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未来共創空間は、幕の内弁当のようでありたい。

QWSがオープンした。いまこそ共創空間という場のコンセプトづくりについて、書いておきたい。

QWSは、幕内弁当のようにつくった。いや、QWSに限らず100BANCHもLODGEも、これまでの未来共創空間をプロデュースするなかでこだわってきたのが「幕の内弁当のような空間」だ。(空間だけでなく関係者も。)

色んな惣菜(素材=機能をもった部屋)が同梱されていて、間仕切りは、ほとんどなく、お惣菜それぞれを食べたり、時々お米を挟んだり、一緒に口の中で混ぜ合わせて味わったり。幕の内弁当のような共創施設とそこに出入りするバラエティある利用者達とプロジェクトの混在が活力(運動エネルギー)をつくるのだ。これは仮説でなく、いま自信をもって言える。それをコミュニティともいう。幕の内弁当の焼き鮭が好きな人もいれば、厚焼き卵がお気に入りの人がいてもいい。そして食べる人にとって「コスパが最高!」なのが幕の内弁当の最大の魅力だ。(「食べる」の定義は、共創空間によってまちまち。)

この幕の内弁当的なるコンセプトには過去の苦い経験がある。5年前、とある都市開発プロジェクトの共創空間プロジェクトにコンセプトづくりから携わった。
東京都の条例を活用した地域貢献施設(これをつくると容積率が緩和され超過高層ビルが建てられる)であり、国家戦略に乗ったオープンイノベーション拠点の構想だ。ロフトワークチームは、多くの有識者やクリエイターに協力してもらいながら脳みそが沸騰するくらい想像して企画した。

企画の評価として、当時のクライアントの決裁者に言われたのが、「幕の内弁当のよう」だった。残念ながらそれは、ネガティブな比喩として使われた。

僕らは、一つの施設に多機能(ラボ、コワークスペース、アトリエ、スタジオ、ステージ、カフェ、ショップ、ギャラリー)が混在し、多様な職能(アーティスト、科学者、エンジニアやデザイナー)と立場(個人やスタートアップ、大企業や大学)が出入りする共創空間とプログラムを企画して提案した。企画は、周辺地域が歴史的にも映画や演劇のメッカであるなど文化活動のポテンシャルをもつことから、ビジネス街ながらもビジネスとクリエイティブ(アート、デザイン、サイエンス、エンジニアリング)が交わって新しい価値を生める施設とするもの。

その提案に対する決裁者のコメントが「幕の内弁当」だった。彼はもっと「鰻弁当」とか「牛タンステーキ弁当」のような施設であり、「箱に付属したヒモを引っ張ると弁当が温まります」というような「わかりやすいウリ」を欲しがって、1年ほどの企画は次の設計へ進展せず。僕らはコンセプトと施設ゾーニングの途中でプロジェクトを去ることになってしまった。

ひとえに僕らの企画力の弱さ、説得力不足を痛感した。当時、KOILやWonder Lab OSAKAなどの空間プロデュース経験から、幕の内的な企画設計には自信があったが、ロフトワークにその場の運営経験はない。とはいえ同時期にオリンパスとつくったオープンプラットフォームカメラ(OPC)が、グッドデザイン賞ベスト100を受賞して、時代は多種多様な個の交わりから新しい価値が生まれることを社会も評価しつつあったし、ロフトワーク自体が、クリエイティブ・エネルギー(タンパク質もあれば、炭水化物も、ビタミンも脂質も糖質も)バランスよくある、まるで幕の内弁当のようなクリエイティブ組織だからこそ面白いものが生まれているという実感はあった。ただ、それを自ら外にインストールするだけの実績と経験が当時は乏しかったのが、敗因かもしれない。(相手にもよる。)

この「幕の内弁当」という揶揄は、僕にとっては「最高のメタファー」を手にした瞬間でもあった。共創空間は幕の内弁当であれ。この時の悔しさは、Yahoo! LODGE、そして100BANCHのコンセプトづくりで反映できた。当時、企画に携わったクリエイターが100BANCHを見学して「これってあの時のアレだね」と言ってくれた時は涙が出た。そしてQWSは、極めて個人的な意見だけれど、未来共創のための幕の内弁当だ。

あえて啖呵を切ると牛タンステーキ弁当では、未来の価値は生まれない。(その某共創施設は、広告代理店が入り、しばらくして華々しく開業したが、大企業ばかりが集まっては辛酸舐めあう、多様性やクリエイティビティを感じない施設になってしまった。)これは、当時の決裁者への当てつけでも、現在の運営者達を否定するものでもない。「幕の内弁当を選ばなかった」結果の考察だ。

幕の内弁当の作り方は、近年、精度が上がってきた。(まだまだだけれど)。メンバーたちは、「松井は共創空間の"運営の経験"があるから、企画に説得力があるのでは」と言う。それもある。が、大事なのは「幕の内弁当をつくる」という気概とこの弁当の姿を想像しうる限り想像しまくること、何度も議論すること、共創そのものを小さくても実践すること、過去の失敗やボツになったアイデアを次に活かしたいという想いがあるか無いかなのだ。

このコンセプトは、まだ道半ば。これからも幕の内弁当的な共創空間に挑戦する。

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