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ヘドロの創作 2024/8/25

 【猫の喫茶店】

 きょうも「喫茶 灰猫」のマスターはいつも通り店を開けた。一歩店の外に出ると容赦ない日差しがじりじりと照り付けて、マスターはあわてて「喫茶 灰猫」の建物に逃げ込む。
 こんな天気じゃろくにお客さんがこないことを想定したほうがいい。来たならアイスコーヒーが売れるだろう。冷凍庫に、凍らせたコーヒー(これならアイスコーヒーに入れたあと、溶けてしまってもコーヒーが薄まらない)が入っているか確認する。

 案の定その日は暇だった。マスターは昼まで特にだれもお客さんがこないという退屈な半日を過ごした。自分用の食事を用意するか、そう思ったらからんころーんとドアベルが鳴った。

「マスター! キリキリに冷えたアイスコーヒーちょーだい! あとパンケーキ!」

 入ってきたのはエノコロ小路にある名画座、「トンビリ館」のチケット売りのお姉さんである。
 トンビリ館は昔の人気映画をたくさん上映しているので、年配の猫に人気である。いまは確か「バック・トゥ・ザ・フューニャー」と「ジュラシック・ニャーク」を代わりばんこにかけているはずだ。
 これはマスターの個人的な好みだが、「ジュラシック・ニャーク」シリーズは、恐竜がCGになってリアルになった最近のやつより、特撮で撮った昔のやつのほうが迫力がある気がする。
 トンビリ館は昔の映画をかける小さな名画座だが、レトロな雰囲気が人気で、最近では若い猫もわざわざ映画を観にくるのだそうだ。

 よく冷えたアイスコーヒーと、焼きたてのパンケーキを出す。
 チケット売りのお姉さん――サビ模様の、元気のよさそうな美人は、アイスコーヒーにガムシロップをいれて、おいしそうにアイスコーヒーを飲んでいる。パンケーキもフワフワだ。

「やっぱりここのコーヒーはおいしいねえ」

 お姉さんはニコニコしながら、アイスコーヒーを飲んでいる。マスターは表情を変えなかったが、コーヒーを褒められて本当は嬉しい。

 トンビリ館は明日から上映作品が変わるらしいのだが、名物の絵看板がまだ仕上がっていないとチケット売りのお姉さんはいう。

 チケット売りのお姉さんがのんびりとコーヒーとパンケーキを楽しんでいると、ドアがあいて、ペンキのついた作業着を着たおじさんが入ってきた。

「やーっぱりここにいた。絵看板、出来上がったよ」

「えっ、本当です!?」

 チャシロのおじさんはにっと笑った。お姉さんは「マスターも見ましょうよ」と誘ってきたので、マスターも続く。
 絵看板は喫茶「灰猫」の壁に立てかけてあった。思いのほか大きい。
 次にトンビリ館にかかるのは「フカフカ3世 ニャリオストロの城」と、「燃えよネコゴン」らしい。こういう脈絡のない番組編成がトンビリ館の人気の理由なのだった。(つづく)

「じぶんではいるならさいこーなんです、これ」


 ◇◇◇◇
  おまけ

 最近聡太くんが見つからないなあと思うとキャリーに入っていることが多い。程よく狭くて落ち着いたりするのだろうか。
 せっかく冷房をつけても廊下に落ちていることもよくある。なんでわざわざ暑いところに行くのだろうか。謎は深まる。
 あとさきほど物置でゴキの死骸が見つかったのだが、聡太くんが倒したのだろうか。

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