③母として、子どもたちに伝えたいこと
子育ての真っ只中にいると、子どもたちに伝えたいことはたくさんあっても、普段、なかなか口にする機会がないかもしれません。母親として子どもたちの成長を見守りながら思うことを聞いていきます。
1人目は、柿やブドウ栽培を営みながら、「farmer's kitchen HIMARINO」を主宰し、野菜のオイル漬けや果物のコンポートなどをつくり、販売している谷岡真衣さん。
2人目は小規模循環型有機農業を実践するために内子町に移住し、「天然酵房やまそだち」の屋号で野菜や卵を販売。フリースクール「クローバー」をはじめた大崎桃子さん。
3人目はスイカや野菜を栽培しながら、マルチワークを楽しみ、ゆくゆくはをご主人の親御さんの実家に農家民宿をオープンさせるために準備中である「FARMSTAY KAERU 農家民宿かえる」の泉綾子さん。
農家であり、母親であり、自分という顔を持つ3人に、最後は、母親として、子どもたちへのメッセージを語っていただきました。
(聞き手:Mai(そとで、ここで)、場所:旧泉邸の庭)
私たちが子どもたちに伝えたいこと
――自分の子どもや、これからもここで過ごす子どもたちに伝えたいことはありますか?
泉さん:私ね、楽しく生きるのが、じぶんが楽しむのが1番かなって。それで楽しむところを子どもたちにも見せたいと思ってる。大阪で、結構しんどかった時に子どもに当たることも多かったし。
谷岡さん:そうなんやね。
泉さん:そう、自分のやりたいことが、なにもできてない、じぶんは何のために生きているんだみたいな、ふつふつとしたものが、たぶん子どもに対しても出ていて。
本来1人だったら、どこへでも旅行に行けるし、どんな仕事でもできるし、やりたいと思ったらフットワーク軽く飛んでいけるのに、なんかこの子がいたらちょっと制限されちゃうみたいに思うじぶんがどこかにいたんですね。いや、そんなふうに子どものせいにしたくないと思って。子どもがいてもいいじゃん、別に。どこでも行けるじゃんって考えを変えて、それから海外留学に行ったんですよ、私。
大崎さん:子どもが生まれてから?
泉さん:そう。子どもが3歳の時に連れて行ったんですよ。フィリピンのセブ島が親子留学として安く行けたから。
大崎さん:親子留学!
泉さん:行ってみたら、結構そういうママさんがたくさんいて、あ、できるやんって。別に子連れでも何でもじぶんのやりたいことをやろうと思ったら、やったらできるやんってなった。あ、そっか、できないと思い込んでいただけか。もう、子どものせいにしないで済むみたいな。
大崎さん:仕事を辞めてから?
泉さん:そう、仕事を辞めていった。私はなにがやりたいんだっけと考えて。そうだ留学したかったんだ、海外に行きたかったんだってなって、子連れで行けるのがないか調べて。
大崎さん:へーっ、そんなこと、思いつかなかった。語学留学?
泉さん:そう。でもお金の関係で3ヶ月で終わっちゃったから、帰ってくるしかなかったけど。なんかほんまやったらそこでインターンとかで働きながら暮らすみたいなことができないかなっていろいろ探したけど、できなかったので、ならば日本でなにかするか、みたいな感じで帰ってきて。で、それからたまたま、拠点を愛媛に移しただけの話なんだけど。
谷岡さん:すごいよね。
大崎さん:ねえ、すごいね。面白いな。
泉さん:それぐらい、じぶんを優先しないとって思ったり。
大崎さん:仕事を辞めたのは、何がきっかけで?
