小説『人間きょうふ症』33

 先生の最後の言葉だけを受け入れ、新しい住処を探すことにした。家族もクラスメイトも捨て、狭い狭いあの世界から逃げ出した今の最終手段。全てが終わった気もしなくはないが、先生が以前言っていた言葉が頭の中に浮かんでくる。

実際に、佐藤さんは自覚していないのかもしれないけれど、思っている以上に強いし、思いやりのある人でもある。あなたが身につけたかった例のスキルも、今はあるから。

 私の考えていることや性格は尊重してくれる。でもやっぱり、先生の考えていることはわからない。
 「佐藤さん。今日からここがあなたの家です。そして、書類の手続きも完了しておきました。なので、私たちはここで一旦お別れですね。これから大変なことはたくさんあるかもしれません。それでも、あなたの思考を生かし、善い道を歩むこと。わかりましたか?」
 私は涙ぐみそうな顔をグッと堪えながら、うなずく。
 「先生。また機会があったらよろしくお願いします。そして、今まで私を救ってくれようと頑張ってくれてありがとうございました。」
 私はこれから止まるアパートの前で突っ立って、先生が無言で振り向かずに少しずつ遠ざかっていくのを見送った。先生、またね…。元気でね…。

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