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サッカー応援を音から科学してみる。「ゴール裏は応援の道標」

完全に趣味ですが、サッカー応援をしています。応援しているチームは地元相模原のチーム、SC相模原。かれこれ5年か6年くらい前になりますが、元日本代表の高原直泰選手が加入したということで無料チケットが回ってきて、一回くらい見とくか〜と観戦したのがきっかけでした。気づけば今ではゴール裏でスネア叩きながら跳んでます。

なんだかんだでタム、スネアと楽器を変えながら早4年目。こう見えても色々考えながら叩いてますので、現段階でのまとめを綴ってみます。

なんで応援するのかとか、応援すると選手がどう思うかとかは精神論なのでここでは扱いません。応援を選手に届け、後押しし、一緒に勝つ!これで良いと思います。

ということで、この記事は音という物理的な側面から応援を考え、なにがなぜ効果的なのかを考えてみようという内容です。音屋さんという全く違うカテゴリから来た人間が、サッカー応援の世界を見て感じてきた、考えてきたことを書いていこうかなと。

僕がそもそも楽器を応援に持ち込んでいるのは「応援は音楽である」という考えからです。
そしてゴール裏応援で何がしたいのかと言う意味では、「スタジアムの応援をひとつにする」ことが個人的な目標です。スタジアムを盛り上げるための礎、脇役でありたい、そう思っています。

「応援が音楽」というよりは「音楽が応援」という要素をもともと持っているということかもしれませんね。

さておき。

まず「スタジアムの応援をひとつにする」とは何なのか、どういう効果があるのか、ということを考えてみます。結論はこの記事の最後に綴るとして、考えた順番で記事を綴っていきたいと思いますのでご容赦ください。

まず考えたのは「ひとつになる=タイミングが合っている」という状態。スタジアム全体での「合奏」「合唱」ですね。ここをひとつの到達点と仮定して、これがどういう物理的な効果をもたらすのかを考えてみました。

応援がひとつになると音量はあがるのか?

この問題、一般的に見れば音屋さんなら答えられる問題に見えると思いますがその実、これは音楽制作というよりは建築系の方の方が得意な問題だろうと思います。いわゆる騒音問題としての音に関する事案で、音響工学とかそういうカテゴリになります。音楽制作屋は単一の点音源をどう記録・拡声するかというアプローチになるのでちょっと話が違うんですよね。ということで勉強しながら考えてみました。

結論的には、音量は上がります。
ただし、100人いたら100倍!みたいな単純な話ではありません。

応援の音量を扱う場合は騒音レベルという数値を用いて考えます。よく工事現場で見る「現在の騒音xx dB」というやつです。このdB(デシベル)というのが最高に便利でありかつ難解な単位です。常用対数というものなんですが、騒音レベルにおいてはdB SPLという表記を使います。(SPL=Sound Pressure Level)他にもdBu、dBv、dBVなどなど使うカテゴリによってdB表記は異なっています。

で。
一人の応援の音量が距離5mで計測して90dBだと仮定した時、これが二人になると音量が増えるのか?ということをまず考えてみます。

90dB+90dBで180dB!二人いるから音量2倍!

なんだか強そうですがそんな単純なことにはなりません。
(ちなみにジェットエンジンを間近で聞いて120dBくらいなので、180dBとか食らったら人体崩壊するかもしれませんw)

これは計算式が難しいので割愛しますが、この二人の合成値は93dBになります。3dB増えた。倍数でいうと1.413倍。ちょっとですw

では100人だと?

90dB+90dB….結果110dBになります。+20dBは10倍という意味。かなり大きくなった!90dBは結構大きいので、80dBだとして1,000人だと、、、110dB。この辺の規模感が妥当な気がしますね。ちなみに80dBは地下鉄の車内、90dBはうるさい工場の中くらいの音量です。

ただしこれは点音源として考えた場合なので、実際は同じ1点に1000人集まれないので(笑)、こういう結果にはなりません。もっと小さくなります。

また、実際はひとりひとりの音量が違いますよね。この場合は?
90dB+80dBの場合、、、

なんと、、、音量は変わらないんです
音量差が10dBあると、小さい方の音源は全体の音量に影響を及ぼしません。

結果どういうことかと素人的にざっくりまとめると、「同じくらいの音量で同じタイミングで応援する人数が増えるとじわっと全体の音量があがる」ということになります。

実際に面白い資料がありますのでご紹介。ガンバさんの吹田スタジアム建設時に使われた資料で、長居スタジアムで行われた代表戦の応援の音量を計測した資料です。

この資料後半の図3.4によると、通常の応援では90dB前後なのですが、ゴールした瞬間に107dB程度まで上昇しています。ゴールした瞬間は観客の多くがワーっとなりますので、応援のタイミングが合ったのと似たような状態と考えられます。

ということで、応援のタイミングが合うとたしかに音量が上がりそうであることはわかりました。ちなみに以下のサイトで音源の音量合成計算ができますので興味がある方はどうぞ。(使わせていただきました、ありがとうございます)

音量があがると何が良いのか?

