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建築士が防音材の知識がないのは当然

防音相談の依頼者に、時々、建築士や工務店(建築業者)が素人なので防音材について教えてほしいと言われることがあります。
これは、彼らだけの問題ではなく、専門業者も大差ありません。

建築士を擁護するわけではないですが、彼らにも専門分野というものがあり、医者だって専門の診療科があるのと同じことです。
古い遮音設計マニュアルの執筆者を見ると分かりますが、大半がゼネコンや旧建設省の技術研究所の研究者であり、建築士ではないです。

なので、私のような会社勤め時代に公的機関の計画コンサルティング業務を経験したあと、独立開業して独学で「防音設計」や「防音材」について勉強した専門家は少数です。※但し、建設省・都市再生機構の開発技術資料を閲覧・コピーできたことは、業務上の有利なポジションがあったと言えると思います。

防音材は施工要領及び安全性の留意事項が重要

防音材に限らず建築材料・製品には安全基準があり、住宅などの内部空間に使用する製品は、基本的にF☆☆☆☆基準をクリアすることが必要です。

ですが、この基準を満たしていても健康被害が起きている事例があります。特に気密性の高い防音室やDIY防音材の使用によって起きている事例の相談をお受けすることも有ります。
化学物質による影響は個人差が有り、基礎疾患の有無によっても、リスクの程度は異なります。

ある柔軟性接着剤を石膏ボードに使用して張り合わせて施工した防音室において、児童・生徒や音楽教室の先生が「頭痛や目がチカチカするなどの異常」が発生したため、解体して再工事をすることになった現場がありました。※この現場は音楽教室の先生が依頼した専門業者によって施工されました。
F☆☆☆☆基準を満たした材料で施工されたのですが、おそらく揮発物質が抜けきる前に、防音室を使用したため影響が出たのだと思います。

また、ある吸音マット(DIY製品)を使用した相談者からいただいた情報では、グラスウール・ロックウールをクロスで包んだ製品を室内に使用してから咳がひどくなり、廃棄処分したら楽になったそうです。これもF☆☆☆☆製品ですが、メーカーの施工要領では「工場に使用した事例」が例示されていました。本来、住宅の居室に使用すべき製品ではないのです。

防音設計は「遮音性能」だけではなく「安全性」が重要

別の記事で、防音材は「遮音材」「制振材(防振・絶縁を含む)」「吸音材」の総称であることを述べました。
なので、防音=遮音ではありません。詳細はここでは省きます。

防音設計を行う際に、防音材の詳細を仕様書として作成するわけですが、利用者の健康を考慮して使用する接着剤についても施工要領として設計図書に加えます。※接着剤の使用を制限して金物固定を指示する箇所もあります。

また、施主及びご家族の病歴やアレルギーについてもヒアリングする場合があります。これによって、使用できる吸音材の製品、接着剤が限定されることもあります。完全にリスクを予測できるわけではないですが、専門家としてリスクを回避する努力は不可欠です。

さらに、構造的な補強を考慮して、地震時における避難時間を確保する工夫も行います。
短時間で木造防音室が崩壊すると逃げ遅れる場合がありますので、通常の防音工事よりも補強します。


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