有木田 聰 - 外見への悩みを隔離できた人

20歳で重度の脱毛症が始まってから、悩んだ日々のことを振り返りました。 全部で30回ほ…

有木田 聰 - 外見への悩みを隔離できた人

20歳で重度の脱毛症が始まってから、悩んだ日々のことを振り返りました。 全部で30回ほどの連載を予定しています。

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第1話 はじめに

今から数十年前の話です。 私が20歳の頃、重度の脱毛症が始まりました。 ただのハゲというよりも、もっとひどい状況です。なぜか、片方の眉毛が全てなくなるところから脱毛症が始まりました。そして、前頭部、後頭部にも虫食い状に脱毛症が広がり、明らかに病的な見た目になってしまいました。 原因は不明でした。強度のストレスだったのか、食べ物による強いアレルギー反応だったのか、何かの原因はあったのでしょうが今になってもその理由は分からないままです。 そして、数十年が経過した今も、状況は全く改

    • 第26話 自分を隠すための帽子は、今でも手放せない

      楽しい時間が増えてきましたが、それでもハゲていることへの自己嫌悪は消えません。 でも、そういう日常にもだいぶ慣れてきました。ときどき自己嫌悪を感じて凹むけれど、すぐに復活するという形になってきました。 でも、帽子はなかなか手放せませんでした。 冬はニット帽。春、夏、秋は、基本的に野球帽のようなツバのついた帽子をかぶっていました。 スーパーで買い物をするとか、電車に乗るとか、直射日光が当たらずに冷房が効いた室内では帽子は不要です。そんな環境でも、私は帽子をかぶり続けていました

      • 第25話 居場所を増やしていく

        以前にカラオケ屋の面接に落ちて以来、アルバイトをすること自体に消極的になっていました。 ありがたいことに親からもある程度の仕送りはもらっていたのですが、大学生として色々な活動をするにはそれ以上にお金が必要です。 お金が足りなくなる度に、引っ越しのアルバイト、工場のアルバイト、物流センターでのアルバイト、そういう単発バイトを入れていたのですが、肉体的にも精神的にも辛いものが多く、あまり自分に合っているとは思えませんでした。 意を決して、もう一度、恒常的に入るようなアルバイト先

        • 第24話 気遣いをしない人への対応

          私の外見は相変わらずひどいままでしたが、そのことを表立って私に質問するような野暮な人はあまりいません。 でも、ときどき、そういう人がいるのも事実です。 典型的なのは、幼稚園から小学低学年くらいの年齢の子どもです。 私の顔を見るなり、どうして髪の毛がないの? どうして眉毛がないの? と真顔で聞いてきます。そういう時には、世の中にはそういう人だっているんだよと、優しく返してあげます。 でも、そうやって言葉にして質問してくれるのは少数かもしれません。 言葉にはしないまでも、私の

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          第23話 状況は変わらないが、ゆっくりと歩きだす

          脱毛が始まってから、1年くらいが経ちました。 脱毛の症状はひどいままですが、それ以上に悪化することもなく、ある意味安定したような状態でした。前頭部、側頭部、後頭部には円形脱毛の大きな穴がところどころにあり、眉毛も片方が完全に抜けたままの状態です。 髪が一度抜けたところは、ずっと抜けたままでした。抜けたところで再度髪が生えることがあれば回復への期待も持てますが、全く生える様子がないので完治することはあきらめました。 その後も、サークルでの活動を楽しみながら、いろいろな活動を元

          第23話 状況は変わらないが、ゆっくりと歩きだす

          第22話 外見という社会的ステータスの本質

          ここまで自分自身の悩みと活動を振り返った上で、大事な論点を整理したいと思います。 外見というのは、いったいどこまで大事なのでしょうか。 外見より中身が重要なんて、そんな浅薄な理想論を語るつもりはありません。外見は確かに大事です。 特に初対面の人と会う時には、良い外見を持っていることは効果的です。 ハンサムや美人であれば、異性の関心を惹きつけることができます。 ビジネスでの出会いであっても、精悍でさわやかな人が良く通る声で説明すれば、それだけで説得力が増します。 ここでの外

          第22話 外見という社会的ステータスの本質

          第21話 新しい居場所への初日

          部活時代の友人が、私が手持ち無沙汰にしているのを見かねて、活動場所を紹介してくれました。スポーツを楽しむサークルでした。 私は、あまり前向きな返事をしなかったのを記憶しています。 自分自身の心の浮き沈みが激しいので、多数の新しい人と出会って交友関係を築いていくことに自信がなかったのです。 でも、友人はそんなことお構いなしでした。 「まあ、いいから。とにかく行くぞ。明日も練習があるから、一緒に行こう」 そんな感じでした。強引にひきずられるような形で、私はサークルの練習に初めて

          第21話 新しい居場所への初日

          第20話 他人が自分の外見を気にしていないことに気付く

          前述したとおり、当時の私は他人からの視線をとても恐れていました。 表面的には何もないように接してくれますが、心の裏側では私の見た目を憐れんでいる。だからこそ、そのように冷遇される状況に自分の身を置くことが、非常に辛かったのです。 でも、それは真実ではありませんでした。 みんな、他人の顔に注目し続けるほど暇ではないのです。 もちろん、脱毛していて可哀そうだなということには気づきますが、それだけなのです。それ以上に、憐れんだり、さげすんだり、自分と区別するなんてことはしていない

