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㉕それって本当に認知症ですか?

ミュージカル好き救急医の独白 vol.25
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -

はじめに

"認知症(昔は”痴呆(ちほう)”と呼ばれていました )”ってどんなイメージをもっているでしょうか?”物忘れがひどい”, ”徘徊をする”などでしょうか. 認知症は年とともに増える病気であり, 高齢者が多く受診する救急外来では, 認知症の患者さんは数多くいらっしゃいます. しかし, いままで認知症と診断されていない患者さんを救急外来で”認知症”と診断することは決して多くはありません. 認知症を患者さん本人や家族が心配しているときには, 他に原因があることがほとんどです. 

残念ながら認知症の特効薬はありません. しかし, 認知症様の症状を認めても, その原因が認知症以外に存在する場合には治療可能なことが多いのです. 今回はそんなお話し.

今回のミュージカル

ジキル&ハイド
私が最も好きなミュージカルであるジキル&ハイド. 初代ジキル博士は鹿賀丈史さん, そして2代目は石丸幹二さんです. 石丸さんに代わり, 曲が1曲追加となったことはご存じでしょうか?一幕の始め, 『闇の中で』の後, 鹿賀さんver.の際は, すぐに『嘘の仮面』が始まっていたのですが, そこの合間に一曲『知りたい』が追加となりました(この曲はハイライト・ライブ録音盤CDに収録されていません). ちなみに, 「おやすみ, 父さん」って台詞が『闇の中で』の後にあるのですが, ここも実は昔は「もう休みましょう, 父上」だった気がします. 違ったかなぁ…
ってことで, 今日はみなさんが”知りたい”であろう認知症のお話し.


救急外来あるある

81歳の女性(Wさん)が, 今日は普段と比べてぼーっとしていることを家族に心配され, 救急外来を受診しました. 1ヶ月ぶりに会った娘さんは認知症ではないかと心配しています.

Dr.S:「今日はどうされたのですか?」
Pt.W:「特になにも…」
Wさんの娘:「いつもはもっとシャキッとしているんです. 受け答えも遅いし, 私の言ったことへの反応も遅いし, 認知症になってしまったのではないでしょうか?」
Dr.S:「いつからそのような症状なのですか?」
Wさんの娘:「先月会ったときには普通でした. 」


認知症は急には起こらない

認知症はあるとき突然起こるわけではありません. 昨日まで普通だったのに, いきなり発症するということはないのです. 認知症にはいくつかの種類がありますが, 最も頻度の高いアルツハイマー型認知症は, 10年以上前から脳の変性は始まっているとも言われています. 進行はゆっくりであることをまずは理解し, 数日や数週間で認知症らしい症状を認めた場合には, 認知症らしい症状を引き起こす他の疾患を考える必要があります.

認知症はバイタルサインに異常なし

熱がある, 脈が速い・遅い, 呼吸が速いなど, バイタルサインに異常を認める場合には, 認知症では説明がつきません. 誰だって熱が高くなれば, 朦朧とするし, 幻覚などが見えることもあるでしょう. なんらかの影響で脈の異常があれば, 頭への血流が乏しくなり, 意識が悪くなるかもしれません.
認知症と診断するには, 急な発症ではなく, かつバイタルサインが安定していることが大前提です.

治療可能な認知症(Treatable dementia)とは

認知症は残念ながら薬を飲めば治るというものではありません. 徐々に変性した脳の変化を瞬時に治すことはできないのです. しかし, 認知症様の症状を引き起こす疾患の治療は存在します.
認知症の診断をするときには, 必ず「認知症の様に見える認知症以外の疾患」が存在しないかを確認します. その疾患とは, 多々あるのですが, 救急外来で出会う頻度が高いのは, 慢性硬膜下血腫(頭をぶつけて頭にじわりじわりと血が溜まる病気), 電解質異常(NaやCaの異常など), ビタミン欠乏, 薬剤の影響などです.
睡眠薬などの影響で午前中に意識がやや悪い患者さんは数多く経験します. 薬の影響ですから, 時間とともに症状は改善します. 対策は薬の減量など薬剤調整ですね.

認知症は急には起こりません. そしてバイタルサインの異常もありません. さらに除外診断です.
それでは今日はこのへんで!


♪真実を追えば なじゃ邪魔が入る
 ヘンリー考えろ 何が問題かを
 考えは 間違いではない だが戦いに 疲れ果てた♬
『真実を追えば』

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