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「酢」初めて物語

を初めて口に含んだ人、凄いなってことをTwitter(現X)で呟いた(現ポスト)ところ、知り合いとこの話で盛り上がりました。
今回はそんな盛り上がりを一つまとめてみようじゃないかと、文字を踊らせています。久しぶりの投稿に緊張していますが、行ってみましょう。

酢初めて物語

酢。あんなすっぱい液体を、食べたり飲んだりして大丈夫か分からない時代に口に含むだけならいざ知らず、嚥下して、胃に流し込んだ最初の人って凄いよなぁ。多分、最初は不慮の事故。食べ残しか、飲み残しを
「うーん、ま!臭い的にまだいけっしょ!余裕!余裕!」
って感じで、軽い気持ちで口にしたんだと思う。けれど、それは今までに味わった事のない酸味で
「っっっ!?がはっ!すっ!?!?いや、なんだこれ!?これは!?毒!?しまった……なんてものを私は……死?死ぬのか!?あぁ!!!意地汚く、浅慮な私は!こんなところで死ぬのか!!」
と、偶然の産物である酢(以下偶然酢)を口にしてしまったことを後悔して、嘆き、まだ完成度の低い偶然酢でお腹を壊し、幾晩幾朝、心ここに在らずで過ごすことになったんだろうな。

その幾日を看病する仲間達に
「あれは……あれを口にするな……!とてつもない酸味とむせかえる様な匂い……!村の皆に…あの液体を口にするなと伝えてくれ……」
と譫言の様に繰り返す酢飲み。愚かな奴め。意地汚く食物を溜め込み、腐らせ、あまつさえ口に含み腹を壊すなどとは。と村の賢人達から嘲笑と軽蔑を受けていた。だが、中には
「いや、酢飲みが身を賭してあの毒を口にしてくれたおかげで、次の犠牲者を出さずに済むことを考えれば、この行動を非難するだけと言うのもまた愚かな行為と言えるだろう」
と、酢飲み行動を評価する賢人達もいた。

それから、さらに幾晩幾朝幾日が経った。

そこには、村の腐りかけた食べ物を集め、人々に警鐘を鳴らす酢飲みの姿が。
「これは危険だ!私が預かる!この匂いも……うむ!危険だ!私が預かろう!」
人々が忌避する臭いを嗅ぎ分け、偶然酢を回収する酢飲みは、自らを危険に晒す村の英雄として扱われる様になった。

「いやぁ、酢飲みのおかげで村の食べ物の保存時期が分かりやすくなってよかった。今まではまだまだいけると腐らせることもあったが、酢飲みが危険な臭いを嗅ぎ分けてくれるから、腐る前に食べ切る事ができる様になった」
酢飲みの嗅ぎ分け力は人々の暮らしを支えるまでになっていた。

そんな酢飲みの活躍が続いた日々のなかで、とある噂が村人の間で広まり始めていた

『酢飲みが集めた食べ物を独り占めしている』

という噂だ。
酢飲みの鑑定を確かめる術を、酢飲みのみが所持している事が原因で起こった噂は瞬く間に村中に広がり、村外れに住む酢飲みの耳にも入ることになった。

「このままでは……」
集めた食べ物を前に押しつぶされそうな思いを吐き出す酢飲み。
「あと少し……あと少しなんだ……」

そこへ、村人達の疑念を抱えた村の賢人達が訪れる。
「酢飲みよ………これは……なんだ……」
賢人達は酢飲みが集め、丁寧に並べた食べ物達を見回す。
「……腐った食べ物です」
「この臭い……いや香りッ!この香りを持ってして腐っていると言い張るつもりか酢飲みッ!」
「はい。まだ『腐った食べ物』です。」
「まだ……だと!?」
「ええ!まだです!私はあの腐った食べ物を口にし、死の淵から舞い戻って参りました!その時、頭に一つの想いが焼きついたのです!これは食べられる、と!」
「酢飲みッ!事ここに至ってなお、そのような戯言を!」
賢人達が酢飲みに詰め寄る。
「お待ち下さい!この腐った食べ物達を新たな食料として使う事が出来たなら!村の食料事情は大いに変化します!この食べ物達から出来た液体は、それそのものでも飲めるように私があの日から改良を重ねたものです!」
一つの甕から改良偶然酢を掬い上げ、賢人達に突きつける。
「ぬぅっ!この様な毒を呷っておったのか酢飲みッ!愚か者め!人々から食べ物をせしめてこの様な!この様な!村の恥晒しめがっ!」
「なんと言われようと結構ッ!この酢飲みッ!この命一つで村を救えるのなら、愚者と呼ばれようとも構いません!」
掬い上げた改良偶然酢を一気に呷る。
「酢飲みッ!」
「大丈夫でございます。これはもう、体を壊す毒物ではございません……!そして、この液体の使い道は飲むだけではありません!」
甕の奥、草木で覆われた甕を露わにする酢飲み。
「な…!?なんだこれは!?」
「この液体に付け込めば、食べ物を長期保存する事が出来るのです!これが完成するまでは、他の村人達に迷惑をかけぬよう、ここで皆から何を言われようと一人で研究を続けていたのです!」
そこには酢漬けにされた食べものが並んでいた。
「食べられるのか……酢飲みよ……」
「さぁ、一口」
酢飲みに勧められ、酢漬けの果物を恐る恐る口に含もうとする賢人達。
「ぐっ!」
「さぁ。」
「……ええい!ままよ!」
一思いに果実酢を呷る賢人達。
「こ!?これは!?う!美味い!」
「でしょう!これがあれば、すぐに腐る食べ物も保存し、食べる事ができます!」
「でかした!でかしたぞ!酢飲み!」

こうして、村人達からの疑いも晴れ、酢飲みは村の英雄として讃えられたとさ。

めでたし、めでたし。

如何でしょう?

まぁ、多分ちゃんと調べたらお酒か何かを作ってる工程で発見されたと思うんですけど、こうやって妄想の歴史を作り上げるのも楽しいものですよ。
みなさんも、何か「これ、初めて食べた人すごいな」とか「初めて作った人、てんさいだな」って思った時は、オリジナル初めて物語を作ってみては如何でしょう?

それでは、今日この辺りで。
失礼致します。

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