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わたしが「ここ」で暮らすということ③

Case 3 とおん舎 わけみほさん

地域の人が残した風景に惹かれて五十崎へ

内子町の伝統工芸・大洲和紙を使ったブローチを制作している、ハンドメイド作家「とおん舎」のわけみほさん。昨年の11月、みそぎの里の元保健室に、家族で「ワケケケ企画」をオープンさせました。ご主人が整体の施術をしたり、わけさんが「とおん舎」のアトリエとして使っています。



富山出身のわけさんですが、愛媛出身のご主人の仕事の関係で2006年に愛媛に移り住むことになりました。最初は大洲市のアパート暮らしでしたが、子どもが二人になり手狭になった頃、家を建てることに。大洲市や近隣の内子町の土地を探したところ、内子町五十崎(いかざき)の土地に出会いました。


「小田川の景色がすごい開けていて、山と川があり、橋が真ん中にかかっていて、その風景がすごいいいなって思って。で、近くに龍王公園っていう、小さい山もあるんですよ。すごく気に入って、じゃあ、ここでお家を建てようっていうことで、10年くらい前に内子に来ました」


「あとから聞いたんですけど、あの川は護岸工事で、コンクリートで埋め立てる予定があったところ、住民の人が自然のままで残そうという活動をされたらしくて。そのおかげで、今も魚や鳥がたくさんいるので、この景色を残してくれてありがとうって思いますね」


ここに来たことで、和紙のブローチが生まれる

もともと手づくりが好きだったわけさん。保育園のママ友だちとハンドメイドサークルを立ち上げて活動していました。引っ越し先の五十崎といえば、大洲和紙の産地。ここでの和紙との出会いがわけさんの作品にも影響します。


「ここは和紙の産地で天神産紙工場があるのはもともと知っていたんです。その直売所で、いろんな和紙の端っことか端切れが集まっているセットを見つけて、子どもたちと家で何かつくろうかと思って買ってみたんです」


「それをちぎったり、何かに貼ったりしている中で、ちょっと可愛いのができたんですよ。可愛いのができたから、ちょっと持ち運びたい、何かアクセサリーになったらいいなって考えていたら、ブローチを思いついて。そこから和紙でつくるブローチを販売するようになりました」


和紙の風合いを活かしたブローチは、見ていてほっこりと心和むものばかり。食べものや動物、道具など、バラエティも豊富で、あなたの好きなモチーフにもきっと出会えるのではないでしょうか。


「最初は、私が好きなものをつくっていたんですよ。例えば、パンとか鳥とかお花だったり。それをつけていた人が、なんか話しかけられることがよくあるって言っていて、あれ、それってちょっとしたコミュニケーションのはじまりになっているのかなって気付いたんです。例えば、それ何でできているのとか、パンだったらパン好きなのとか、本が好きなのとか」


「そういうふうに意識した時に、ブローチって自分の好きなものをさり気なくアピールできたりするのかなって思って。なかなかコミュニケーションが苦手っていう人もいると思うので、これは、地元の和紙でつくっているんだよとか、なにか話のきっかけになったら嬉しいですね」


和紙ブローチがきっかけとなるコミュニケーション。身につける楽しみから、一緒につくる楽しみへ、新たなチャレンジがはじまっています。


「ちぎって貼ったり和紙で楽しむクラフトのオンラインクラスの開講を考えています。本当は対面でワークショップをやりたかったんですけど、なかなか集まるのが難しいので」

「障子とかが少なくなってきたので、今の子どもってちぎるという体験があまりないと思うんですよ。ちぎった時にできる和紙独特の繊維とか、こう柔らかくて強い和紙の特性、洋紙にはない質感、そういうのをちょっと広めたいなと思って


自然はインスピレーションの宝庫

最初につくったブローチのモチーフは木。ここに住む決め手も多様な自然がある風景であったように、わけさんの日々の眼差しの先には自然があり、それが創作にもつながっています。


「なんかやっぱり、自然から、インスピレーションをすごく受けますね。散歩もすごく好きで、その中で子どもたちと一緒に拾ったりするのが好きなんですよ。綿毛を見たり、木の実を拾ったり。そういう自然物の美しさというか、造形の美しさっていうのが、色とか形とか、その季節それぞれの楽しみがあって、もう見ていて飽きないですね」

「ずっと、その自然の美しさに近づきたいけど、そこまでの美しさが出せないみたいな。人間ってそういう自然に近づきたいけど、もがいているのかなって、なんかそんな感じがあります。だから、つくるのが楽しいのかもしれませんね」


インスピレーションの源となっている散歩からは、『ののはなメモ』という、小さな植物図鑑が生まれています。



「子どもに「この花ってなんて名前?」って聞かれたときに、もう一緒くたに草とか、そんな知識しかなく、全然花の名前を知らないなって気づいて。調べてもすぐ忘れてしまうので、お花のイラストと名前、特徴をメモしていったんですよ。それをどんどんSNSにアップしていたら、1冊の本にしてくださいっていう声があって」

「やっぱり、名前とか特徴を知ると、ああ今日はこの花がここで咲いているとか、散歩の彩度がすごく上がるというか、楽しくて。今はここにこれが咲いていて、この季節は、もう少しで野イチゴが咲くなとか、四季の楽しみが分かるようになって、楽しみスポットがどんどん増えていく。散歩もいつもとは違うところに行こうかなって思ったり。で、今日はここでこれを見つけたから、次、また花が咲いて実がなった頃に見に来ようとか、なんかそんな風にちょっとずつ、散歩の中で楽しみが増えていくんですよね。だから、自分が本当に楽しいので、子どもが大きくなった今も、どんどん知りたくて調べています」


そとを歩けば、広がる自然のワンダーランド。そこで出会う生きものたちのことを知れば、世界がもっと鮮やかに見える、そんなここで暮らすそとの愉しみ方を教えてくれたわけさん。今日も、心惹かれる何かを見つけては、拾い上げ、そこから新たなクリエイティブが生まれているのかもしれません。


とおん舎

アトリエ住所:愛媛県喜多郡内子町只海甲456 コミュニティスペースみそぎの里1F

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Coordinator Mai Oyamada
Writer Mami Niida
Photo Ko-ki Karasudani