泉さん:なんやったかなあ。まあ、10年働いて、産休・育休が明けて復帰したけど、やっぱり前と同じようには働けないんですよね。会社的にはサービス業だから、土日行けませんとか、遅番入れませんってなると、ちょっと正社員では雇えないって言われて。まあそれはそうだよなってなったけど。でも子どもがいてもできる仕事ってあるんじゃない? それを探すのもありだなって思えた。
大崎さん:本当だね。そうなんだよね。みんな働きすぎなんだよね。
泉さん:そうそう、なんかいろんな可能性が、ほかにある気がするのに。
大崎さん:うんうん。確かに。
泉さん:なんかキーッ! てなりながら、その姿を子どもに見せながら生きるのではなくて、なんかあれもこれもやって、キラキラしてワクワクしているお母さんの方が絶対楽しいだろうなと思ったから、もっと自分をワクワクさせようって、その姿を子どもに見せようみたいな感じ。
谷岡さん:それで泉さんは旦那さんを残して、こっち(旦那さんの実家)に来たのがすごいな。その発想がなくて。
大崎さん:ないよね。すごいよね。
泉さん:でも、本来は、私の中で人生の最優先事項は家族だったけれど、彼には彼の夢があって、やりたいことがほかにもあるから、それをやめろとは言えなかった。じゃあ2番目から行こうみたいな感じ。
谷岡さん:私の場合、旦那さんから実家に帰るって言われた時、帰りたくないって言ったんよ。
大崎さん:結婚してから?
谷岡さん:そう。結婚して、夫婦で松山市に住んでいた。勤めてた会社が個人経営の会社だったから、産休というシステムがなくて、一旦、離職してくれっていう会社やって。離職して1人目を産んで、1年ちょっとぐらいで、もう2人目がお腹にいたから。で、2人目を妊娠してた時に、旦那さんのお父さんが亡くなって帰るってなって。
で、じぶんとしては帰りたくない。松山に住んでいたし、仕事も復帰したかったし、子育てをしているけど、もっとやりたいことがじぶんにあるんじゃないかな、みたいな時間の中にいたから。でも、旦那さんと離れて、結婚したまま私は松山に残るっていう選択肢はなかったので、ついて帰ってきたんだけど、泉さんの話を聞いてると、それもありやったんかなと思ったりする。
まあ、でも来てよかったよ。農業の事も知って、まあ、この生活も知って。私は実家がそんなに都会じゃなかったから、ちょっと田舎暮らしも知りつつ、都会に憧れて出て、まだその憧れが続いてた時に田舎に帰ったみたいな。
――谷岡さんは、お子さんや次世代の人に伝えたいこととか、彼らのために、今、していることはありますか?
谷岡さん:私、田舎暮らしって、大人になって、好きでする人はもちろんいると思う。でも、ここの子どもたちは、どっちかって言ったら、やっぱり都会に出ていきたいって思ったり、都会の方が便利だからそっちに住みつつみたいな感じになるかもしれない。だから、子どもの時には田舎をがっつり楽しんでもらいたいなって思って、ブランコをつくってみたりとか、外でごはんを食べたりとか、一緒に今を楽しむようにしています。それこそ、火を燃やすのも、都会では気軽にできないよね。
大崎さん:うん。できないね。煙が上がったら、やばいみたいな。
谷岡さん:なんか、そんなのは、やりたいなって。その体験としてあったらいいなって思ってる。
大崎さん:今回のインタビューでね、改めて内子ってすごくいいところだなって思って。豊かな自然があって、全てがここで成り立っているのね。野菜やお米、果樹、椎茸、栗……、そういう食べ物も豊富だし、まあ山菜もそうだし。で、あとはまちの機能も、病院だったり、歯医者さんやお店とかそういうものが揃っている、すごくいいところなんだよね。だけど、子どもはその中にいるから、豊かさが分からなくて、それで、外の世界ばかりに憧れていたりするところがあるのね。
私がここに来た時に、どこに移住しようかっていう選定基準は、昔ながらの暮らしや文化が残る中山間地っていう条件で探したのね。で、内子っていうのは、昔ながらの暮らしの文化がまだギリギリって言ったら変だけど、残っているところだと思う。でも、それが失われつつあることが結構あって。
で、おばあちゃんたちがやってきた、大豆を干すのも稲も藁で縛ったりとか、稲木で干したりとか、昔の道具を使ったやり方がどんどんなくなってしまっていることをなくしたくないっていうか、やっぱりいいところは残していきたいっていうのがあって。
文化って言ったら、内子座でやるような、狂言とかそういうのももちろん文化だけど、おばあちゃんおじいちゃんが縄をなったりとかね、火を焚いて干し芋をつくったり、味噌をつくったりとかね、そういう暮らしの知恵も文化だと思う。だから、そういう暮らしの中の文化を残して、伝えていきたいです。
このまちの未来に想うこと
――先ほどの子どもたちに伝えたいことにもつながりますが、みなさんのお子さんが大きくなって、仕事をするようになる頃に、この内子町がどのようなまちになっていたらいいなというイメージがありますか?
