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レトロな暮らしの知恵袋1〜南の果てタスマニア島へ〜

南半球のオーストラリアをさらにずっと南に下ると、北海道と同じくらいの面積をもつ島、タスマニア島がある。オーストラリアに入植がはじまってから、すぐに開拓され、リンゴの一大生産地として発展してきた。場所によっては、18世紀、タスマニアに人々が移り住んできたころの建物が残る、古い町並みの中で開催されるマーケットや美術館、大自然へのハイキングなどを目的に、夏場は世界中から人々が訪れてくる。

タスマニア一番の観光地は、クレイドルマウンテンといい、のこぎりのような雄大な山だ。オーバーラウンドトラックという名の、65キロのトレイルが、クレイドルマウンテンの麓からスタートしており、日々多くの観光客が訪れる。

誰もが通り過ぎるクレイドルマウンテンへの道の途中の町、ウィルモット。そこは、他の平地と比べ、標高が高く、ジャガイモや酪農の町で、今は小さな学校が一つあるだけだ。その町からさらに、クレイドルマウンテンに向けて南に進むと、egg5$という看板がある。

タスマニアの原野にある家々は、フェンスに囲まれ、ワラビーなどの動物が家にはいり、芝生やキッチンガーデンを荒らさないように、ゲートがあるのが通例だ。道に面したゲートを車から降りて開けて、敷地に入りまた門を閉め車に乗る。木々に覆われた小道を抜けると、その周りを鶏が自由に散策している。立ち止まって見ているとポニーがどこからか現れ、僕を出迎えくれた。僕は今回、ここで動物たちと暮らすジョーさんを訪ねた。

「前の旦那がパイロットの仕事をしていたので、オーストラリア中を点々としたわ。一つのところに落ち着くことが無く、とても大変だったの」タスマニア島に移住する前の生活をジョーさんはこう語った。家で鶏を飼い、乗馬をして楽しんでいた幼少期の思い出が強く残っており、大人になってからも自分の土地をもって暮らすことを夢見ていたという。ジョーさんの弟がタスマニアで一人暮らしをしていたことがきっかけで、夢だった生活を実現するため、再婚した旦那さんと共に一年半前にタスマニア島へ移住した。

家は築118年で、ウィルモットが開拓されたときに建てられたものを増築したものだ。敷地には果樹園、牧草地、鶏小屋がすでにあり、今では羊が18頭、馬、猫、ガチョウはそれぞれ2匹ずつ、さらには鶏が70羽おり、多くの動物の世話をしながら暮らしている。果樹園からはリンゴや、ブラックベリー、ローズヒップ、プラム、スグリの実など、季節の食べ物がとれる。

「庭で取れるものを使って、日々の食べ物や、時には暮らしのものを作っているの。」
そういって、暮らしの中でその知恵を紹介してくれた。

一通り庭を案内してもらったのち、リンゴやブラックベリーの収穫を手伝わせてもらった。果物はジャムやケーキにしているそうだ。また果物だけでなく、日々の常食のパン、トマトや、サラダ用の野菜も手作りだ。スーパーに買い物に行かなくとも、庭から取れる野菜や、日持ちする豆類、備蓄してある小麦粉で生活をまかなっていた。
2週間滞在している間に1回しか買い物に行かなかったのにも関わらず、いろいろなものを作ってくれた。朝食でよく食べたのは、ニンニクとレモンで風味をつけた、ひよこ豆のペーストのホメスだった。ホメスは、庭でとれたトマトや野菜と一緒にパンにはさんで食べた。ピーナッツバターやジャムと違い、野菜によく合い、優しい味わいだった。
飼っている羊も時に地元のお肉屋さんにたのんで屠ってもらい、食べる時もあるそうだ。お肉はラム肉として食卓にのぼり、脂肪は、鶏が冬の間好んで食べるという。

ジョーさんが子どものころ、祖母や母親が羊の肉を塊で買ってきていたことがあり、肉や脂肪をどう使えばいいのかは、その時に知ったそうだ。煮出した脂肪を鶏に与えたり、石鹸をつくったりと多才な家族で、その時の体験が今の暮らしのベースにあるという。

子どものころに鶏を飼っていたこともあってか、今でも鶏たちに対して一番深く愛情を注いでいる。それぞれの特徴や、個性を十分に理解し、朝の餌やりの時間に一匹一匹の様子をみる。
「この子は飼っている中で一番古くからいる鶏で、もう卵を産まないの。でも、とても賢くて、群れに規律を作ってくれ、ほかの鳥のことを気にかけてくれるのよ。」
「あの鳥は、卵をかえすために、座って動かないわね。ここはみんなのお気に入りの場所だから、仕方がない、ほかに移しましょう。」

このような調子で、一匹一匹の様子を見つつ、鶏のケアをしてゆく。日中、鶏たちは、自由に果樹園の中や庭を散策できる。しかし、群れの中で強いオスが弱いオスを追いやるため、うまく距離をとることが必要で、時には手で捕まえて、別の場所に移すこともある。

ジョーさん宅に滞在させてもらうこととなり、部屋に案内されたとき、部屋には何百個も卵が積まれていた。どこの家も鶏を飼っており、夏になると卵をよく産むため、売れ行きが落ちるのだという。そのため、なんとか卵を使おうと、ケーキやパイなどを焼いて作る機会が多かった。

僕たちも、卵の消費にだいぶ尽力した。茶碗蒸しやら、煮卵をたまたまタスマニアで合流した、日本人の後輩と作り、卵パーティのような日々が続いた。

ある日、ジョーさんが言った。

「卵を使った中でも、とっておきを作るわよ。クラッシックフレンチバニラアイスクリームというアイスクリームよ。」

用意するものは、砂糖と牛乳、生クリーム、卵、バニラエッセンス。
まず卵を割って、卵黄だけを集め、カスタードクリームを作る。

早速手伝おうとすると、「卵を割るときは、必ずひとつずつ、ね」と、ジョーさんがすかさずいった。
鶏の卵は自宅でつくっているため、賞味期限が記載されているわけではない。中には悪くなっているものもあるため、注意が必要であった。

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