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②じぶんと農業と母のバランス

子育てが忙しい時期は、じぶんに向き合う時間が思うように取れず、母親と仕事とじぶんのバランスを取るのが難しい、そんな悩みを抱えることが、誰にでもあるのではないでしょうか。そうした疑問を、農家であり、子育て真っ最中の3人に投げかけてみました。


1人目は、柿やブドウ栽培を営みながら、「farmer's kitchen HIMARINO」を主宰し、野菜のオイル漬けや果物のコンポートなどをつくり、販売している谷岡真衣さん


2人目は小規模循環型有機農業を実践するために内子町に移住し、「天然酵房やまそだち」の屋号で野菜や卵を販売。フリースクール「クローバー」をはじめた大崎桃子さん


3人目はスイカや野菜を栽培しながら、マルチワークを楽しみ、ゆくゆくはをご主人の親御さんの実家に農家民宿をオープンさせるために準備中である「FARMSTAY KAERU 農家民宿かえる」の泉綾子さん


多忙な中で好きなことを実現している皆さんですが、農家であり、母親であり、じぶんという顔を持ち、その間で揺れることもあります。みなさんにとっての「じぶん」に焦点を当てて聞いてみました。

(聞き手:Mai(そとで、ここで)、場所:旧泉邸の庭)

じぶんの時間、持てていますか?


――農業と母と自分、すべてこなしている皆さんの中で、それぞれがどんなバランスなのでしょうか。

大崎さん:まあこれは、私の現状を変えたいという願望ね。

農:母:じぶん=50:45:5

じぶんは5です。

そして理想のバランスは10:10:80(笑)。



泉さん:
真逆ですね! この質問、私も難しかったです。なんかでもパーセンテージでいうと、じぶん100%の中に、農と母のいろいろがある感じかな。難しいな。


――それは理想な状態ですか?

泉さん:もうそういうふうに生きようって決めて、ここに来たって感じですかね。なんか大阪にいた時は、それができず、うつうつと悩むこともあった。それこそ仕事場と保育園と家の往復みたいな感じだったから、私、なにしてるんやろうな、私はなにがしたかったんだっけなあって思うことも結構あって。


じゃあ、私が今したいことって何やろう、それを片っ端からしていく生活ってどんなんだろう。それをやるためにここに来たので、今、それを体現しようとじぶんで模索している途中という感じですかね。



谷岡さん:農:母:じぶんの割合は、私も泉さんに近いのかな。割とやりたいことを片っ端からやっていってる感じとか。そこで、壁があり、なんとかしないといけないみたいな感じで今まで来た。


その壁が、谷岡家では農で、今、直面してるのは私の実家のタオル工場の方もちょっと手伝わないといけないとか。なんかそれをすることでスキルが上がったり、価値が上がるんだったらええかなみたいな感じで、どんどんいろんなことをやってきました。


でもそのバランスがちょっと今崩れているからいかんなっていう悩みはある。子育ても、やっぱり壁がその都度あって、自分がイライラしているのを子どもにぶつけてしまった時期も流れの中であった。ああ、いかんなっていうのはすごい思っていて。


でもまあ、子育ても含めて、結局じぶんがやりたくてやっていることかなあとは思うんです。農作業も、一緒に楽しんじゃえ! みたいな感じで、農作業の合間にカレーをつくって子どもたちと食べたりみたいなこともしてるから。だから、割合でというのはあまり思いつかないかな。



泉さん:なんか難しいなあ。考えさせられる質問でした。


大崎さん:そうよね。


谷岡さん:難しい。そうやなあ。


じぶんの時間ができたら、なにをする?


――みなさんにとって「じぶん」とは、どのように捉えていますか。


大崎さん:今までじぶんと向き合うことができていなかったから、じぶんが5%になっているんだけど。そうだね、結局、農業と母っていうのは途中から来たものだから。


私が29歳の時に移住してきて、その前に、1年間、有機農業の研修に行ったところから、「農」が急にはじまったのよね。それまでサラリーマンっていうか、そういう仕事をしていて、田舎暮らしに憧れて。だから28歳ぐらいの時から急に「農」が自分の人生に入ってきた。そして、母というのは、33歳になってはじめて母になった。それとじぶんっていうのは、生まれた時から今までの経験がずっと積み重なってできているもので。


就農してから、生活をつくるために、必死で一から新しいことをはじめて。そこから子どもができて、2人目が生まれたら、うわ2人目こんなんなんや、3人目こんなんなんやみたいな。そういう、じぶんと農業とまたお母さんっていう中で、必死でやってきた感じがある


もちろんじぶんのやりたいことをずっとやってきた気はするんだけど、でも改めて、私、ああじぶんと向き合ってないっていうか、じぶんの時間って言われると、何をしたらいいんだろうっていうか。



谷岡さん:それはあるね。なんか、なにもなくなったら、なにをしたらいいのか。今はないかなと思ってしまう。


泉さん:やり尽くした的な?


大崎さん:いや、そうではないかな。


谷岡さん:その今が必死すぎて。


大崎さん:そうだね。もちろん、やりたくてはじめるんだけど、途中からはそれに捉われちゃって。それで、ふと、なんで私こんなに忙しくしてるんだ? みたいな。本当に私がやりたいことからちょっと外れているかなみたいな瞬間があったりしない? 違う?



