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『オリックスはなぜ優勝できたのか 苦闘と変革の25年』 著:喜瀬雅則/蒼風の本棚

※本稿は 蒼風が、読んだ本についての感想を淡々と書いていくだけのものです
※カクヨムにも掲載しております

本文

 他の本を買うために書店をうろうろしていた時にこの本が目に入った。「オリックスはなぜ優勝できたのか」。

 確かに今年オリックスは優勝した。だけど、その理由を後から探ることはいくらでもできる。どの選手がどういった成績を残すしたのか、他球団と比べてこのポジションの数字がどれだけ優秀だったか。UZRがどうOPSがどう。理由なんていくらでも後付け出来るし、いくらでも「これがあったから優勝できた」ということが出来る。勝者の分析なんてそんなもんだ。

 結論を書いておくと、本書はそういった「後付け結論」の本ではない。それこそ「がんばろうKOBE」の時代から、今年の快進撃まで。歴史的な背景を含めて触れている。

 本のタイトルは「なぜ優勝できたか」というキャッチーなものにはなっているが、それこそ球界再編を含めた歴史と、オリックスの今を知ることが出来る内容である。

 自分はオリックスファンなので、知っている内容もある。だけど、その経緯については知らないこともあった。

 具体的にいくつか挙げていくと、トレーニングの専門家である中垣なかがき征一郎せいいちろうの存在が、近年「若手がぽこぽこ生えてくる」という状況に寄与しているというのが自分の読みだったが、その中垣が、2021年から一軍と二軍を巡回する、「巡回コーチ」となった話は恥ずかしながら初めて知った(ここ数年MLBも追うようになったため、個々の情報が抜け落ちがちになっている気配がある)。

 また、杉本すぎもと祐太郎ゆうたろうが、根鈴ねれい雄次ゆうじの指導を受けていたことは知っていたものの、そこまでの過程にブルペン捕手によって推薦されるという過程があったのは知らなかったことだった。そういった内情についても深く知ることが出来る本でもあるだろう。

 最後に、本著を見ていて自分が改めて考えたことを書いておきたい。

 自分はとみに日本野球の「経験者ありき」という考え方が嫌いである。

 とにかく過去の蓄積ありき、走り込みをしないから駄目なんだ、筋トレなんかしたら体の柔軟性がなくなる。

 ネットも普及しているこの時代にガラパゴスが過ぎる考え方が未だに横行し、挙句の果てに、経験者かどうかで、意見の採用具合も大きく異なる。そして、最悪なことに、やっている側はその自覚が無いと来ている。

 そんな風潮に、風穴を開けた事例が、本著にはいくつも取り扱われている。

 中垣はコーチという立場にあるが、元プロ野球選手ではない。あくまで彼はトレーニングの専門家だ。だが、彼が巡回コーチに就任した今年、オリックスは見事に下馬評を覆した。

 杉本を指導した根鈴も、MLBの傘下である3Aまで昇格した経歴を持つが、NPBを経由していないため、元プロ野球選手としては扱われない。

 もし今彼がNPB入りをするならば、ドラフトにかかるよりほかが無い。そして、彼の打撃理論は日本では未だ根付いていないものだ。しかし、海外、とみにMLBでは浸透しているものだ。

 それらの「常識破り」な教えがあってこその優勝である、ということが本著からうかがい知ることができる。

 オリックスが優勝できた理由だけではなく、変革や、その顛末。更にはスカウトや、ドラフト会議の妙まで、オリックスファンや野球ファンのみならず、楽しんで読むことが出来るのではないかと思う。



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