛薬をきちんと飲めば効果は認められるはずです. どんなときに効果が乏しくなってしまうのでしょうか?

アセトアミノフェンの用法・用量

アセトアミノフェンは以前は1日最大量1,500mg(1回最大量500mg)と少量の使用しか認められていませんでしたが, 2011年1月から1日最大量4,000mg(1回最大量1,000mg)と使用可能な量が増えました. 添付文書には一般的な痛みに対して, 「通常, 成人にはアセトアミノフェンとして, 1回300〜1,000mgを経口投与し, 投与間隔は4〜6時間以上とする. なお, 年齢, 症状により適宜増減するが, 1日総量として4,000mgを限度とする. また, 空腹時の投与は避けさせることが望ましい. 」と記載されています. 小児科領域における解熱・鎮痛に対して使用する場合には, 「体重1kgあたり1回10〜15mgを経口投与し, 投与間隔は4〜6時間以上とする. なお, 年齢, 症状により適宜増減するが, 1日総量として60mg/kgを限度とする. ただし, 成人の用量を超えない.」と書かれています.

高齢者への用法・用量は?

高齢者に対しても, 肝機能障害やアルコール中毒患者では2,000〜3,000mg/日を超えないことが推奨されていますが, そうでなければ1回の投与量は10〜15mg/kg程度(1,000mgを超えない)が妥当と考えられます.


これを読んで, CQさんの飲んでいた200mgというのが非常に少ない量であることがわかりますよね?CQさんの体重が20kgであれば適量かもしれませんが, 45kgとすると最低でも500mg程度内服しなければ効果は認められません.
細菌感染症に対する抗菌薬もそうですが, 薬はなんとなくチョコッと飲んでも効果は認められません. 使用する場合には効果が認められる十分量を使用することが重要です.
もちろん, 「くすりもりすく」でアセトアミノフェンに害がないわけではありません. それはまた今度…

♪お前はただの幻 目を閉じれば消える
 目を閉じても俺はいる いつでもここにいる
 悪夢は終わり いまこそ お前は死に絶える
 今夜はお前の最後♬
『Confrontation -対決-』

ミュージカル好き救急医から, 知っているとチョコッと役立つ知識を少しずつお届けします. ぜひ!