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第17話 本来の世界に戻りたいという切実で叶わない願い

脱毛が始まってから、半年以上が過ぎました。
症状は進み、右側の眉毛はほとんどなくなってしまいました。
一方で、左側の眉毛は少し脱毛で短くなったものの、まだ生え残っているところも多い状態でした。眉毛は目立つ部分なので、左右非対称というのは変な状態です。両方とも抜けたほうが、まだ違和感が少なかったのかもしれません。
後頭部や側頭部も、虫食い状の脱毛が進み、病的な見た目のままです。

家に閉じこもりがちでした。
大学に出て多くの人目に晒されることも嫌になり、講義にもほとんど行かなくなりました。それまで通っていた講義も含めて、試験のほとんど全てを欠席し、多くの単位を落としました。
普通の人が50とか60とか単位を取る中で、十数個の単位しかありませんでした。
だんだん、自暴自棄になっていました。

その時、私はこんなことを考えていました。

「本来の世界」に戻りたい

自分にとっては外見を取り戻すことが最優先で、大学の単位とか卒業なんて2の次、3の次だ。そんなの、どうでもいい。
脱毛症が完治するまでは、本来の世界ではないのだ。今は、仮の世界に飛ばされてしまったようなものだ。本来の世界に戻ることができれば、元通りに学業や趣味などを充実させればいい。まずは、本来の世界に戻ることこそが最優先だ。

こんな風に考えていたのです。
やや自分勝手な二元論を作り、今住んでいる世界(仮の世界)に背をそむけていたのです。

でも、高校時代の友人が真顔で助言してくれたように、「本来の世界」にいつ戻れるかは分からないし、永遠に戻れないかもしれないのです。
であれば、飛ばされてしまった「仮の世界」を受け入れて、ここでの生活を始めていかないと、一生を棒に振ってしまうことになります。

受け入れたくない現実。
でも、そろそろ現実を受け入れなくてはいけないという諦念。
このはざまを行ったり来たりしていました。

幸いなことに、体は健康そのものでした。
それに、何人かのよき友人に恵まれていました。両親も含めて、自分をサポートしてくれる人には恵まれていたのだと思います。

そんな中で、この仮の世界を受け入れるために、自分の中での信条をつくることにしました。
その信条の中でも、最大の柱となったのが、次に説明する考え方です。

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