音量が上がりそうなことはわかりましたが、そもそも音量あがると何が良いの?という話です。

「選手に届くだけの音量で良くない?」
そうですね、それはその通りだろうと思いますがしかし!

ちょっとやそっとの音量では大して届かないのではないかと推測します。

なぜか?

スタジアムって思ったよりも大きいんですよ。SC相模原のホームである相模原ギオンスタジアムの場合、ピッチサイズで106 x 69m。ギオンスの場合は陸上トラックが入りますので、ゴール裏から反対側のゴールまでの距離は約148mにもなります。

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手前側ゴールで48m。

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向こうから攻めてきたワントップの大石選手まで約64m。

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けっこうな大きさですよね。選手大変だなー。ほんと尊敬します。

で、音の話に戻るんですが、音って距離を経ると減衰する訳です。

こちらのサイトで計算してみると、陸上のトラック付近で120dBの音は、ピッチ反対側の田中雄大選手のところでは約90dB程度まで減衰してしまいます。
スネアの音が至近距離で120〜130dBくらいでしょう。90dBはイヌの鳴き声(5m)。
では僕の「大石ー!」という叫び声(笑)がイヌの鳴き声レベルだと仮定すると、僕の「大石ー!」は反対側の田中雄大選手のところでは約60dB、「静かな乗用車レベル」の音圧にまで下がってしまいます。「静かな乗用車」。寂しい。苦笑

つまり何が言いたいかというと、スタジアムは大きいので小さい音では大して聞こえない訳です。故にある程度大きい音量は必要だということです。

大きい音だと何が良いのか、というか、大きい音じゃないと聞こえない。すごく当たり前の結論になりましたw

僕はサッカーコートに立った訳ではないので実際どうなのかわかりませんが。本当はうるさいと思われているのかもしれないw

さて、大きい音が必要で、みんなで応援すると音は大きくなりそう、というところまではわかってきました。次は、これが実現できるのか?ということです。同じタイミングで大きい音が出せるのか?というのを考えてみましょう。

メインスタンドで聞こえるゴール裏応援は0.39秒前の応援

スタジアムで、「一緒に手拍子で応援してみよう!」と思ったら何に合わせて手拍子をしますか?

スタジアムでは指揮者がビジョンに表示されているわけではないので、タイミングをあわせた応援をしようとなったら、合わせる基準となるものは2通り考えられます。

「誰かの応援の音」か「誰かの応援の動き」です。合わせるのであれば、応援をリードしているゴール裏になろうかと思います。

まぁまず後者「誰か(ゴール裏)の応援の動き」に合わせるのは限りなく難しい。双眼鏡でゴール裏見ながらやればできるかもしれませんが、試合見てますよね?笑

となると一択、「誰か(ゴール裏)の応援の音」に合わせることになります。(ゴール裏の応援のリズムが安定していれば)比較的簡単です。音を聞いて合わせればOK。

しかし!

この応援は、過去の音なのです。そう、スタジアムが大きいので届くまでにぼちぼち時間がかかっているのです。気温18度の相模原ギオンスタジアムで計算すると、メインスタンド中央で聞くゴール裏の音は約0.39秒前の音です。気温18度の音速は342.48m/s、距離は約135m。135/342.48=約0.39ということになります。ちなみに音速は331.5+0.61xt(摂氏温度)mで求められます。音屋さんをやっているとたまに使う計算式です。

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※スマホのGoogleマップ計測だと10m単位なので130mとなっています。

この0.39秒がどの程度かというと、SC相模原オリジナルチャントであるPM630の場合は、手拍子1回くらいずれる計算になります。(PM630は170BPM:Beat per Minute=テンポ、1拍の長さは0.353秒です)

※開幕前の収録で練習が足りず、偉そうなこと言ってる割にうまく叩けてません、、、テンポも揺れとるがなorz

そうなんです、音を聞いて合わせている限りスタジアム全体でタイミングを合わせるのは不可能に近いのです。

しかし現実的には音を聞いて合わせるしか無いでしょう。可能性があるとすればビジョンで映像を出して合わせるしかありませんが、これも実現可能性は限りなく低いです。だって試合見たいじゃないですか普通。笑

なんか方法ないかなーと思って考えたわけですが、一応こんなグッズはあります。振動メトロノーム、ワイヤレスで最大5台同期。

こんなものを来場者に装着してもらって、WiFiとかで同期させて信号を送って、振動にあわせて手拍子してもらえばバッチリ同じタイミングで合いそうです。

が!

そんなんできるかい笑

いやー、無理ぽです。

ここまでは「ゴール裏の役割は応援をひとつにする(=タイミングを合わせて大きい音を出せるようにする)こと」と仮定して検証してきましたが、この仮定を崩さないといけない局面です。だって現実的にすぐできそうにないですからね、Wi-Fi観客同期とかw

誰もが応援したいと思える雰囲気を作ること。これこそがゴール裏の役割か?

