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小さな地方旅館が大手資本の出店に慌てふためく話

これは地方の小さな旅館が大手資本の出店に慌てふためき、奮闘するお話です。
このお話について、皆様にお伝えするべきかどうかは、ずっと迷いがありました。
しかし、
「小さな宿ではあるけれど、これまで出雲の旅館の先駆者であった自負はある。そして、これからも先駆者であり続けないといけない。それはどんな宿が出雲に現れても、守っていかなくてはいけない」
という社長の言葉を聞き、現在私たちの宿が直面している問題や、問題に立ち向かっている姿を、あえてお伝えすることには意味があると信じ、勇気を出して記事を書いた次第です。

そんな思いで書いた、宿公式らしからぬ、赤裸々な文章となりますが、草菴という宿の「芯」の部分を感じていただければ、そして出雲にこんな宿があると、少しでも皆様の記憶に残れば、と考えています。

草菴 玄関の茅葺門

さて私は、島根県にある「湯の川温泉」の旅館に生まれ育ち、温泉ソムリエとして勤務しております。
大学進学とともにいったん実家を離れましたが、その後Uターンしてあっというまに15年が経ちました。

草菴の主な運営メンバー
社長=父
女将=母
専務=弟(長男・3人兄弟真ん中)
常務=私の主人(東京よりIターン)
取締役=私(長女・3人兄弟1番上)
取締役=弟(次男・3人兄弟末っ子)

上記に厨房スタッフ4名とサービススタッフ5名、あわせて9名の優秀なスタッフたちの力を借りて、小規模家族経営にて全16室の宿「湯宿 草菴」を一丸となり運営しています。

小さな宿を襲う脅威

日々、お客様の心に少しでも心の癒しや、記憶に残るひと時をご提供できるような宿づくりに奔走している我々。
草菴創業以来18年の努力の成果か、今では地元・出雲の皆様に「出雲で良い宿と言えば草菴」というイメージを持っていただいていると聞く機会が多くあり、本当にありがたく感じております。

私の実体験になりますが、地元の方に良い宿として認めてもらっているんだなあと実感した出来事があります。
私が長女を出産する際、緊急搬送となってしまった私は、救急車で病院に到着したのち、勤務先について尋ねられました。
「湯の川の草菴です」と答えた途端、「先生!内田さん、あの、有名な草菴さんですって!知ってます?あの、高級な!お食事もおいしい!草菴ですよ!」と看護師さんが先生に報告している姿を見た時、産まれそうになりながらも、「ああ、草菴は地元の方に良い旅館として認められてるんだなあ・・・」としみじみ感じたのでした。

紫雲閣「吉」

そんな我々の宿「草菴」ですが、今年4月ごろ、大きな衝撃が走りました。
某大手リゾートが出雲に進出することは、以前から決定していたのですが、ファミリー層向けの施設になるのでは?との予想がありました。しかし、ここへきて客層が重なる施設になるであろうということが判明しました。
こりゃ大変だ!というのが、最初の印象です。
さらに5月、客層だけでなく料金帯も、ほぼ重なってくることが判明したのです。

リビングで社長が1か月引きこもり!?

常に情報収集には余念のない社長。もちろんすぐにこの情報をキャッチしました。
戦略を練るためなのか、ほぼ1か月、リビングにこもり続けてしまいました。
のちに、こもっていた間は、日々の料金の見直しや、草菴としてのブランドイメージのブラッシュアップを行っていたと分かりました。
当時の机の上は、気が狂ったかのような小さな字でびっちりと書かれたプリントが無造作に置かれていました。
長時間の書き込みのためなのか、指を痛め通院したほど、根を詰めていました。

月に1度の経営(家族)会議

私たちは、月に1度程度経営会議を行います。
ちなみに経営会議と言っても、常務である料理長1名を除いてはすべて家族のため、ほぼ「家族会議」状態であります。
会議室などもちろんありませんので、リビングにて会議を執り行います。

日々の問題点や、スタッフの声、お客様の声のすくい上げなど、議題は無限にあるのですが、最近は特に「リゾートチェーンブランドとの差別化」についての議題で話し合います。
そして、会議中は、家族だから基本的に遠慮は無用。
正直めちゃくちゃ疲れます。
「こんなに家族同士が体当たりで何時間も話し合うことってあるの?」
という気持ちにもなりますが、この旅館を運営していくにあたっては、大切な時間になっているのかなとも感じたりします。

そんな経営(家族)会議ですが、決まったことをとりあえずやってみて、たとえ失敗してしまっても、またもう一度考え直すという「トライ&エラー」を繰り返す場でもあります。
そんな小回りが利くのも、家族で話し合っている長所なのかもしれません。

出雲の「ローカル・ブランド」旅館

「家族と9人のスタッフ」いう小さなコミュニティーで奮闘している私たち。
大手チェーンとの違いを出していくにはどうしたらいいか…
たくさんの宿から私たちの草菴を選んでもらうには何が必要なのか…
そのようなことを今は皆が考えています。

古民家離れの宿「庄屋」

そして、1か月の引きこもり期間を経た社長の考えからは、「ローカル・ブランド」というキーワードが出てきました。

草菴というブランドは、出雲の「ローカル・ブランド」であること。
そして、それを確立させ、発信していくこと。

※「ローカル・ブランド」とは、全国的な知名度を持つ銘柄・商標である「ナショナル・ブランド」の対義語で、一定の限定的な地域で認知され、構築されているブランドを指します。

草菴の良さを見つめなおす

あの引きこもった社長の1か月を無駄にしないようにしっかりと形にしたい。
草菴の「ローカル・ブランド」を確立していくためにはまず、私たち自身が「草菴ならではの良さ」を本気で、かつ丁寧に、見つめなおしていくことが必要だと考えました。

自分たちにとっては、当たり前だと思っていることでも、客観的にみると実はすごく魅力的だったり、長所だったりすることがあるかもしれません。

身近だからこそ当たり前になっていて、その魅力に気づけていないことは、とても勿体ないことだなあと思いました。
これは、宿でも、出雲という地域においても同じことが言えます。

貸切風呂「岩風呂」

「まずは、丁寧に、草菴という宿に向き合うこと」

小さな旅館の挑戦はまだまだ続きます。


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