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マンション界壁の防音構造

この現場は、私の仕事場から遠方にある分譲マンションであり、私以外の防音専門業者が諦めた案件です。

それは金額の問題ではなく、界壁の梁型の出っ張り幅が戸境壁面から80ミリしかなく、他の専門業者が提示した防音構造がすべて180ミリの厚さがあったからです。すべての提案が梁型部分から約100ミリ飛び出てしまうため、非常に見苦しく、しかも既存の収納建具や隣接するカーテンボックスなどの造作をすべて壊さないと構築できない構造でした。

施主の希望する遮音性能は既存より15dB以上アップさせるものでしたので、他の専門業者は界壁駆体の厚さ180ミリと同等の厚さの対策でなければ無理であると判断した結果でした。

これは約30年から40年前の「質量則のみを前提とした遮音設計技術」で設計すると、このような分厚い構造体の防音施工になるという典型的な見本です。他の専門業者の技術が30年間、まったく進歩していない証です。
これがお寒い防音業界の実情です。
なので、木造防音室やマンションの生活防音でさえ、このような無駄に分厚い防音設計になってしまうのです。

掲載した画像は私が設計した厚さ約75ミリの界壁の防音対策の説明図の部分的な断面です。防音職人の設計技術ですと、ちょうどピッタリ厚さ75ミリに納まります。結論を先に言うと、この現場の問題は解決され、防音工事は成功しました。防音工事を担当したのは施主が探した地元の普通の工務店です。東京から納品した説明書と専門的な防音材によって施工できました。
(一般的な建築材は地元の工務店が注文できる製品を指定しました)

別の投稿記事で説明した多層構造の事例と同じ理論

提示した私の防音構造の提案は非常にシンプルで、自分が開発した多層構造の実証的方法論で設計したものです。
私にとって特殊な現場ではなく、典型的な事例の一つです。上記の現場の施主が、工事完了後に計測した数値によると、施工前に比べて20dB以上遮音性能がアップしたようです。
界壁からはご本人と家族の耳には聴こえないレベルというご説明でした。

通常、音漏れを体感的に半分以下にするには、音漏れを15dB程度軽減する必要があります。殆ど聴こえないレベルということは、少なくとも20dB以上は遮音性能が向上したことになります。

正しい防音設計理論(多層構造)に基づいた設計・施工を実施すれば、この程度は期待できるという実例になります。

既成の防音設計理論に囚われない分析と研究

過去の古い設計手法を軽視するという意味では有りません。私は昔の伝統的な建築工法や先人の遮音設計マニュアルからも学んでいます。
草創期の先人の工夫や防音材の歴史を直視してきました。過去の技術も尊重するというスタンスで、自分の研究開発に活かしてきました。

ただし、同じ視点で同じ方法論では、新しい技術を開発できないので、別の分野の技術や視点が必要でした。建築業界の防音材や古い遮音設計だけでは足りなかったのです。

私は自分の多層構造の防音設計手法を開発するのに、会社勤め時代を含めて通算約20年以上かかりました。
会社勤め時代は別の本業がありましたので、出先や国立国会図書館などに出向いたときに、関連資料をコピーしたり、研究機関のパンフなど、入手できるものは全て自宅に持ち帰りストックしていました。これらの資料が独立開業後の研究に大いに役立ちました。

私は新しい視点と技術の手がかりを、土木工学と車産業の防音材メーカーに求めました。そして自費で自宅や知人宅に試験的に防音材を使用して体感しました。
さらにメーカーの担当者が上京してきたときに、東京の目白・高田馬場で打合せをしました。そして独立開業したあとは国立駅前の喫茶店で打合せをして、彼らの開発した製品(防音材)の資料を提供してもらい、担当現場で使用しながら、防音効果を検証しました。

苦労したことは、東京の担当現場で揃う防音材が、地方の現場では揃わない場合があったことです。
それはメーカーの営業所がない地域では納品できないエリアがあることです。その場合は代替品を探して、防音設計の内容を補正します。施主の了解をいただいて、少し性能のレベルを下げていただく場合がありますが、最善は尽くすように出来る限りの努力はします。

今年は防音職人の20周年ということで、過去の担当事例を振り返っているところです。私も遅咲きの自営業者ですので、体力も落ちてきており、仕事のペースを落としながら、今までの成果を総括する時期だと考えています。少しずつ、体験談を含めて記事を投稿していきたいと思います。

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