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「コロナ危機」下にある、ベルリン暮らし(1)


2020年の1〜2月、ドイツ、ベルリンでのコロナ関連のメディア報道や、私が見聞きした話をまとめています。  (追加:南ドイツ、ミュンヘン郊外に住む知人の体験)


新型コロナウイルスをめぐり、ドイツ、ベルリンでも様々な政策が行われ、情報をアップデートしていくのが難しい状況でもあります。
何がいつ起こったか、どんな決断が下されたか?
自分のツィッターなども見返し、箇条書きにして、振り返ってみます。

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」というのがちらほらドイツでも報道され始めたのは1月中頃か。ドイツやベルリンではコロナの話は「対岸の火事」。「中国から来たウイルス」として、アジア系の見た目を持つ人への差別行為のニュースが報道されるように。
ちなみに、私自身はベルリンでコロナに関して、差別的なことを言われたりしたのは4月に入ってからですが、南ドイツ、ミュンヘン郊外に住んでいる友人は、2月前半からいろいろな差別にあっていたとのこと。簡単に地域差や気風の差ともいえませんが、南ドイツの方が感染者が実際に出ていて、欧州で最も早く感染者が広がったイタリアと国境を接していたこともあって、ピリピリしていました。ただ、どんな状況であれ、差別していいと言うことではありません。


●1月27日
ドイツ初の、陽性の感染者が出る。南ドイツ、バイエルン州、Starnberg。感染経路ははっきりしていた。
ベルリン映画祭(2月20〜3月1日)の事前試写会に行ったり。周囲ではコロナの話題はゼロ。差別の話もあまり聞かないけれど、アジア系の見た目をもつ人間としては、なんとなく外で咳をしたりするのが憚られる感じはある。

●1月29日
「BildBlog」で、ドイツ大衆紙のBild紙ほかの、不安(と人種差別)煽る記事が紹介され、批判される。
「気をつけて、でもパニックは起こさないで!」という見出しに、アジア系の女性がマスクをしている写真をレイアウト。
「中国からの小包を受け取るのは危険か?」
「連邦軍がドイツ人を悪疫ゾーンから救出!」など。

●1月31日
ベルリンで中国人女性に女性二人が襲いかかり、人種差別的発言をし、唾を吐き殴るという事件が起こった。午後4時頃、SバーンBeusselstr駅付近。記事に書かれた「コロナウイルスへの不安がきっかけかどうか不明」という文章に、怒りがこみ上げてくる。ウイルスが怖いとしたらそもそも触らないし、人種差別は、どんな理由があったとしても許されない。「コロナウイルスに便乗した人種差別的犯罪」ときちんと書いてほしい。

●2月1日
独DER SPIEGEL誌が「Made in China」という見出しで、防護服とマスクを身に付けた人の写真をカバーに採用。

●2月2日
アイゼンヒュッテンシュタットへ、東ドイツデザインxバウハウスの展覧会を見にいく。映画「僕たちは希望という名の列車に乗った」の舞台にもなった場所、色々ロケ地を訪ねたりもして楽しい1日だった。

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●2月4日
2月の出張がバイエルン方面だと友達に言ったら「バイエルンはいま、(コロナ)危ないんじゃない」と言われる。南の方で少し発症例があるけれど、ベルリンはまだ大丈夫、という感じ。

南ドイツ、ミュンヘン郊外に住む日本人の友人Sさん:
2月前半、3日に1回のペースで差別的な扱いを受ける(場所は駅前)
- 小学校低学年の息子が高学年のグループにジリジロ見つめられ通りすがりにコロナと言っていたのが聞こえた
- 道端で初老の男性に「どっか行け!」と罵られる
- 通りすがりにおばさんに睨みつけられ、当て付けのようにゴホゴホ咳をされる(明らかに演技)
- 買い物に行こうと子供と歩いていると、後ろから来た家族に警戒され思いっきり避けられる(わざわざ反対に歩道まで渡って避け、私達を追い抜かしたらまた戻る)