さてここまで物理的な応援を科学してみましたが、タイミングを合わせるのは不可能に近いことがわかりました。ここまでの論理では、「タイミングを合わせる→音量が大きくなる→選手に届く」という論理だった訳ですがもう一度考えてみます。

選手に届けるための方法として「大きい音」を挙げている訳ですが、選手の場所で聞こえる音量の音を出す方法は、原音の音量を上げることだけではないんですよ。すごく単純な話。

そう、近い音は大きく聞こえる!これです。

音は距離を経るごとに減衰する、逆に言えば距離を経なければ減衰しない。そう。選手の近くで音が出ていれば十分届くのです。たぶん。

スタジアムの至るところで手拍子や歌が歌われていれば、タイミングが合っていなくても選手に声は届くのでは?応援に囲まれた状態を作りだせれば良いのではないか、と。

そりゃ確かにゴール裏1方向からしか応援の音がない状態よりも、全方位的に応援があったほうがたぶん心強いでしょう(ここまできてまさかの精神論)。

いやだって僕選手じゃないからわかりませんしw
でもきっと何かの力にはなっていると思うんです、SC相模原の選手の皆さんを見ていると。

話を戻して、重要なのは「応援しよう、手拍子叩こう」と思ったときに、合わせたいと思える音がスタジアムに存在するのか。

「合わせたい音」。ここ重要です。

だるーっとした、気合の抜けた、音程の悪い歌が聞こえてきても合わせたいと思わないじゃないですか。自然と体が動く。いい音っていうのはそういうものです。ゴール裏から発信される応援は、「合わせたいと思える音」である必要があるのではないかなと。

ここまで色々考えてきて、僕はゴール裏サポーターの役割があるとすれば、「スタジアムで観戦中の人が応援したい!と思ったときに、頼れるべき基準となる音を出すこと」ではないかと結論します。

メインスタンドやバックで見ている方が無理して応援する必要はないと思うんです。観戦スタイルは人それぞれなのですから。周りが全員音出しを容認してくれる方かどうかもわかりません。

しかし、「ちょっと応援してみようかな」「手拍子叩こうかな」、そう思った時に迷わず応援できるかどうか。さらには、「ちょっと音出して応援してみようかな」と思ってしまう環境を作り出せるか。

これが、ひとつのゴール裏サポーターが目指すべき姿なのではないかと思います。「ゴール裏サポーターは応援の道標」。これじゃないですかね。

応援したいと思える雰囲気を作り出し、ゴール裏以外の観客の方もちょっと応援してみる。そうして出来上がる応援に囲まれた空間。

そうなってくると、
「応援をひとつに。」
というよりは、
「スタジアムを応援で満たそう。」
こっちの方が適している気がしますね。うん。明日からこっちに変更します。笑

今回の調査まとめを踏まえた上で以下が(僕が考える)ゴール裏サポーターが意識すべき事項です。誰かに強要しようとか、これが正しいとかそういうものではないです。あくまでも僕はこう思ってます、というものです。

大前提として、好きなように楽しく応援したら良いと思います!

また、これは僕が応援しているSC相模原を基準に考えたものなので、ゴール裏だけですごい音量が出せる観客数のJ1チームなどではまた話が変わってくると思います。ご承知おき下さい。

ゴール裏サポーターが(音の観点で)頑張ったらいいんじゃないか項目

1:集まる
音源は距離が近いほどタイミングのズレが少なくなり、理想的な状態に近づきます。ゴール裏のサポーターが密集することで、タイミングズレが限りなく少ない応援が可能になり、ゴール裏の音量があがります。結果、スタジアム全体に届き、「ちょっと応援してみようかな」の道標になります。

2:リズムを意識する
密集してもリズムがずれていたら「ちょっと応援してみようかな」の道標にはなれません。どのタイミングで手拍子打ったらいいかわかりませんので。「全員のリズムが統一されていること」「テンポが安定している(揺れない)こと」この2点が非常に重要です。

3:隣の人より大きい音を出す
そもそも音が小さいとスタンドに音が届かないのでこれまた道標にはなれません。全員が同じくらいの大きい音量を出すことで、人数が集まったときに音量があがります。

まぁ結局のところ今まで普通に言われているようなことが書いてあるだけなのですが(笑)、裏付けとしては良いんじゃないかなと思いました。

あ、あと、
※正しい音程で歌う
というのもありますが、これは人数が多い場合はかなりカモフラージュされるのと、ここを気にしすぎると歌えなくなると思うので、あえて抜きました。それよりも音量の方が重要ではないかと。もちろん上手な方が絶対的にいいんですけどね、音楽なのでw

今回は応援全体に関する音の視点からの考察となりましたが、次回はスネア、タムという単体楽器に関しての研究と変遷を綴ろうかと思います。上記3点を追求するための楽器の対策、演奏の対策などなど。まだまだネタはあるのですよw
跳ぶとか振り付けとかビジュアル的側面も全く考慮してないですし。ネタはまだまだある(゚∀゚)

お暇でしたらお付き合いください。
え?暇でしょ?シーズンオフだから。笑

ええ、そうです。僕も暇なんです土日が。笑
早く来い来い開幕戦!

※イチサポーターの個人的な考察であり、効果について特に検証、校正された内容ではありませんので、ご了承下さい。

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