卵子冷凍保存

30代になった女子が人生を考えるうえで一つの大きなオプションになるものに「自分の子を持ちたいか」ということがある。

実はこの点は、パートナーがいるか、結婚したいか、といった恋愛的なこととはあまり関係がない。むしろ、(一昔前では男性によく言われたような)生存本能的なものに近いのかもしれない。例えばパートナーがいなくても、また、パートナーが同性であっても、自分の(遺伝子の)子を持つことは(ハードルの高低や考え方にもよるが)可能である。

可能としても、女性の場合、身体的な制約は存在する。一般的に精子を作り続ける(とされる)男性と比較して、女性の卵子はその女性が生まれるときに出来上がり、そこから成熟・老化していくしかないらしい。つまり、女性については自分の年齢が老化するにつれて(加速度的に)卵子も老化し、生殖に適さなくなっていくのだ。卵子の老化だけではなく、生殖をつかさどるホルモンバランスも老化によって大きく左右されるのだからなおさら、である。

そこで、一つの選択肢を検討することになる。未授精卵子の冷凍保存である。

最近は企業の福利厚生の一環として補助がでる場合もあり、最も女性の生殖に適しているといわれる20-30歳代は同時に仕事面での活躍が期待される時期でもあることから、忙しくて子供はまだ考えられない、相手がいない、といった状況もよくあり、一方で35歳を過ぎると急激に卵子の老化が進むという話もあることから子供を産みたいときに卵子がお年寄りで授かりにくくなることは避けたい(若い状態のよい卵子をリザーブしておきたい)というニーズも目立ってきた。

そして最も大きい注意点が、卵子の冷凍保存は40歳まで、というルールが設定されていることが多い。これを過ぎると卵子の老化がすすみ、かつ、42歳を超えると冷凍卵子を用いた人工授精をしないというルールが設定されていることにもよる。したがって、やるとすれば、40歳の誕生日を迎えるまで、なのだ。

前置きが長くなったが、筆者は楽しくのんびり仕事に30歳代を費やしてしまって気が付いたらパートナーもいないまま39歳を迎えようとしていたが、ふとした拍子に卵子の冷凍保存ができないかと考え、実際に実行してみたことから、そのときの体験を以下、備忘的に記録しておく。

なお、念のため、女性の生殖器官系の状態は本当に千差万別であり、筆者にうまくいった、又は筆者が痛くなかったからといって、皆が同じということではない。特に生理痛やPMSなどに顕著だが、ホルモン剤等の影響はかなり個人差があることには留意のうえ、参考にしていただきたい。

[病院さがし]
まずは、どこでやるか、である。筆者が検討していた際は、特に病気などを理由としない、任意での卵子凍結だったため、全額自費診療であり、使用する薬剤などの種類にもよるが、大体1回の卵子育成・採取・凍結に約30万円前後必要だった。多額の費用をかけることになるため、きちんと実績があり、信頼できる病院であること、また、検査、ホルモン剤の状況確認、採卵など複数回、自分の生理周期に合わせて通院しなければならないことから開院時間・曜日が多いこと、冷凍保存したものの解凍・人工授精する場合は同じ病院でのみ(他の病院に冷凍卵子を移すことは想定されない)となるため、対応してもらう医師との相性(コミュニケーション)などを重視した。その結果、個人的には症例数、対応医師の数、開院日時の多さ、職場・自宅からのアクセスなどから、丸の内にあるクリニックにした。なお、実際には、他のクリニックも訪問して話を聞いて比較検討をしている。

[準備]
やると決めたら準備が必要である。基本的には血液検査でホルモンや性感染症の状況等を確認したうえで、各人にあった卵子育成のためのホルモン剤の投与を行うことになる。通常の月経周期では、基本的に一つの卵子のみを成熟させて子宮に排出するが、卵子採卵については1回に1つしか採れないとなると時間も費用もかかりすぎるので負担が大きい。そのため、複数の卵子が生育するようホルモン投与するのである。そして、採卵時に月経時に排卵する程度に育った卵子のみを採卵することになる。

この際のホルモン剤の投与は、経口薬の場合もあるかもしれないが、筆者の場合は、皮下注射を自分でする、というものだった。つまり、自分で自分に注射をうって注入するのである。誰にでもできるように比較的細い針でエピペンのような簡単な注射器にはなっているものもあるが、やはり自分で自分に注射を打つことに抵抗がある人はなかなか怖い思いをするように思う。

[採卵本番]
前日から食事等制限をしたうえで、クリニックへ。以下、採卵時の流れである。

  • 術着への着替え

  • トイレで排尿と座薬注入(自分で)

  • エコーで状態チェック

  • 膣から器具を入れて中を拭う(少し痛みあり。子宮頸がん検査程度の感覚)

  • 局所麻酔(歯医者の麻酔みたいにキューとした注入の感覚。左右の卵巣それぞれに)

  • 器具を挿入し、卵胞に突き刺して吸入。これを生育して取り出せる卵胞分だけ、左右繰り返す。吸入するところは、エコーで自分でも見せてもらうことができる。

  • 器具を抜いて、中を洗浄して終了。ここまで約10分から15分程度

  • 5〜10分安静(ショーツ履いてナプキン)。水分とって排尿を待つ

担当医も手馴れているため、全体では1時間もかからないように思われるが、麻酔などもするため、若干の緊張感がある。なるべくリラックスを心掛けるが、それでも緊張はする。

採卵後、診察において、いくつ採卵できたかという状況を教えられ、いくつ冷凍保存するか、確認され、決定する。採卵できても凍結に適さない状態のものは対象から外される。なお、凍結は個数によって金額が変わってくる。筆者は1回の採卵で11個程度の成熟卵子を摘出・保存できた。

最後に、留意点。
未授精卵子の冷凍保存については、採卵時の費用だけではなく、翌年以降の保管料が別途必要となる。
おそらく医療費控除の対象とはならない(病気などで医師の指導に基づき行う場合ではないため)。
採卵できる卵子の個数は人によって個人差があり、かつ、採卵できたからといって冷凍保存したものを解凍して人工授精を行う場合、解凍時に使用できなくなる卵子もあること、冷凍卵子の人工授精成功率も20%程度のため、ある程度の数を冷凍保存していく必要がある。ちなみに、冷凍せず、採卵して生のまま速やかに人工授精・顕微授精して受精卵として冷凍保存する場合は、卵子の冷凍保存とちがってほぼロス率はないとのこと。

最後に、やってみた者として思うことは、自分の子供が欲しいと思う可能性がある女性で、「今じゃない」と思っている30歳代の方は(特に35歳以降)お金に余裕があるのであれば、卵子の採取・凍結の検討をお勧めする。卵子としては早い方に越したことはない。一方で、長期間保存することは費用が掛かるというデメリットがある。
また、一般論として卵子採取などのために行う検査等で婦人科系の病気を発見することも有りうる。早期発見によって回避できる婦人病もあるため、婦人科検診の習慣のない方はこれを機会に検討されることを進める。

以上



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