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等身大の防音設計書(木造)

なぜ、木造の防音設計(音楽室・住宅など)の道に入ったのかを思い出していました。
最初の防音対策の実験台は自宅のマンションでした。約30年前の話ですが、当時においても住宅(マンションを含む)や木造建物の防音設計(遮音設計)マニュアルがほとんど無く、大半が鉄骨・コンクリート構造の音楽ホールまたはスタジオ防音室の音響・防音設計図書・資料でした。

そこで、私は自宅の居室を自力で防音施工を行い、約半分をDIYで自分が注文した防音材を使用して試したのです。この時に出会ったのが取引先の受注生産の防音材でした。そして、建築業界は他の分野の防音材(製品開発)に比べて遅れていることを知りました。
*ただし、他の分野の防音材についても正しい施工要領が作成されていない場合があり、メーカーのカタログにも問題がありました。

自分でオリジナル防音設計の仕様書や施工要領を、現場を担当する職人や提携先建築士と一緒に考えながら作成するしか方法は無かったのです。

質量則と遮音設計計算式

従来型の遮音計算式は、質量則による面密度が根拠となっており、使用する素材の制振・吸音効果だけでなく透過損失の周波数特性も考慮されていません。このため、理論式のような綺麗な右肩上がりの遮音性能が現場で保証されるわけではなく、現場の防音効果と計算式の遮音性能は乖離します。
*机上の理論には欠陥があります。
これが質量則にシフトした計算式の弊害です。

特に木造防音室において、過剰な厚さの防音壁が構築されるのは、多くの専門業者が自分たちの遮音設計と現場の効果が乖離することを経験しているからです。安全策として、必要以上に分厚い構造体を設計・施工する方法しか知らないのです。部屋は狭くなり、工事費は嵩み、木造の骨組みや下地構造に大きな荷重負担がかかります。

防音職人では、このような業界の手法に疑問を持ち、約30年間、できる限り薄い防音構造によって、必要な生活防音や木造防音室の性能を確保できるように取り組んできました。

防音室現場の体験と机上理論の補正

最初に言っておきますが、他のエンジニアに答えを教えてもらって、自分の技術として身につくものなんて何もないという事です。安易に人様に教えてもらっても、応用が利かないので設計仕様や施工要領・施工技能は進化しない。そこで止まってしまうだけでなく、マイナス作用や効果欠損など理解できないまま実行してしまうリスクがあります。
専門家や職人など技術者としてのマイナス面を、私は沢山見てきました。

また、設計者は素直に現場で職人と一緒に学ぶ柔軟な思考が不可欠です。防音工事の結果だけに一喜一憂するのではなく、プロセスの中にも重要な手がかり、改善点があります。現場から学ぶ姿勢が大切です。
それが必ず「机上の理論や思い込んだ常識」の壁を突破する手がかりになります。世間に出回っているマニュアル・自己申告データを鵜呑みにすることなく、現場の効果・要因を分析する、検証する習慣が大事です。

私は、今年の夏で独立開業20年が経過します。きっかけはマンションでしたが、道を切り拓いたのは木造でした。木造は趣味でも有り、私のターゲットでもあります。木造の防音設計は私の代限りで終わるかもしれませんが、安易に公開するつもりはありません。
それは情報が独り歩きする弊害をたくさん見てきたからです。専門家が猿真似だけで努力を止めてしまったら、それは専門家とは呼べないだろうと思います。私自身も壁にぶちあたり試行錯誤してきました。
施主も相手の看板の大きさと金額だけで判断するなら、大切なものを見失うと思います。心して人材を探してください。

会社勤め時代・研究室時代を含めた約40年の経験談として、少しでも参考にしていただけたら幸いです。
防音設計プロフィール | 木造防音室の技術革新

なお、約20年間ご協力をいただいた大学の先輩であり、建築設計の専門家である松村千秋さんに厚くお礼申し上げる次第です。


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