谷岡さん:私、子どもが3人いるんですけど、それぞれのやりたいことがあるんだったらやったらいいと思うんですよ。娘は獣医になりたい夢があるんですけど、なりたいものは、やっぱり追いかけてほしいし、目標があるんだったら、その目標を追求してほしい。挫折するかもだけど、じぶんのできることは精一杯してほしいなって思っている。
でも、3人出て行くんだったら、町外から町内に3人呼べるようにしたい。なんかそういう思いはあって。自分がやっている農作業や加工品に魅力を感じて、一緒にやりたいとか、同じようにしてみたいので教えて欲しいとか、そういう人たちがなんか入れ替わりじゃないけど、寄ってきてくれるような自分でありたいな、みたいなのはあって。それならば、出て行っても入ってくる。それをずっと繰り返していたら、人口はあまり減らないんじゃないかな。
なんか結局、自分たちの子どもに、田舎より都会に出て行けって言って今があるわけやん。ずっとそれが繋がってきて。でも、ここにも、たとえば時間の使い方とか、都会とは違う楽しみとか、絶対いいところはあるから、外に出る子どもたちには、内子町、こんないいとこよって、外で言ってもらったらいいかなと思う。
やっぱり仕事がないと人は来ないから、自分が、仕事とかやり方を伝えていければいいかな。今日、一緒に畑を見に行ってもらったけど、この畑がどんなになるのか不安な思いもあるけど、ここで雇用を生むことができて、誰かと一緒にやれたらもっと楽しいだろうなって。軌道に乗せるまではすごい大変だろうと思うけど、そういうふうになにかできたらその畑も守れるし、景色も風景も守れるし、みたいなのはちょっとあったりするんだけど、どうかな?
大崎さん:そう。私もそう思う。なんか、開放的なまちでありたいっていうか。内子がいいと思って来てくれる人たちにとっては、来て住みやすい、住み着きやすいまちであって欲しい。風通しがいいというか。
で、内子の良さは、もともとそこで生まれ育った人だけでなく、外からの目線で気づくことも多いから。お嫁さんに来た人とか、移住してきた人とか、そういう人たちが内子の良さをずっと繋いでいきながら、入れ替わり立ち替わり、内子が続いていく、内子のいいところが続いていく。で、まあ、ちょっとね、やっぱり閉鎖的なところもあるとは思うから、そういうところはどんどんこう改善して変わっていたらいいなとは思う。
谷岡さん:やっぱり田舎暮らしって、車がないと不便とか危ないなって思うところはあるから、なんかそこの部分でやっぱり出て行くみたいなとこあるけど。でも、住めば都って言い方もあれかもしれんけど、いいところよ(笑)
泉さん:本当ですね。でもみんな謙遜しますよね。なにもないとか。土地柄なのかもしれないけど、農業とか、それぞれの生業のことも、誇りに思っているかもしれないけど、あまりアピールしないかな。
谷岡さん:なんか田舎だと職業とかちょっと限られるところはある。その場合は、全然、外でやってもらったらいいし、ほかのところに羽ばたいてもいいなって。うち、割と子どもも農作業の戦力だからね。いろんな賛否両論があるけど、今は週末に手伝ってもらうのが結構当たり前になっているから、その分、子どもたちのやりたいことは応援したいかなあ。
泉さん:私も子どもには、その選択肢から選ばなくてもいいよ、今見える選択肢しかないわけじゃないからねって、ずっと言いたくて。だから、私もそういう人生を生きていきたいし、子どもが大人になった時にそういうことができるまちであってほしいなって思うの。そういう応援や見守りだったり、人の受け入れだったり。まあ行政的な支援とかもそうだけど、まずはそれを見守る、応援してくれる目とかがあればいいかなって思っていました。
これからのこと
――今後、考えていることはありますか?
大崎さん:うちの畑の野菜を使って、お昼ごはんを一緒につくったり、農作業を一緒にしたりとか、そういうことをやっていきたいと思っています。今、具体的には、最近友だちになった栄養士さんに、例えば、お母さんの妊娠期や授乳期、子どもの成長期、更年期や老年期、それぞれの人生の段階で、どんな食事をしたらいいかということを、畑に野菜を収穫に行って、で、少し軽いランチを一緒につくって、栄養のお話をしてもらうという。
泉さん:面白そう!