●2月5日
日本のダイアモンドプリンセス号が乗客の下船を許可せず(2月3日)、船の中で14日間の隔離生活を余儀なくされるーという話がドイツでも報道されている。でも、あくまでもまだ「遠い国の話」である。
日本からの取材班がドイツに入れてもらえるか?不安もあったが、特に問題もなくスムーズに入国できた。

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●2月6日
ドイツ自由民主党(FDP)が、右派ポピュリスト政党AfDの中の極右派を担うビョルン・ヘッケらからの支持を受けて、チューリンゲン州首相が誕生した、というニュースに震撼。「AFDP」と叩かれ、ドイツ各地でデモが。写真は、ベルリンのFDP本部の前。FDPの党カラーの風船にAfDのロゴが描かれている。これまではタブーだった、極右AfDと組むー をドイツの既存政党がやぶった歴史的な瞬間。ドイツ中がこのニュースの話をしている感じ。

●2月9日
ハリケーン上陸。ドイツ鉄道がストップ
ドイツの気象庁が Segelohren(帆のような大きな耳)を持ってる人は外出しないように!と注意を喚起! (虚構新聞)


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●2月13日
上の写真はフランクフルトのシュテーデル美術館で開催中のゴッホの展覧会。16日に終わる展覧会の会場は大混雑で、落ち着いて絵を観賞できるような状態ではない。写真を改めて見返してみると、地下の会場にこんなに人が入っているのは感染が……と考えてしまうが、この時は自分も何も思わなかったし、美術館も考えていなかったと思う。

●2月14日 バレンタインデーなんてありましたね…

●2月16日
南部ドイツ、バイエルンのノイシュヴァンシュタイン城へ。いつもは中国系の団体客でいっぱいだが、ツアーのキャンセルが進んでいて、個人旅行客が少しいるくらい、といった印象。お城を訪れたドイツ観光客が「いまなら空いていると聞いたから来た」と言ってた。周辺のホテルの人に、ツアー客で回している大型ホテルは経営が大変だなんて話を聞く。

●2月19日
西部ドイツ、ハーナウでシシャ(水タバコ)のバーが襲われ、(移民の背景を持つ)9人が殺された。犯人は自宅に戻って母を殺し、自殺。事件を起こす前にネット上にマニフェストをアップしていたというが、それによれば人種差別的モチーフが背景にあるという。
しかし、なぜシシャバーが狙われたのか?ドイツの右派ポピュリスト政党AfDはここ数ヶ月、シシャバーを(外国人や移民による)犯罪の温床とみなして叩いていたという話を聞く。

この事件で新鮮だったのは、ある時から、犠牲者、被害者の人たちを「移民の背景を持つ人たち」と括らなくなったことだ。人種差別の根本にあるのは一人一人と向き合わず、見た目や宗教、国で括ってしまうことにあると思う。難民サポートをしている人の取材でも、意識的にきちんと、全員の名前を呼んでいると感じた。

(その後、3月28日の南ドイツ新聞の発表によれば、連邦刑事庁BKAが、「極右的な犯罪だが犯人は極右ではない、人種差別が犯人の主な動機ではない」と決めたという。???)


●2月20日
ベルリン映画祭がスタート。3月1日まで。大勢の人が映画館に集まる、ということやコロナに関しての言及はなし。前日の、ハーナウでの事件のための黙祷が行われた。

2月18日付けの独Tagesspiegel紙で、中国からの映画関係者60名が渡独をキャンセルしたとの報道あり。21万人中の60名こともあってあまり大きな報道はなし……。トイレには除菌剤を置くとの発表。イタリアの話は出てなかった。)

カーニバルがスタート。ケルン、デュッセルドルフ、マインツ、フランクフルトなど、西部ドイツが盛り上がるカーニバル。中部ドイツ、チューリンゲン州、ブロッケン山にいたので「毎年、カーニバルの時期は西ドイツの地元にいたくないから、ハルツ地方に行くんだよ」という、カーニバル難民Karnevalsflüchtlingeに多く出会う。