          第20話 他人が自分の外見を気にしていないことに気付く

          第19話 それでも折れやすい心

          逆説的自信という考えは、素晴らしいアイデアでした。 でも、そのアイデアを思い付けば、すぐに実行できるというものではありませんでした。 ピアノを買えば美しい音楽を奏でられるわけではなく、ピアノを弾きこなせるように練習が必要ということに似ています。今まで自信を喪失していた自分が、新しく手にした「逆説的自信」というものを使いこなすには、練習が必要だったのです。 外に出る機会を増やそうと思い、新しくアルバイトを始めることを考えました。 大学にある学生相談所に行けば、いろいろなアルバ

          第19話 それでも折れやすい心

          第18話 立ち直りのきっかけとなった「逆説的自信」という考え方

          自分自身に最も必要なことは、自信を持つことだと思っていました。 でも、今の外見では、とても自分に自信を持てません。 でも、この状況を逆説的に捉えて、「こんなに不遇な状況にあるにもかかわらず、陽気に強く振る舞える自分」を演出することで、自分に自信を持とうと思ったのです。 少し分かりにくい考え方なので、ちゃんと説明しますね。 身の回りにハンディキャップを負っている人がいると想像してください。身体的な障害でも、社会的な障害でも、どんなハンディキャップでも構いません。 そういう人は

          第18話 立ち直りのきっかけとなった「逆説的自信」という考え方

          第17話 本来の世界に戻りたいという切実で叶わない願い

          脱毛が始まってから、半年以上が過ぎました。 症状は進み、右側の眉毛はほとんどなくなってしまいました。 一方で、左側の眉毛は少し脱毛で短くなったものの、まだ生え残っているところも多い状態でした。眉毛は目立つ部分なので、左右非対称というのは変な状態です。両方とも抜けたほうが、まだ違和感が少なかったのかもしれません。 後頭部や側頭部も、虫食い状の脱毛が進み、病的な見た目のままです。 家に閉じこもりがちでした。 大学に出て多くの人目に晒されることも嫌になり、講義にもほとんど行かなく

          第17話 本来の世界に戻りたいという切実で叶わない願い

          第16話 閉じこもる息子を心配する両親

          もちろん、私の両親も、私のことを心配していました。 体育会の部活を辞めてからというもの、大学の近くで一人暮らしをしていてもやることがなく、実家にいることが多くなりました。 ちょうど運転免許を取ろうとしていた頃で、実家近くの教習所に通ったという理由もあるのですが。 教習所に行っている時間以外は、何もすることがなくぼーっとしていました。 部屋に引きこもって、本を読んだり、本すら読まずに無為に過ごしたりしていました。 はたから見ればどう見ても鬱状態でしょう。でも、自分自身では鬱で

          第16話 閉じこもる息子を心配する両親

          第15話 変わりすぎた私の顔

          同窓会というような大きな集まりではなかったのですが、高校時代の友人が20名くらい集まるようなイベントがありました。 正直、そこに行くのがとてもイヤでした。 いろいろな理由をつけて欠席しようと思いました。でも、うまい欠席の理由も思い当たりません。1年ぶりの再会なので、みんな無邪気に楽しみにしています。 それに、自分自身の境遇を受け入れて、外に出なければいけないという思いもありました。 自分が脱毛でひどい見た目になっていることは、私の友人を通じて多かれ少なかれ伝わっているはずで

          第14話 常識的な内容なのに今も忘れられない言葉

          高校を卒業した直後は当時の友人と頻繁に連絡を取っていましたが、色々な大学に散らばってそれぞれの生活を送る中で、だんだんと連絡も途絶えがちになります。 もちろん、仲が良かった数名の親友とは、ずっと連絡を取り続けていました。 大学での友人と同様に、自分のことを心配したり励ましたりしてくれました。 地方の医学部に進んだ友人がいました。彼が住むところに遊びにいき、城址やサルが集まる公園などを案内してもらったことがありました。 彼は、私が外に出ることを嫌がって自宅にこもりがちになっ

          第14話 常識的な内容なのに今も忘れられない言葉

          第13話 不釣り合いな場所への冒険

          友人たちは相変わらず部活などで忙しくしていましたが、暇を見つけて色々なところに誘い出してくれました。 とてもうれしく、とても悲しいのが、合コンの誘いでした。 1人だけで悩み続ける毎日は辛く、自分に彼女ができればどんなにいいだろうと考えます。でも、一方で、こんな外見になってしまった自分に、彼女ができるはずなんかないと冷静に考えます。 そういう葛藤を知ってか知らずか、友人たちは色々なツテで合コンをセットしてくれました。 4対4とかで飲み会をするのです。 こんなことを言うのは

          第13話 不釣り合いな場所への冒険

          第12話 小難しい本を読むという自己再構築

          とにかく、時間だけはある毎日でした。 何をしても自由。テレビやゲームにうつつを抜かしても、誰からも咎められません。 でも、理性的に考えることもありました。 外見に全く自信を持てなくなってしまったからには、外見以外のところで自分の強みを見つけなければならない。ゲームとか、無駄なことばかりをしているわけにはいかない。 こんなふうに、自分を叱咤激励したのです。 どういう強みを持つべきなのだろうか。 やっぱり、頭がよくないといけないだろう。 いろいろな学問に興味を持って、自分の知

          第12話 小難しい本を読むという自己再構築