谷岡さん:私、分からんけどね、急に、お金と時間を与えられたら、なにをしようかってなると思う。その、どっか行こうじゃなくて、結局ぶどうのことが気になったりとか、柿のことが気になったりとか


大崎さん:あ、分かる! まあ、それもやりたいんだけどね。


谷岡さん:そうそう、そうなんよね。柿の剪定をしないといけないのに、こんな遊んでいていいんだろうかとか思ってしまうから、どっぷり「農」に染まっているんやなと思ったりはするけど。


泉さん:ほんまや、すごい。


大崎さん:そうよね、そうそう。


谷岡さん:なんか、つくってるものが、我が子みたいな感じに思えてくる


大崎さん:そうよね。そうそう。



谷岡さん:今は子育てがあるけど、あと5年とか10年したら、子育てがなくなるわけやん。そうなった時に、じぶんのあり方みたいなのを考えていないといかんなとか、すごい思う。


大崎さん:それはある!


谷岡さん:長女が12歳なんで、中学は、まあ、家から通ってくれるやろうな。高校はもしかしたら寮に入りたいって言うかもしれんなと思ったら、一緒にいる時間があと3年しかないなとか思ったり。そして、下の男の子らも卒業していなくなったタイミングで、大人3人になった時の、なんていうか、どんなになるんやろうみたいな不安感がある(笑)


大崎さん:そうよね。農業をはじめて、子どもが生まれて、じぶんの軸というか、やっぱりこうブレてくるって言ったら変だけど。


谷岡さん:引っ張られるっていうかね。そっちにね。


大崎さん:そうそう。すごい重さね、重点がやっぱり子どもの方に行っているから。で、今、1年生になって、だいぶ楽になってきて、結局、誰々のお母さんではない私って何者? みたいな時点です。



じぶんに向きあえていないのは……


泉さん:確かに、そうですよね。いや、でもやっぱりすごいなと思いました。農業にそこまで、向き合っている。逆に言えば、じぶんに向きあえてないってことは、ほかのことに向きあえているってことだから。それだけ子どもだったり、育児、育てるということだったり、その野菜に対してとかに向き合えているのがすごいなと思って。


私は、ほんまに、今は、じぶんをどう育てるかで、いっぱいいっぱいっていう感じ。10年ちょっと大阪で仕事をしていて、結構できる気になってたけど、それでこっちに来たら、やっぱり私って何者っていうのはすごいあった。


なので、ほんまにじぶんを大事にしよう! じぶんの声を聞こうみたいな感じのテーマを持って、ここに来たっていう感じ。


大崎さん:へーっ、先を行ってる!



泉さん:全然、全然。なんかそういう意味では、スイカも私の二の次だし。結構ね、私が楽しいことを大事に、じぶんのできる範囲でやろうみたいな感じ。


大崎さん:じぶん軸でね。


泉さん:だからいっぱい、いろんなことができる。


大崎さん:うーん、そうかもしれないね。


泉さん:確かに、それに全集中注いでしまうと、たとえば和紙の仕事に120%、スイカに120%ってやっていたら、やっぱりもたないから。いいとこ取りじゃないけど、ちょうどいい塩梅のところで両立できたら1番いいなって思ってやっている。まあずるいっていうか。


だから、お二人のその向き合い方がすごい真剣で尊敬するなって思って。そこまでやりたいって思えることがあったら、私もそうなるかもしれないですよね。じぶんのことは、放り出してでも。でもそうなったら、それが「じぶん」ですけどね。


大崎さん:そうよね。


泉さん:それがじぶんとして確立できることになるかもしれないですね。それはそれで素敵。ここにいたら、いつか出会えるかもしれないです。



「仕事」と「母親」と「じぶん」のバランス。あなたならば、どのように答えるでしょうか。 「過去に悩んだ経験を踏まえて、じぶんを大切にしていきたい」「今、ちょうど、じぶんの在り方を考えているところ」そんな率直な気持ちを語っていただきました。

ライフステージや状況が変化していく中で、忙しいと、ついつい、じぶんを後回しにしてしまいがち。工夫して時間をつくったり、時には誰かに頼ってみることで、時々は見つめ直す時間を持ってみませんか。 次回は母として、子どもたちに伝えたいことを聞いていきます。


Coordinator Mai Oyamada
Writer Mami Niida
Photo Ko-ki Karasudani


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farmer's kitchen HIMARINO

子どもたちに野菜や果物の本当のおいしさを伝えたい、仕事や子育てに忙しいお母さんの味方になりたい。そんな想いを込めて、愛媛県産や自家製の野菜・果物を瓶詰めに。お取り寄せはオンラインストアを。

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天然酵房やまそだち

小規模循環型有機農業を営み、県内外に野菜や卵、加工品を届けている。旬の畑の情報は、Facebookを。大崎さんが開催しているフリースクール「クローバー」の情報はこちら

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FARMSTAY KAERU 農家民宿かえる

旧御祓小学校の教室を借りた、泉さんのものづくりの拠点。集めた素材や和紙を使ったアクセサリー、雑貨などが並ぶ。

住所:愛媛県喜多郡内子町只海甲456 コミュニティースペースみそぎの里2F

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