南ドイツ、ミュンヘン郊外に住む日本人の友人Sさん:
北イタリアでの感染者が増え、都市封鎖もあり。
家族がインスブルックに滞在。イタリア発ミュンヘン着の電車は25日は運行を再開していたが(オーストリアが再度国境開く)、北イタリア乗客を多数乗せてミュンヘンまで走る電車はリスクが高いと判断し、電車のチケットを破棄し、インスブルック発の便に買い換える。

●2月23日
北イタリア、ヴェネツィアで感染が広がり、2人が死亡したことから、カーニバルが早めに終了することに。(〜2月25日の予定)

●2月25日
オランダ国境の街、ハインスベルクで、初の感染経路が不明の陽性患者が出る。これが、ドイツでの大規模感染の分岐点だったと、後に言われている。ハインスベルクの感染者は4月7日の時点で1455名、死者43名。人口4万人の町でこの規模の感染は異例だ。

●2月26日
ベルリンにある、欧州最大級の大学病院シャリテのウイルス学研究所長クリスティアン ・ドロステン氏による、「コロナ・アップデート」というポッドキャストが、公共放送NDRで始まる。
ウイルスの専門家であり、政府のアドバイザーでもある人が
「現時点でわかっていること、
その情報をもとに現時点で行われていること
広まっている誤情報の指摘
今後の問題点」
などをアップデートしてくれるこのポッドキャスト。
専門家でなくてもわかりやすい噛み砕いた語り口で、視聴者からの質問にも答え、また、自分が間違っていたことは次に訂正もし、安易にいろいろなことを決めつけることもない。
目に見えない、ウイルスというものに対して
何が正しいのか、何をすべきか?が分からない不安を、専門家の正しい知識が少し解消してくれる。

3月から、ドイツで最も聞かれているポッドキャストの1位を独占。


●2月28日
感染者が倍増。(前日まで26人だったのが28日に55人に。参照:独Morgenpost紙のコロナ地図、図表)特に西部ドイツ、ノルトライン・ヴェストファーレン州が多い。
ドイツでの日本からの入国制限、渡航制限はなし。
日本(中国、韓国、イタリア、イラン)からの入国にあたり、新たに所在追跡・健康質問票(Aussteigekarte/Public Health Passenger locator Form)への記入が義務づけられたという連絡
が、外務省からあり。
デュッセルドルフ空港で、はじめて、マスクをしたドイツ人を目撃。
日本から臨時休校の要請があったという話を読む。

中部ドイツから戻って、3月1日からのスイス行きの準備。スイスからは入国制限の連絡はなし。
殺菌剤とか消毒液とかが、ドラッグストアで売り切れているのを見る。
ベルリン映画祭の上映を見る。交通事故で障害を負った兄と共に生きる弟のドキュメンタリー映画「Bruderliebe」。よかった。
映画館ではトイレに行って手を洗い、家に戻ってきて手洗い。
Hamsterkäufe(買い溜め ハムスター買い)の話題がSNSなどに出ていて、ドライバーさんも、パスタとトマト缶を買いにいかなければと言っている。
近所のスーパーは特に何も売り切れていない。

●2月29日
閏年。
ベルリン映画祭の上映を見る。「Und der Zukunft zugewandt」第二次世界大戦後、無実にもかかわらずソ連軍の捕虜になっていたが、東ドイツに戻ってくることになったドイツ人女性たちの話。Alexandra Maria Laraがすてき。

あらためて振り返ってみると、2月は「ドイツに住むそとのひと」にとって震えるようなことが色々起こっていたのだなあと思う。自分が新型コロナウイルスに感染するとかよりも、日本から断片できに入ってくる状況に右往左往し、ドイツ国内では、アジア人差別を受けるのではないかということが不安でしかたなかった。特に、日本人数名のグループで小都市や田舎にいたのでその不安は大きかったが、ありがたいことに何もなかった。そもそも、コロナの話題を振られることもほとんどなく、楽しく旅(仕事)をした。

怒涛の3月編に続きます!

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