大崎さん:うちの畑を見て野菜を使って、私が持っていないものを他の人に頼んでやってもらう。そういういろんなコラボ企画をやっていきたいなって思っています。
谷岡さん:私は、たくさんつくってたくさん売ることに、ちょっと、憤りを感じていて。どうしてもロスが出るので、なにかできればなあと。
大崎さん:限定するとか。
泉さん:受注販売みたいな。
谷岡さん:それもだし、ほかの農家さんが育てた野菜を使った商品をつくるとか、なんかそういうこととかにも力を入れていきたいなと思ったりしている。
谷岡さん:5本セットみたいなのは一応準備しているんだけど、なんかじぶんの中でまだ迷いがあって、いっぱいつくって販売するのは、じぶんのキャパも超えて1人ではできなくなる。私も泉さんと一緒で、どちらかというと、やりたいことを全部やってしまいたいから、なんかそこだけに集中できなくて。
農業も、子どもたちのことも、加工品も、野菜セットのこともやりたいし、ちょっとずつがいいな(笑)。無理のない範囲で、ちょっとずつ、それがいいなと思って。今はゆっくりと、じぶんの時間の流れも楽しみたいなって。子どもに対しても、成長を見ていたい時期かな。
それに、今度、畑を増やすっていう話も2箇所ぐらいからあって、小さい畑だけど、じぶんの家の近くで、ちょっとやらんかっていう話をいただいて…。
大崎さん:今後、増えてくるだろうね。
谷岡さん:それと母のことがちょっと気になって、放っておけないし。多分、母のことをしっかりやらせてもらったら、義母のこともしっかり見られるかなと思うこともあって。だから、何もかも全部やる(笑)。
でも、その割合を上手に配分しながら、今はね、HIMARINOのことは、バンバン宣伝するのではなくて、まあ損がない程度に、でもやめるのは寂しいから、ゆっくり受注生産か、ちょっと待ってもらうぐらいのペースで活動できたらいいなと思っています。
――この旧泉邸も、何年後には泉さんの農家民宿になっているのですね。
泉さん:そうそう。まずは、多分、私が私の御殿をつくることに一生懸命になって、それが満たされた時にみんなにもシェアしたいって思うから、そういう流れになるだろうなと思います。
和紙の旅プランで、ここにも寄ってもらって、採れたての収穫体験とお昼の提供をしていて、そういうおもてなしも楽しいし、またぼちぼちできればなって思います。
里山に暮らす中で、今そこにあるもので楽しむこと、ここには先人が培ってきた生きる知恵、文化があること、将来はたくさんの選択肢があること、それらを母親として、子どもたちに伝えたいと願うみなさん。
大人にとっても大切なメッセージなのではないでしょうか。 耕して食べるものを育て、子どもたちを育て、じぶんのプロジェクトなどやりたいことも育てているみなさんによる火を囲むトーク。
子どもがいるから、主婦だからと、諦めることはないと背中を押してくれるお話でした。 内子町を訪れた時は、皆さんのつくる野菜や加工品を食べたり、今、ある拠点を訪れてみたりするのもオススメです。きっと元気がもらえると思います。
Coordinator Mai Oyamada
Writer Mami Niida
Photo Ko-ki Karasudani
ここに会いに行こう
farmer's kitchen HIMARINO
子どもたちに野菜や果物の本当のおいしさを伝えたい、仕事や子育てに忙しいお母さんの味方になりたい。そんな想いを込めて、愛媛県産や自家製の野菜・果物を瓶詰めに。お取り寄せはオンラインストアを。
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天然酵房やまそだち
小規模循環型有機農業を営み、県内外に野菜や卵、加工品を届けている。旬の畑の情報は、Facebookを。大崎さんが開催しているフリースクール「クローバー」の情報はこちら。
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旧御祓小学校の教室を借りた、泉さんのものづくりの拠点。集めた素材や和紙を使ったアクセサリー、雑貨などが並ぶ。
住所:愛媛県喜多郡内子町只海甲456 コミュニティースペースみそぎの里2F
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